見世物小屋ノ蛇男

メカラウロ子

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逢瀬

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その見た目から良くも悪くも目立ってしまう蛇男。

どうやら彼には最近懇意にしている客人がいるらしい、という噂で持ちきりだ。

小柄で華奢なシエとは対照的に、その相手の男は背が高く、がっしりとした体格をしているという。

今日もその男の元へ向かうシエの背中を、あわよくばと見つめる男達はあらぬ噂を蒔き散らすのであった。



「そんな細っこい体のどこにそれが入って行くんだ」

「やだなぁ。慣れてしまえば案外奥へツルッとあっという間ですよ?東条さんアンタのもね」

東条が呆れ顔で問いかけると、シエはクスクスと笑いながら返す。

シエは二人分の果物がこれでもかとばかりに盛られたフルーツゼリーを頬張っていた。

本当ならば恋人同士が、胸焼けするような言葉を囁き合いながら食べさせ合うような、甘いひと時を提供するためのものだが東条は甘いものが得意ではないらしい。

一方でシエときたら、甘いものには目がなく、いくらでも食べられそうな勢いだ。

顔をしかめる東条をよそに、シエはぱくぱくとゼリーを平らげていく。

「全く君は口が減らないな。黙っていれば綺麗な顔なのに」

「おやまあ、三歩下がって歩くお嫁さんが欲しいと宣うクチかい?この大正の時代に、ずいぶん古めかしい考え方をするんだねぇ」

今日は二人でしっぽり愛を語らいに来たというわけではない。

改めて薔薇のこと、そしてお互いのことについて、じっくりと話し合う時間を設けていたのだ。

東条は意外にも若く、陸軍に所属しているという。シエと同じく21歳。シエの方が小柄だからだろうか、東条はもう少し年上に見える。

こうして並ぶと体格差は歴然で、切れ長の目にすっきりとした顔立ちはいかにも軍人らしい精悍さを持ち合わせている。

しかし笑うと案外愛嬌があり、おせっかいでお人好しな一面もある。

シエと軽口を叩きながらも一線を引くその様子は、何だか腹に一物抱えているのではないだろうか。

しかし考え方もこの時代にしては珍しく柔軟で、シエの見た目に対して偏見もないのが心地よかった。




「アンタが言うようにあそこに他に収入があるのは納得だがな、薔薇を買うような客層でもない事も分かるだろう」

聞けば薔薇の値段は給料半年分というじゃないか。何だか真面目に働いているのが馬鹿らしくなってくる。

「俺はあの見世物小屋で堂々と薬を売り捌いているとは思っていない」

「となると協力金の方か」

もし薔薇を売っていたのならば、さすがのシエでも気付くはずだ。

あの愚かで肥えた主人がそこまで巧妙に隠せるとは思えない。

「君達は今まで客に出していた食べ物を口にした事はあるか?」

「たまに余り物が置いてある時はあるが、俺は食べた事はないな」

東条は腕を組みながら何か思案していたが、やがてこちらを向き膝をパンと叩いた。

「シエ、君に協力して欲しい事が決まったぞ。食べ物や可能であれば飲み物をくすねてきて欲しい。薬の有無は勿論、特徴や形状もみておきたい」

シエは頬杖をつき、少しばかり考えてから答えた。
器に盛られたゼリーは既に空になっている。

「いいけど、気の遠くなるような作業だな。形の確認はいいとして、こっそり一つだけ薬を忍ばせていたら、そりゃあ見つけようがない」

東条は肩をすくめてみせる。

「ま、そこに関しちゃ運頼みだな」

会話がひと段落すると、東条は傍らに置いていた新聞を広げた。

一面には女性の参政権獲得運動の記事、女性の社会進出を促す論説、人気職種の電話交換手になるには、百貨店の新商品、製菓企業の御曹司、政界の重役の訃報……様々な記事が並んでいる。

「俺も死んだら新聞に載せてもらいたいな。『見世物小屋の蛇男死去』ってな」

東条がチラリと新聞の一面に目を向ける。

「俺は晒し者にはなりたくないからその気持ちは分からん」

「浪漫がないねぇ、一世一代の名を轟かすチャンスってやつさ」

「死んだら元も子もないだろう」

死んだら元も子もない…か。

「なあ東条さん、ウチの主人が俺を大蛇と共に檻に入れる悪趣味な計画をしていると言っただろう?実はな、あれは俺の親父殿たっての希望だそうだ」

東条は驚き目を見張り、思わず握っていた新聞を破いた。

「何だと…!何故そんな事を…?」

「落ち着けよ東条さん。俺は存在しない者として闇に葬り去るつもりだった。だがこんなにしぶとく生き残ると思っていなかったらしい。奴からしたら足が付かずに消せると思ったのに思い通りにはならないから強硬手段に出たのさ」

懇意にしている闇に生きる者にすら頼みたくない程に、シエの存在は隠されていた。隠して、隠して、捨てられたのだ。

そして今の見世物小屋へ引き取られ、稼ぎ頭となったシエをがめつい主人は日銭を稼がせている。

まだ売れっ子の内は生きていられる。

かと言って絶対的な命の保障はないけれど。

「お前の今の主人から情報が漏れる事だってあるんじゃないのか?」

「あの豚もそこまで馬鹿じゃない。言いふらしたら明日は我が身だという事くらい分かっているはずだ。目の前にチラつかせた金に飛びつくからこんな事になるんだぜ?」

死んでたまるか。

シエには誰にも壊せない固い意志と決意を持っていたが自身の事には無頓着である。

だから東条が慈しむような、憐れみの目を向けていた事に気づいていなかった。
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