地下の初恋

神在琉葵(かみありるき)

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「ほ、本当だね。綺麗だ。
ここもハンスが世話をしてるのかい?」

「まさか…ここは自然のものだよ。
でも、薔薇が咲き始めたのはつい最近のことなんだ。」

本題を切り出すための、他愛ない会話が続けられる。



「誰かを好きになるって……」
「あの赤い花は……」



タイミングの悪いことに、せっかく話し掛けたアラステアの声と僕の声とが重なった。



「あ、ごめん……話して……」

促す僕に、アラステアは少し戸惑ったような表情を浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。



「スコット……人を愛するっていうのは、どんな気持ちがするもの?」

「えっ…そ、そりゃあ……幸せなものじゃないかな?」

僕が詩人だったらもう少しましな表現が出来たのだろうが、今の僕にはそんなつまらない言葉しか言えなかった。



「そうだね…僕も最初はそう思ったよ。
暗く冷たかった僕の心に、暖かな春の日差しが射し込んだみたいな気分を感じてた。
だけど……最近は、変わって来たんだ。
僕の心は地の底の核のように熱く燃え盛り……その熱のせいで僕は苦しくてたまらないんだ。」

アラステアが握りしめた拳がわなわなと震えていた。
いつもは冷静なアラステアの顔は急に険しいものに変わり、眉間には深い皺が刻まれていた。



「アラステア……」

「わかってたことなのに……」



僕が掛けた声にも気付かない様子で、アラステアは独白のように話を続ける。




「叶わないことだとわかってるのに……なのに、いつも会いたくてたまらないとか、ずっと、一緒にいたいとか、そんなことばかり考えて……僕はどんどんわがままになっていくんだ……」

アラステアは、傍らの薔薇の枝をきつく握りしめた。



「アラステア!」

彼の手を無理に開かせ、僕は傷ついた掌に白いハンカチを巻き付けた。
じわじわと赤いシミが広がって行く様を、アラステアは魂の抜けたような瞳でみつめていた。



「どうして、こんなに好きになってしまったんだろう……」



虚ろな瞳から、水晶のような涙がこぼれ落ちた。

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