チクタクの森

神在琉葵(かみありるき)

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「時計に触るな!」

 「良いじゃない!
これは私達の時計なんでしょう?」

 「だめだ!戻せ!」

 二人がもみ合ううち、何かの拍子に時計は二人の手を離れて宙を舞い、その後、固い床に叩き付けられました。



 「あぁっ!針が!」

 床に落ちた途端に針が取れ、それを見て、うさぎはとても驚き困ったような顔をしました。



 「心配はいらないわ。こんなもの、すぐに修理に出してあげるから。」

うさぎは、悲しそうに瞳を伏せて首を振りました。



「これは、チクタクの修理屋にしか直せない。
 人間には絶対に直せないものなんだ。
しかも、チクタクの修理屋がどこにいるのかはわからない。
 奴はいつもあちこちを旅してるからな。」

 「そ、それじゃあ、弁償するわ。いくらなの?」

 「……君は何もわかってないんだな。」

うさぎは大きな溜息を一つ吐くと、とんでもないことを打ち明けたのです。



それは、ここにあるのが命の時計だということです。
 幸い、私達の時計は壊れていないから、死ぬことはないだろうが、針が動かない者は成長が停まる…と。



 「つまり……私達はずっと子供のままだってことなの?」

うさぎはゆっくりと頷きました。




 私達はそれからどうやって別荘に戻ったか、覚えていません。
とにかく、大変なことをしてしまったという畏れに押し潰されそうになっていたのです。



 私達は話し合い、両親にうさぎのことを話すことにしました。
 両親は笑っていましたが、針の取れた時計は本当に誰にも直すことが出来ず、年月が経つにつれ、私達の言うことが嘘ではないとわかってきたのです。
なにしろ、十年経っても私達は八歳の子供のままでしたから。



その前から、私達は病気だと言って人と会わない生活を送っていました。
シュゼットは、そんな生活に大きな不満を感じており、ある時、ついに両親にその想いをぶつけました。
そして、さらに、チクタクの修理屋を探しに行くと言い出したのです。
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