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魔女

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「……わかりました。」

「えっ!?」

俺は思わず声を上げていた。
だって、そんな大切なこと、そんなに簡単に決めて良いのかよ!?



「本当に良いのじゃな。」

「はい。よろしくお願いします。」

「おいおい、ユリウス…」

俺の言葉は、奴には届いていないようだった。
奴の瞳の中には迷いが全くなかったんだ。



「あい、わかった。
では、先におぬしの精気をいただこう。」

なんだって?先に…?
もしかして、もらうもんだけもらって、約束を守らないつもりじゃないだろうな。
とても心配だったが、ユリウスはすでに立ち上がり、魔女の傍に近付いていた。



「では……」

魔女は棚から空の小瓶を持ち出すと、なんだかよくわからない呪文のようなものを唱え始めた。
すると、ユリウスの身体の周りに薄い靄のようなものが立ち上り、それらが魔女の小瓶の中に細い筋になって吸い込まれて行く。
俺はただただ驚くばかりで、その様子をじっと見守ることしか出来なかった。



「よし、これで良かろう。」

呪文が止み、魔女が小瓶のふたを閉めた。
小瓶の中には白い靄が渦巻いている。
心なしか、ユリウスの顔色はさっきより白っぽくなっているようだったが、特に大きな異変はなかったことにひとまず安堵した。



「では、わしはコンパスを作ってくるから、おぬしたちはここで待っておれ。」

婆さんはそう言って、奥の部屋に消えて行った。



「ユリウス…大丈夫か?」

「ああ…少しふらふらするがたいしたことはない。」

「そうか、無事で良かった。
でも、あの婆さん…本当に約束を守ってくれるのかな?」

「……信じるしかない。」

ユリウスは絞り出すようにそう言った。
その言葉を聞いた時、こいつにとってアレクシスは何物にも代えがたい程大切なフクロウなんだってことを思い出した。
下手すりゃ死ぬかもしれないっていうのに、それでもそのリスクを負うんだからな。



「そうだな。信じよう。」

今の俺にはそう言うしかなかった。
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