Love Story

神在琉葵(かみありるき)

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「あ、あの…」

 「いらっしゃいませ。何を差し上げましょうか?」

 「は、はい、そ、その白い花を……」

 「ビスケですね。何本ですか?」

 「あ、はい、その一本で良いです。」

 彼女は、ビスケと呼ばれる白い花を、私に差し出した。



 「ありがとう…」



 *




 小瓶にさした白い花を見ているだけで、私の胸は弾んだ。



 白い花は、彼女の姿に重なって見えた。
 物静かでたおやかで…
その中に、どこか、芯の強さを感じさせる凛とした雰囲気があって…



いつの間にか、私の顔に浮かんだ微笑みに、自分で自分のことが恥ずかしく思えた。



 (まさか、人間のことを好きになってしまうなんて…)



それは、自分でも意外な感情だった。

 移り住んだある町の広場で彼女を初めてみかけた時、何かが私の感情を揺さぶった。
 特に目立つ容姿をしているわけでもないのに、彼女は私の心を強くひきつけた。



 人間界に来てもう十年余り…
その間に、知り合った女性は幾人もいたが、こんな感情を抱いた相手はただの一人もいなかった。
この先も、そんな女性が現れるなんて、夢にも思っていなかった。
しかも、それが一目惚れだなんて…
私のことを知る者なら、そんなこと、きっと誰も信じないだろう。



けれど、私のそんな想いは夢でも幻でもなかった。
 日を追うごとに、彼女への熱い想いは強く激しく燃え上っていった。



 私はついにその気持ちを抑えきれず、花売りの娘に声をかけた。
 声をかけるとはいっても、ただのお客としてだ。
それだけでも、私の心臓は口から飛び出しそうなくらいに騒いだ。



 彼女によく似た白い花を一本買った。
ただ、それだけのことをするのに、私は、まだ幼い少年のように思い悩んだものだった。


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