小雨模様の白昼夢

神在琉葵(かみありるき)

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「…君は気付かないのか?
ここには音がとても少ないだろう?」



そういえば……



うさぎの言う通りだった。
その場所はほとんど何も音がしない。
木々のはっぱは揺れてるのに、あのさわさわとした葉擦れの音がしない。
……そうだ!うさぎが服の埃を払った時も、少しも音がしなかった。



「どうして?
どうして、ここでは音がしないの?」

「それはずーっとずーっと昔のことなんだがね。
ある魔女が、この森の音を全部持って行っちゃったんだ。
それ以来、ここは静かというより寂しくて、誰も住まなくなった。
ここは、皆に捨てられた森なんだ…だけど……」

「何かあったの?」

うさぎは遠くを見るような目をして、ゆっくりと頷く。



「ある日…君みたいに、こっちの世界に落っこちて来た子供がいた。
君と同じようにあの木にもたれてたんだと思う。
その時、運悪く僕が扉を開いてしまった…
だけど、その子は君とは違い、僕を踏ん付けたりしなかった…それどころか、小さな両手で僕を受け止めてくれたんだ。
小さいのに、実に紳士的な子供だったよ。」



いやみかよ…
私は、思わず舌打ちしそうになるのを堪えた。



「それで…その紳士的な子供がどうしたのよ。」

「あ…あぁ…
その子は、品が良くとても利発な子でな。
僕がこの森の音を魔女に奪われたことを話すと、だったら、また音を集めたら良いって言ってくれたんだ。
人間の世界にはたくさんの音があるからそれをちょっとずつ持ち帰れば良いってね。
そしたら、また皆この森に戻って来るだろうって。
それだけじゃない。
音を盗んだ魔女は、きっと音のない所に住んでたんじゃないかって言うんだ。
それで、この森の音が羨ましくて盗んでしまったんじゃないかって。
だから、魔女を許してあげてって言ったんだ。
なんて心根の優しい子供なんだろうって、僕は感動したよ。」



なんともファンタジックな話だ。
私は、今までこんなに詳しい設定のある夢を見たことがない。
……いや、待てよ……
もしかしたら、私はしゅっちゅうこんな夢を見ていて、それなのに目が覚めたら忘れてしまってるだけなんだろうか…?



「……どうした?
君もさすがに感動したのか?」

「えっ?あ…あ、そ、そうそう!
本当に素敵な子供よね!感動感動!
あ、それで、うさちゃんはさっき雨の音を録音しに行こうとしてたのね?
ってことは、ICレコーダーか何か持ってるのね。」

「……なんだ、それは?」

「だから…音を集める道具よ。」

「それなら、これだ。」

うさぎがもこもこした手で難儀しながらポケットから取り出したのは、白い…石…?
つるつるした楕円形で、うさぎの手の平とほぼ同じくらいの大きさのものだった。


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