地下の初恋

神在琉葵(かみありるき)

文字の大きさ
22 / 50
side アラステア

しおりを挟む
「危ないじゃないか。」

「……えっ!?」



僕の投げつけた天使の像は、鏡の中に転がった。
鏡面には、何の変化もない。
それだけじゃあない。
今の声は、一体……?



「誰か……いるの?」

「おまえには、私の声が聞こえるのか!?」

声の主はたいそう驚いたようにそう答えた。
驚いたのは僕の方なのに……



「はっきりと聞こえる。」

恐怖心がないわけじゃなかったけれど、僕は素直に質問に答えた。
それと同時に、ぼんやりと鏡に人の姿が浮かび上がり、僕は反射的に後ずさった。
僕がみつめる中で、それはだんだんとはっきりと姿を成していく。



(……なんて、美しい……)



鏡の中に姿を現したのは、僕が今まで出会ったことのない程の美しい女性だった。
見た目だけで誰かを好きになるなんて……そんなこと、ありえないと思ってたけれど、まさにそれは一目惚れというものだった。
僕の目が彼女に釘付けになっているせいか、鏡の中の女性もじっと僕をみつめてる。




「もしかして……私の姿が見えているのか?」

躊躇いがちなその声に、僕はゆっくりと頷いた。



「本当か!本当に見えているのか!」

女性は酷く驚いた顔をして、鏡面に近付き手を付いた。
今にもこちらに出てきそうだ。



「はっきりと見えてるよ。
でも……君、どうしてそんな男みたいな話し方をするの?」

「え……」

咄嗟に口をついて出てしまった僕の想いに傷ついたのか、彼女は顔を伏せ、鏡面から少し離れた。



「あ、ご、ごめん……」

「すまない。
あまりにも長い間話してなかったから……
話し方を忘れてるみたいだ…わ…」

「いや、僕の方こそ失礼なことを言ってごめんね。」

「……気にしてないわ。」

「そ、そう、ありがとう。
あ、僕はアラステア……君は?」



僕は完全に舞い上がっていた。
彼女と話せるだけで、なんだか胸が弾んで……自分でもおかしいと思う程、嬉しくてたまらない。



「私には名前なんてないわ。」

浮かれてる僕とは裏腹に、彼女は寂しそうにそう答えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※「なろう」にも重複投稿しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...