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 「秋彦さん!
いつまでこんなことを続けるつもりなの!?
もういいかげんにして!
やめてくれないなら、私……あなたとは別れるわ!」

 「聖子……
君はなんて我が侭なんだ…
こんなことは言いたくないけど……僕は、君のお父さんの工場を救ったじゃないか…
いや、そんなことはどうだって良い。
あれは僕の意志でやったことだからね。
だけど、それも君を愛していればこその気持ちだよ。
それはわかってくれるよね?」

そのことを言われると、私は何も言い返せなかった。
 人の良い父は、ある人の連帯保証人になり、その人が逃げてしまったことから、借金の片に工場を差し押さえられることになっていた。
それを救ってくれたのが秋彦さんだ。
おかげで、今も父は工場を続けることが出来、私の家族は路頭に迷う事もなくなった。



 「それは……本当に感謝してます。
だけど……私も、せっかく結婚したのに、家事もやらないなんて…
ほら、お掃除もしてないからほこりがたまってるわ。
それに、身体もなまるし…」

 「……わかったよ…
それじゃあ、僕が帰って来てから、掃除や料理をやってもらうことにしよう。
お腹はすくけど、待つよ。
それと、週末には一緒に買い物に行こう。」

 「えっ!外に出ても良いの!?」

 今考えれば、私はすでにこの時点で感覚がおかしくなっていたんだと思う。
 外に出してくれるということだけで、妙に心が弾んだ。



 「あぁ、僕と一緒なら構わない。
だけど、その代わり、これからも僕の言うことは守ってもらうよ。
もしも、おかしな真似をしたら……」

そう言った彼の瞳は、背筋が凍りつきそうになる程、冷やかなものだった。



 「……ど…どうするっていうの?」

 「……聖子……なんて顔してるんだ。
 僕が君に暴力でも振るうとでも思ったの?
そんなことしないよ。
 僕は君を愛してるんだから…
だけどね……もしも、君が僕の言う事を聞かなかったら……
苛々してあたってしまうかもしれないな。
そうだね…たとえば、君の妹の希美ちゃんとか……
僕は彼女には何の感情もないから、君への不満をぶつけてしまうかもしれないね。
 君に直接あたれない分、エスカレートして僕は希美ちゃんに…」

 「やめて!!」

 恐ろしく想像が頭の中に浮かんだ。



これは脅しではないだろう…
こんなことを私に強要する人だもの。
きっと、本当に希美に酷い事をすると思う。
もしかしたら、希美だけではなく、両親にもなにかしでかすかもしれない。
そう考えると、私は彼に背く気持ちはなくなった。

 彼の言う通りにするしかない。
しばらく彼の言う通りにしていればきっとそのうち彼も変わる…
そうだ…たとえば、子供が出来たり、彼が浮気でもしてくれたら…

私はそんなことを考えながら、今はとにかく辛抱するしかないことを思い知った。


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