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香ル記憶
「……とんだ無駄足だったな」
「よく言うよ。最後は何だかんだで楽しんでいたくせに。アンタは閨じゃあ人が変わるだなんて聞いてないぞ」
「君だって、甘えん坊で随分と可愛らしい誘い方をするんだな」
「な…!ふ、普段はあんなじゃ……!!…っ」
しまった。失言した。
これじゃあまるで東条に完全敗北しトロトロに溶かされ感じてしまったと言っているようなもんだ。
悔しい。こちとら本業だというのに。
男を手玉に取り、翻弄するのが自分の売りだというのに。
やはり、この男と居ると調子が狂う。
だからって嫌って訳じゃない。むしろ、心地良い。
「あそこで起きた事は夢なんだろ。無礼講、無礼講。お互い掘り返すなんてナシだ」
「ふんッ!言われなくても蒸し返す気なんてないね。俺はプロフェッショナルなんだからな」
「アレが君の演技だとしたら君はとんでもない役者になれるぞ」
ふにふにと頬を摘まれシエはムスっと不機嫌になった。
「送ろう。今日は世話をかけたな」
「ああ、気にするな……大した事じゃないさ」
***
「倶楽部・満天楼。新聞に載ってるぞ。よくもまあ、裏でこんな悪辣な事をしていたものだ」
東条はあの後、どうやら上司に報告したようであっという間に不正が出るわ出るわ。
そのくせ、見世物小屋の主人は、経営を任せていた。自分は被害者であるの一点張りでうまく逃げおおせているそうだ。
「全く、よく言うよ。全てあいつが指示していたってのに」
製鉄会社の長男も、新聞に載ってはいないものの薔薇の服用が認められたらしい。
唯一の変化としては、製鉄会社の社長がこちら側に付いたくらいだろうか。
東条曰く、やはり顧客は金持ちのドラ息子が多いとの事だった。
しかし、残念ながら流通先は見つからず、捜査はまた振り出しに戻ってしまった。
こうしてじわじわと追い詰めていけば尻尾を掴めるのだろうか?
とてもそうとは思えないけど。
「君の主人が載っているぞ」
「どれどれ……」
シエが東条の持つ新聞を覗き込む。
「…っ!」
ふわりとシエの髪から香る柑橘のような匂いが、東条が忘れようと努めていたあの日を呼び起こす。
「ん?どうかした?」
「いや…何でもない」
「ふぅん?ま、いいけど。それにしても、従業員も災難だったな。俺が懇意にしていたボーイも夜の働き口が減っちまったどころか、昼には事情聴取なんかに時間を取られてひーひー言ってたよ」
オーナーはあんなだし、店長は夜逃げ。残った従業員は仕方なく対応に追われていた。
「その彼は、君とは親しかったのか?」
「お?なんだなんだ?ヤキモチってやつか?」
ツンツンと東条の腕をつつくシエの指を、東条はガシッと掴んで止めてきた。
「君がそんな調子だから、あの時間が実はなかったんじゃないかって気分だよ。まったくもっていつも通りだ」
「なーんだ。つまんないの。まあ、そうだな。あの時間は夢みたいなもん。何が起きても無礼講だからな」
「そうだ。もう蒸し返さないと決めただろう?この話はお終いだ。通常運転に戻るぞ」
そう言っていつも通り、東条は結果報告を続けたのだった。
***
その日は事後報告と結果の共有のみ。あの日起きた事は夢だ。
そう、夢。
東条は自宅へ帰るなり鞄と上着を床へ投げつけた。
「くそが…、何が無礼講だ。忘れられる訳ねえだろ」
「よく言うよ。最後は何だかんだで楽しんでいたくせに。アンタは閨じゃあ人が変わるだなんて聞いてないぞ」
「君だって、甘えん坊で随分と可愛らしい誘い方をするんだな」
「な…!ふ、普段はあんなじゃ……!!…っ」
しまった。失言した。
これじゃあまるで東条に完全敗北しトロトロに溶かされ感じてしまったと言っているようなもんだ。
悔しい。こちとら本業だというのに。
男を手玉に取り、翻弄するのが自分の売りだというのに。
やはり、この男と居ると調子が狂う。
だからって嫌って訳じゃない。むしろ、心地良い。
「あそこで起きた事は夢なんだろ。無礼講、無礼講。お互い掘り返すなんてナシだ」
「ふんッ!言われなくても蒸し返す気なんてないね。俺はプロフェッショナルなんだからな」
「アレが君の演技だとしたら君はとんでもない役者になれるぞ」
ふにふにと頬を摘まれシエはムスっと不機嫌になった。
「送ろう。今日は世話をかけたな」
「ああ、気にするな……大した事じゃないさ」
***
「倶楽部・満天楼。新聞に載ってるぞ。よくもまあ、裏でこんな悪辣な事をしていたものだ」
東条はあの後、どうやら上司に報告したようであっという間に不正が出るわ出るわ。
そのくせ、見世物小屋の主人は、経営を任せていた。自分は被害者であるの一点張りでうまく逃げおおせているそうだ。
「全く、よく言うよ。全てあいつが指示していたってのに」
製鉄会社の長男も、新聞に載ってはいないものの薔薇の服用が認められたらしい。
唯一の変化としては、製鉄会社の社長がこちら側に付いたくらいだろうか。
東条曰く、やはり顧客は金持ちのドラ息子が多いとの事だった。
しかし、残念ながら流通先は見つからず、捜査はまた振り出しに戻ってしまった。
こうしてじわじわと追い詰めていけば尻尾を掴めるのだろうか?
とてもそうとは思えないけど。
「君の主人が載っているぞ」
「どれどれ……」
シエが東条の持つ新聞を覗き込む。
「…っ!」
ふわりとシエの髪から香る柑橘のような匂いが、東条が忘れようと努めていたあの日を呼び起こす。
「ん?どうかした?」
「いや…何でもない」
「ふぅん?ま、いいけど。それにしても、従業員も災難だったな。俺が懇意にしていたボーイも夜の働き口が減っちまったどころか、昼には事情聴取なんかに時間を取られてひーひー言ってたよ」
オーナーはあんなだし、店長は夜逃げ。残った従業員は仕方なく対応に追われていた。
「その彼は、君とは親しかったのか?」
「お?なんだなんだ?ヤキモチってやつか?」
ツンツンと東条の腕をつつくシエの指を、東条はガシッと掴んで止めてきた。
「君がそんな調子だから、あの時間が実はなかったんじゃないかって気分だよ。まったくもっていつも通りだ」
「なーんだ。つまんないの。まあ、そうだな。あの時間は夢みたいなもん。何が起きても無礼講だからな」
「そうだ。もう蒸し返さないと決めただろう?この話はお終いだ。通常運転に戻るぞ」
そう言っていつも通り、東条は結果報告を続けたのだった。
***
その日は事後報告と結果の共有のみ。あの日起きた事は夢だ。
そう、夢。
東条は自宅へ帰るなり鞄と上着を床へ投げつけた。
「くそが…、何が無礼講だ。忘れられる訳ねえだろ」
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