チューニング

神在琉葵(かみありるき)

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新しい世界

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(笛を吹くことがこんなに楽しいと思ったのは何年ぶりだろう…
そういえば、最近の僕は寂しい時や辛い時の慰めとしてしか吹いてなかったような気がする。
笛を覚えたての頃は、吹くだけであんなに楽しかったのに…)



「……どうかしたのか?」

不意に途絶えたディルカの笛に、マッケイが心配そうにして身をかがめディルカの顔をのぞきこむ。



「……なんでもないよ。
ちょっと考え事をしてただけさ。
そんなことより、君は玉乗りもするんだろ?
その時の曲はどんなのが良いかな?」

「あぁ、それなら…」



打ち合わせは少しずつまとまり、数日後から、船上での大道芸が始まった。
二人の噂は瞬くうちに広まり、開始した次の日には前日の倍程の観客が集まった。
皆、マッケイの滑稽な演技に腹を抱えて笑い、そのしなやかなダンスに手を叩く。
飽きられないように、マッケイは少しずつ出し物を変え、船がセラジャスに着く頃には、二人が想像もしていなかった程の金が貯まっていた。




「すごいもんだな…
十日もしないうちにこんなに稼げるなんて…」

甲板の片隅に身を潜めるように座りこんだディルカが、ぱんぱんに膨らんだ皮袋を目の前にして呆れたように呟いた。



「俺だってびっくりさ。
俺は今までいろんな町で芸を見せて来たけど、こんなにお客が集まったことなんてないぜ。」

「ま、ろくな娯楽がない船の上だからこそのことだろうな。」

その言葉に、マッケイは俯いたまま失笑する。



「……あんたは、いつも冷静っていうかなんていうか…
もっとこう『やったーーー!』って感じで、素直には喜べないのか?
これだけありゃあセラジャスについてからも当分は何の心配もない。
ちょっとくらい贅沢をしたって大丈夫だ。
あんた、それが嬉しくないのか?」

マッケイの言葉に、ディルカは苦笑いを浮かべただけで、何も言わなかった。



(そうだね……僕はいつもこんな風にひねくれて考えてばかりで…
マッケイの言う通り、素直に喜ぶことが出来なくなってる。
昔はこんなじゃなかった筈なのに……いつから僕はこんな風になってしまったんだろう……)

心の中でふと呟いたディルカの目に、小さな星屑にも似たセラジャスの町の明かりが朧げに映った。

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