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あなたは運命の人①
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この世界では、結婚相手を占いで決めるという古からの決まりがある。
占いは魔女と呼ばれる才ある者達が取り行う。
批判や暴動が起きそうなもんだが、案外これが理にかなっている。
占いで決まった事だから誰も文句は言えず、政治的干渉はない…つまり政略結婚がない。
占いを行う対象は貴族や王都で働く役職持ちである事、本当に嫌であれば仮に貴族だろうが選ばれたのが平民だろうがお互い一回は拒否できるというルールがあるのだ。
しかし皆一様に会ってみれば占い様々でお互いあっという間に気に入って、とんとん拍子に話が進み結婚していく。
いつしか占いは『運命の人』を見つける事が出来ると言われるようになっていた。
周りからジジと呼ばれている俺は数年前に占いの才能があると知ると、女ばかりの魔女社会で男一人のし上がってきたのだ。
それまではスラムの貧民として名無しのその日暮らしで何とか食いつないできた自分にとってお貴族様相手に美味しい仕事だった。
それなりに話が通じるように喋り方や知識など、スラム出とは気づかれないよう努力をした。
魔女の制服は決まっており、深い濃紫のローブに、顔には薄いベールをかけているから性別はバレないようになっている。
男物なんてないからまあ、仕方がない。
個人を特定しない為の制服で、タダで支給されるものだから文句なんて言えないさ。
しかしながら、お仕事頑張りますか!と準備をして迎えた今日のお客様、聖騎士ラファエル殿は先程からちっとも協力的ではないのだ。
早くしてくれないかな、成果報酬で残業代が出ないからできればさっさと終わらせたいんだけど。
「馬鹿馬鹿しいとは思わないか?運命とは名ばかりの、所詮名家同士のお見合いシステムだろう」
それは否定できない。
というのもその人間に釣り合う者同士でなければ結婚生活などやっていけないのだ。
生活基準、知性や教養、礼儀作法などが等しい人間が選ばれるのはある意味当然と言えば当然であり、どうしても貴族同士、名家同士になるのだ。
王子様が平民を娶るなんて事も過去にはあったみたいだが、生活できていたのは有能なマナー講師やお手伝いさんあっての事。
大概は自分の家より汚い家に住みたくないし、会話が続かなければ関係は即座に破綻する。
それにしても、何故この男はここまでして否定的な態度を取るのだろうか。
実際に占いをする人間の目の前でこうも悪態を吐くなど些か失礼ではないだろうか。
…と聖騎士様は怒られても仕方ない態度なのだが、場数を踏んだ自分には分かる。
この男は恋慕している人間がいるのだ。
「ラファエル様、そろそろお相手を見つけないと私が怒られてしまいますわ」
俺は占い師モードの時は女のふりをする。
そうするとノブレスオブリージュなお貴族様達は態度が軟化するのだ。
とは言え基本的にこちらから話しかける事はあまりないのだが、このままでは埒が明かないので俺は声をかけた。
「ラファエル様、もしかしてお慕いしている方がいらっしゃるのでは?」
「なっ…!魔女殿には筒抜けか」
この手の勘違いはよくあるのだが占いで他人の考えている事がわかる訳がない。
しかし、思った通りのビンゴであった。
「お二人の恋路を邪魔する事は気が引けますが…国に定められた事ですのでご理解ください」
「恋路ではないんだ。私が勝手にその方を想っているだけで…それに、彼女ほど美しい女性には既に相手が居るだろう」
この国一番の美丈夫と言われているこの男に落ちない女など居るのだろうか。
「ご安心ください。占いも絶対ではありませんし、先ずは会ってみて、一回目は断る事ができますから」
「あ、あぁ…そうだな。すまない」
俺は人間の頭くらいの大きさの透き通る水晶玉に手をかざし、神妙な面持ちで手を動かした。
こんな事しなくても普通に念じれば出てくるのだが演出として喜ばれるらしいのでお客様へのパフォーマンスだ。
それにしても、面倒な客に当たったよなぁ。
片思いの女性がいるモテモテ厄介系聖騎士様…。
ジジはそれっぽく手を動かすと、水晶玉がいつもと様子が違うように感じた。
この結果になったのは気もそぞろで占ったせいだろうか。
水晶玉に写る人間の顔に驚いたのはラファエルではなく自分だった。
「こ、この方が私の運命の人…」
先ほどまで散々文句を垂れていた聖騎士様がごくりと喉を鳴らした。
そこに写ったのは…
「俺…?」
占いは魔女と呼ばれる才ある者達が取り行う。
批判や暴動が起きそうなもんだが、案外これが理にかなっている。
占いで決まった事だから誰も文句は言えず、政治的干渉はない…つまり政略結婚がない。
占いを行う対象は貴族や王都で働く役職持ちである事、本当に嫌であれば仮に貴族だろうが選ばれたのが平民だろうがお互い一回は拒否できるというルールがあるのだ。
しかし皆一様に会ってみれば占い様々でお互いあっという間に気に入って、とんとん拍子に話が進み結婚していく。
いつしか占いは『運命の人』を見つける事が出来ると言われるようになっていた。
周りからジジと呼ばれている俺は数年前に占いの才能があると知ると、女ばかりの魔女社会で男一人のし上がってきたのだ。
それまではスラムの貧民として名無しのその日暮らしで何とか食いつないできた自分にとってお貴族様相手に美味しい仕事だった。
それなりに話が通じるように喋り方や知識など、スラム出とは気づかれないよう努力をした。
魔女の制服は決まっており、深い濃紫のローブに、顔には薄いベールをかけているから性別はバレないようになっている。
男物なんてないからまあ、仕方がない。
個人を特定しない為の制服で、タダで支給されるものだから文句なんて言えないさ。
しかしながら、お仕事頑張りますか!と準備をして迎えた今日のお客様、聖騎士ラファエル殿は先程からちっとも協力的ではないのだ。
早くしてくれないかな、成果報酬で残業代が出ないからできればさっさと終わらせたいんだけど。
「馬鹿馬鹿しいとは思わないか?運命とは名ばかりの、所詮名家同士のお見合いシステムだろう」
それは否定できない。
というのもその人間に釣り合う者同士でなければ結婚生活などやっていけないのだ。
生活基準、知性や教養、礼儀作法などが等しい人間が選ばれるのはある意味当然と言えば当然であり、どうしても貴族同士、名家同士になるのだ。
王子様が平民を娶るなんて事も過去にはあったみたいだが、生活できていたのは有能なマナー講師やお手伝いさんあっての事。
大概は自分の家より汚い家に住みたくないし、会話が続かなければ関係は即座に破綻する。
それにしても、何故この男はここまでして否定的な態度を取るのだろうか。
実際に占いをする人間の目の前でこうも悪態を吐くなど些か失礼ではないだろうか。
…と聖騎士様は怒られても仕方ない態度なのだが、場数を踏んだ自分には分かる。
この男は恋慕している人間がいるのだ。
「ラファエル様、そろそろお相手を見つけないと私が怒られてしまいますわ」
俺は占い師モードの時は女のふりをする。
そうするとノブレスオブリージュなお貴族様達は態度が軟化するのだ。
とは言え基本的にこちらから話しかける事はあまりないのだが、このままでは埒が明かないので俺は声をかけた。
「ラファエル様、もしかしてお慕いしている方がいらっしゃるのでは?」
「なっ…!魔女殿には筒抜けか」
この手の勘違いはよくあるのだが占いで他人の考えている事がわかる訳がない。
しかし、思った通りのビンゴであった。
「お二人の恋路を邪魔する事は気が引けますが…国に定められた事ですのでご理解ください」
「恋路ではないんだ。私が勝手にその方を想っているだけで…それに、彼女ほど美しい女性には既に相手が居るだろう」
この国一番の美丈夫と言われているこの男に落ちない女など居るのだろうか。
「ご安心ください。占いも絶対ではありませんし、先ずは会ってみて、一回目は断る事ができますから」
「あ、あぁ…そうだな。すまない」
俺は人間の頭くらいの大きさの透き通る水晶玉に手をかざし、神妙な面持ちで手を動かした。
こんな事しなくても普通に念じれば出てくるのだが演出として喜ばれるらしいのでお客様へのパフォーマンスだ。
それにしても、面倒な客に当たったよなぁ。
片思いの女性がいるモテモテ厄介系聖騎士様…。
ジジはそれっぽく手を動かすと、水晶玉がいつもと様子が違うように感じた。
この結果になったのは気もそぞろで占ったせいだろうか。
水晶玉に写る人間の顔に驚いたのはラファエルではなく自分だった。
「こ、この方が私の運命の人…」
先ほどまで散々文句を垂れていた聖騎士様がごくりと喉を鳴らした。
そこに写ったのは…
「俺…?」
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