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隣町を目指して

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 「やったーー!」

 皆、汗だくでリッチーとエドガーは血にもまみれて、どうにか魔物の群れをやっつけた。



 「もうこれ以上は戦えない。
いいか?ここから一気に町まで走るぞ!
ここで魔物の群れに掴まったらおしまいだからな!」



 (お…おしまい……?)



 「リ、リッチー…あの……」

 「行くぜ!」



 「あ……」



 素早い…!
 皆、風のように走り出した。
おじさんもキャラに似合わず、とても俊敏な動作で駆け抜ける。



 「ま、まって…!」



 自慢じゃないが、この肉襦袢は走ることには向いていない。
 関節は曲がりにくいし、見た目よりもけっこう重いんだぞ。
 誰か、手でも引いてくれよ。
いや、そんなことしなくて良いから、とにかく少しだけ待ってくれ!
こんな時に魔物に襲われたらどうすんだ?
 僕は構えしか出来ないんだぞ!



 「いーさん、危ない!」

 「え…!?」

エドガーの緊迫した叫び声に、ふと後ろを振り向くと、鋭い牙を剥いた魔物が僕のすぐ後ろに迫ってる。



う、うそーーーー!
 夢なら覚めてくれーーーー!



 僕は必死に走った。
おそらくこの世に産まれてから、一番頑張った…それこそ命懸けの疾走だった。



 「い…いて…」

 突然、足に熱いものを押し付けられたような痛みを感じ、それと同時になにかが僕のすぐ傍をすり抜けたかと思うと、足に感じた違和感が消え、魔物の姿も一瞬にして消え失せた。
……一体何が起こったんだ?



 「う、うわっっ!」



 僕の傍に落ちていたのは、リッチーのものらしき剣……
そうか、リッチーが剣を投げてくれたから魔物が……
 ……って、それってもしかして、ちょっとでも手元が狂ったら、この剣は僕に刺さっていたんじゃあ……



「大丈夫か?」

 「う、うん。」

 「良かった。うまくいくかどうかわからなかったんだが、今はこうするしかなくてな。」

 駆け付けたリッチーは悪びれもせず、そう言った。



 「そうだよね…あは…ははは……」

うんうん。良かった良かった。
僕の幸運にバンザイだと、僕は無理して笑うしかなかった。
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