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「実は……僕達、結婚するんだ。」

 「え…?」

 大樹君が一体何を言ってるのか、わからなかった。



 「年内には…って思ってるんだけど、今からじゃ、式場をみつけるのは難しいかな。」

 大樹君は美樹さんと顔を見合わせて苦笑する。



 「美玖さんのことは大樹からいつも聞いてました。」

 「えっ?私のことを?」

 「ええ、家族みたいに大切な人だって。
 結婚する前に再会出来たのは運命だったのかもしれない…なんて。」

 「美樹…しゃべりすぎだよ。恥ずかしいじゃないか。」

そう言って大樹君は照れくさそうに微笑んだ。



 (家族みたいに大切な人……)



 「僕ね、前から思ってたんだ。
 結婚式には美玖ちゃんやおじさんやおばさんにも出てほしいって。
だって、僕達はずっと兄弟みたいに育った仲だもんね。
だから、美樹のことも早く紹介したかったんだ。」

 「あ、あぁ…そうだね。」

パニックになり過ぎてうまく受け答えが出来ない。 



 二人共、猫好きで、この喫茶店で出会い、知り合ったんだとか、ここのところは、美樹さんのおばあさんがぎっくり腰になって、そのお世話に行ってただの…あれこれと話をしていたけれど、そんなのは全部頭の中を素通りしていった。 



 大樹君…私に優しくしてくれたのは、家族みたいに思ってたからなの? 
 女としてみてたんじゃないってことなの?
そう思ったら、胸が酷く痛んだ。



 「いけない!」

 「美玖ちゃん、どうかしたの?」

 「ごめん!私…今日、用事があったんだ…今、思い出した。
 美樹さん、お会い出来て良かったわ。
 大樹君、お幸せにね。また連絡するから…」

 私はそそくさとその場を後にした。 

 溢れる涙が止まらない…

馬鹿みたい… 
勝手に勘違いして…美容院まで行って… 



ひとりでいるのが、たまらなく寂しかった。
 心が粉々に砕け散ってしまったような気がした。


 (助けて!誰か、私を助けて! )



 私は心の中で絶叫した。
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