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第三の依頼

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「ねぇ、リッチー、今の人はどうなったの?
ミュールは?」

 「ミュールって…?」

 「私が連れて来たチャラスの名前よ!」



シンシアさんの話によると、一週間程前に家の近くで招き猫様をみかけ、そのままにしておくのは危険だと思って、家に連れ帰ったとのことらしい。



 「なるほど。
あんたの家にいたから、あんなに探してもみつからなかったんだな。
あれは、ナナシさんの大切なチャラスなんだ。
 俺達、依頼を受けてずっと探してたんだぜ。」

 「そうだったの……
変わった前掛けをしてるし、きっと誰かが飼ってたチャラスだろうとは思ってたけど…
けっこう懐いて来てたから寂しくなるわね。
……でも、おかげであんたにあの子のことを頼む必要はなくなったわ。
あ、いけない、もうこんな時間!」

シンシアさんは柱の時計を見ると、慌てた様子で立ち上がった。



 「どうしたんだ、シンシア。
 何か用でもあるのか?」

 「え…えぇ…ちょっと田舎のお母さんのところに…
だから、二、三日店は休むけど、また遊びに来てね。
じゃあ……」

 「ちょ…ちょっと待てよ!
あんた、こないだ両親はいないって言ってなかったか?」

 「え…そ、それはあんたの勘違いじゃないの?
 私、本当に時間がないから……」

 「待てって……」

 足早に部屋を出て行くシンシアさんを怖い顔をしたリッチーが追いかける。



 「……全く、みっともない。」

エドガーは本当にクールだ。



 「私はしばらく部屋で休むから起こさないでくれ。」

エドガーは僕らの返事を聞く前に、自分の部屋に戻って行った。
 彼は、本当にインドアだ。
 一度部屋にひきこもると、たいてい夕方までは出てこない。



 「では、私は買い物に行って来ます。
お話はまたみんなが揃ってからにしましょう。」

そう言っておじさんはいそいそと出かけて行った。



 一人、その場に残された僕は、何もすることがないから、とりあえず自分の部屋に戻った。
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