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惑わしの森

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それから、アレクシスは俺達の読み通り、惑わしの森に向かって飛んで行った。
行く先々で俺達が耳にするのは、白いフクロウを「昨日見た」という情報ばかり。
つまり、俺達とアレクシスの間には約一日の隔たりがあるってことだ。
なんて、じれったいんだろう。
なんとかその差を縮めたいと思うけど、どんなに頑張っても俺達には歩くか走ることしか出来ない。
奴のように空を飛ぶことは出来ないんだ。
しかも、俺はか弱い女にされてしまったから、以前のようには早く歩けない。
本当にもどかしいったらありゃしない。
こんなことなら、あいつも俺を女じゃなくて馬にでも変えた方が良かったんじゃないか?
そしたら、もっと早く、もっと楽にアレクシスの後を追えただろうに…



「何をぼーっとしている。」

「え?」

「あまりに、おまえが間抜けた顔をしていたのでな。」

「ま、間抜けって…失敬だな!
ちょっと考え事してただけだ!」



いちいち癇に障る野郎だ。
俺は一生懸命歩いてるんだ。
歩いてる間くらい、何を考えようが俺の勝手じゃないか。
苛々する気持ちを、俺は懸命に押さえ込んだ。



「やっぱり、アレクシスは例の森に向かっているのだな。」

「あぁ、そのようだ。
あそこは人間にとっては物騒極まりない所だが、もしかしたらフクロウには住みやすい場所かもしれないぞ。
そこで、一休みしてくれれば良いんだが…」

「とにかく急ぐぞ。」



俺の言葉に同意も反対もせず、ユリウスはすたすたと歩き続ける。
もう十分急いでる!
俺のこの汗を見て不憫だとは思わないのか!?
全く、思いやりの欠片もない男だ。
きっと、エルフの中でも孤立してるんじゃないか?
友達もいなくて楽しくなくて、それで、一人、禁を破って人間の世界に遊びに来てたりするんじゃないか。
うん、きっとそうに違いない!



可哀想な奴なんだ…そう思うことで、なんとか気持ちをおさめて、俺はひたすら小走りで奴の後を着いて行った。
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