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(わぁ……)



 間近で見上げたその場所は、遠くから見ていた時とは比べものにならない程の圧倒感で、僕は思わず言葉を失なった。
 今までは白い靄のように見えていたその城の本当の姿はなんだか妙に懐かしい感じがする。
 誰もがその存在を知ってはいるけど、時期が来るまで近付くことはタブーとされている神聖な場所。
 僕は押し潰されそうになる程の緊張感をはらいのけるように、門の前で深く呼吸をし、一生に一度しか入れないその場所に、ゆっくりと足を踏み入れた。




 「リオ…待っておったぞ。」

 「は、はいっ!」



そこにいたのは、数名の衛兵達に護られた長老様。
 見た目には他の個体と特に違いは感じられないけど、噂ではもう何千年も生きているという。
そのせいか、どこか威厳のようなものが感じられ、ますます緊張感が増して来る。



 「そう緊張せんでもええ。
すぐに終わる。
 痛い事も痒いこともなにもない。
おまえはただそこに立っているだけで良いのじゃ。」

「は、はいっっ!」


そんなことを言われたって、やっぱりなんだか心配だ…
でも、僕は出来る限りの平静を装って、言われた場所にじっと立ち尽くし静かに目を閉じた。



「では、今から成人の儀式を行う。」



その声とほぼ同時にぽんと背中に何かが触れたような感触がしたと思ったら、からんと軽い音がした。
なんだかすーすーするような感じがして、僕は貝殻がはずれたことを実感した。
 恥ずかしいような…でも、誇らしいような気持ち…これで、僕も父さんや母さんと同じ体になれたんだと思うとなんだか胸が熱くなった。

 僕もやっと大人になったんだ…!
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