逃げた小鳥

神在琉葵(かみありるき)

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それから瞬く間に数年の月日が流れた。

 希美の入院はけっこう長引いたけれど、幸いにも大きな後遺症もなく無事に退院した。
 私は、あれ以来、一度も彼に逆らうことはなかった。
そのおかげで、彼はいつも私に優しい。
 軟禁生活は続いているものの、あの件から数ヶ月してから、私はまた週に一度の買い物に連れて行ってもらえるようにもなり、おかしなことに私はそれで満足するようになっていた。
 近所の人達は、私のことをとても幸せな妻と思っていることだと思う。
そして、あの人のことは心を病んでいる妻を優しくいたわる素晴らしい夫だと。

 私はきっと一生彼の人形でいるんだと思い始めていた矢先、転機は突然訪れた。

それは、希美の結婚。
 二人は結婚してアメリカに渡り、向こうで小麦の栽培をするという。
しかも、そこに両親も一緒に行き、仕事を手伝うという話を聞き、私はこの信じられない機会に私の人生を賭けることを決めた。
 希美や両親が安全な場所へ行けば、人質がなくなるようなものだ。
 私は、やっとこの異常な生活から解放される…!



 披露宴は盛大なものだった。
 希美の旦那さんが顔の広い人で、そのため招待客がたいそうな数になった。
 披露宴が終わると、希美夫婦と両親はそのままアメリカに旅立つ。



 「おめでとう!」

 「お元気で…!」



 皆に見送られ、車に乗り込んだ四人が走り去り見えなくなった時…
私は、駆け出した。
 秋彦さんの目を盗み、命懸けで走った。
 走って、走って……息が切れて死ぬんじゃないかと思う程、走り続けた。



 私はどうにか彼をまき、暗くなるのを待ってタクシーと列車を乗り継ぎ、一度も行ったことのないひなびた田舎の温泉宿に辿りついた。
 期待はしていなかったけど、少し昔の古都を思わせるけっこう雰囲気の良い町だった。

さすがにまだ私の居場所がばれている筈はないと思いつつも、それでも安心は出来なかった。
ちょっとした物音にも心臓が止まりそうになってしまう。



 (もう大丈夫…
最初の難関はうまくすりぬけた。
もう大丈夫よ…)



 私は何度も何度も…まるで呪文のように自分にそう言い聞かせた。


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