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その晩は、一睡も出来なかった。
白々と夜が明けた時…俺の心には、ある決意が芽生えていた。



朝7時になるのを待ち、俺は朱音に電話をかけた。
眠そうな声で出た彼女に、今日、会えるか聞いたら、快諾してくれた。
そうだろう。
最近、彼女からの誘いを断っていたのは、俺の方なのだから。



(俺は、なんていい加減だったんだろう…?)



今更、後悔なんかしてもどうにもならない。
だけど、込み上げて来るのは自責の念ばかり。



完全に信じたわけじゃないけれど…
万一、死神の話が本当だったら、これはとても意味のあることだ。
自分が助かりたいからじゃない。
いや……そういう気持ちが全くないと言ったら嘘になる。



でも、朱音のことを考えたのも事実だ。
俺の行動が、彼女にとって良いことなのか、どうかはわからないけれど…
何もしないで死を待つよりはきっと良いはずだ。



こんなことなら、もっと早くに彼女の願いを叶えてやれば良かった。
俺は本当に馬鹿だ。
ずっと、朱音のことを愛していたのに、どうして彼女の言う通りに出来なかったんだろう?



彼女が望んだのは、特別なことではない。
俺との結婚だ。
俺だって、結婚するなら朱音とだと思っていた。
だけど、今は仕事も面白いし、一人で暮らすことにも何の不自由もなかったし、最近は晩婚な者も多い。
だから、彼女との関係は今のままで良いと考えていた。
『結婚』というものに縛られることが、俺はどうにもいやだったんだ。



だけど、彼女は一刻も早く俺と結婚したいと言った。
両親に挨拶に来てくれとも言われた。
そういう彼女の気持ちが余計に煩わしく感じられて、俺は、ここのところ、彼女を避けるようになっていた。
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