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最高で最悪な日

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***



「おい、いつまでそうしているつもりだ。
通行の妨げになるぞ。」



どのくらい倒れていたのかはわからなかった。
そんないやみな台詞を吐きやがったのは、もちろんさっきのあの男だ。
男は身をかがめ、俺を見てにやついていた。



「うるせぇ!
そんなこ……」



そんなことより、おまえ、俺に何をした!?
……そう訊くつもりだった。
だけど、俺が最後まで言えなかったのは…俺の声がまるで…



「な、な、何、何だぁぁぁ!?」



上体を起こした俺は、声だけではなく、身体の異変にも気が付いた。
俺の胸には、今までそこにはなかった柔らかな膨らみが二つ…



(ま…ま…まさか……)



俺は、男に背を向け、そっと股間に手を伸ばした。
な、ない!
そこにある筈のものがなくなってる!



「て…て…てめぇ!!」

「おいおい、女の子にしては言葉遣いが悪過ぎるんじゃないか?
そんな可愛い顔してるんだから、これからはもっと女の子らしくしなけりゃいかんぞ。」

男はそう言うと、口元を押さえ肩を小さく震わせた。



「うるせぇ!
一体、何の冗談だ!
早く元に戻せ!!」

「何も冗談などではない。
私は至って本気だ。
本気でなければ、そんなことはしない。
性別を変換する呪いは、そんなに簡単なものではないのだぞ。」

男は俺を見下ろしながら、そう言って口端を上げた。



「よ…よくも…そんなことを…!
なんで俺がこんなことされなきゃなんねぇんだ!」

「……おまえはなにもわかっていないのだな!」

声を荒げた男の顔が俄かに厳しいものに変わり、俺に刺すような視線を向けた。
ギラギラとした憎しみのこもった激しい視線だ。



「わ、わかってないって何が……」

俺には本当に心当たりがなかった。
強いて言うなら、あの白いフクロウを逃がしてしまったことだが、いくらなんでもそんなことでここまでされる筋合いはない。



「アレクシスは……ただのフクロウではないのだ。」

男の発した低い声は、やけに悲しげで…
俺はもしかしたら何かとんでもないことをしてしまったのだろうかと、とても不安な気持ちになった。

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