虚実の時

神在琉葵(かみありるき)

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「だって、あの子、とっても可愛かったんだもの。
 仕方ないじゃないか。」

 「まぁ…!よくもそんなことを……」

 「ねぇ、アニエス……君はどうしてそんなことを気にするんだい?
 可愛い女の子とたまに会って喋ることがそんなに悪いことなのかい?」

 「だって、あの時、あなたはすでに私と結婚してたのよ。
ローランだって生まれてたわ。」

 「アニエス……」

ミカエルは、アニエスの手を握り、困ったような顔で苦笑した。



 「男なら誰だって、可愛い女の子と喋るのは嬉しいもんだよ。
でもね。それは君への愛情とはまるで違うもんなんだ。
 僕は言ったはずだよ。
 一生、君だけを愛し、信頼するって……
どうしてそれをわかってくれないのかな?」

 「わかってるわ……
あなたのことは、信じてる……
でも……結婚してから、私…あなたのことがますます好きになったの。
あなたとはどんなことがあっても離れたくない…だから……」

 「そうか。だから、こないだも旅人の女性に道を教えただけであんなに機嫌が悪かったんだね?」

 「だ、だって、あなたったら『良かったらうちに泊まっていけば?』なんて言うんですもの。」

 「あの時は遅かったし、しかも土砂降りの雨が降り出したからじゃないか。
それに、あの子はミレーユと同じくらいの若い娘、それに引き換え、僕はこんなおじさんだぞ。」

 「でも…あなたは、今も昔と少しも変わらない。
とても素敵だもの……」

その言葉に、ミカエルはたまらず吹き出した。



 「どうして笑うの?」

 「そんな風に見てくれるのは君だけだよ。
 僕は、こんな白髪まじりのおじさんなのに……」

 「そんなことないわ。あなたは今も……」

 「ありがとう、アニエス……愛してるよ。
これからもずっと仲良くやっていこうね。
 死ぬまでずっと……
僕はどんなことがあっても、君以外の人に心を寄せたりしないから、それだけは信じて。」

 「……ミカエル……
わかってる。
 私、あなたのことを信じてるから……」

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