12 / 15
12
しおりを挟む
***
それから瞬く間に数年の月日が流れた。
希美の入院はけっこう長引いたけれど、幸いにも大きな後遺症もなく無事に退院した。
私は、あれ以来、一度も彼に逆らうことはなかった。
そのおかげで、彼はいつも私に優しい。
軟禁生活は続いているものの、あの件から数ヶ月してから、私はまた週に一度の買い物に連れて行ってもらえるようにもなり、おかしなことに私はそれで満足するようになっていた。
近所の人達は、私のことをとても幸せな妻と思っていることだと思う。
そして、あの人のことは心を病んでいる妻を優しくいたわる素晴らしい夫だと。
私はきっと一生彼の人形でいるんだと思い始めていた矢先、転機は突然訪れた。
それは、希美の結婚。
二人は結婚してアメリカに渡り、向こうで小麦の栽培をするという。
しかも、そこに両親も一緒に行き、仕事を手伝うという話を聞き、私はこの信じられない機会に私の人生を賭けることを決めた。
希美や両親が安全な場所へ行けば、人質がなくなるようなものだ。
私は、やっとこの異常な生活から解放される…!
披露宴は盛大なものだった。
希美の旦那さんが顔の広い人で、そのため招待客がたいそうな数になった。
披露宴が終わると、希美夫婦と両親はそのままアメリカに旅立つ。
「おめでとう!」
「お元気で…!」
皆に見送られ、車に乗り込んだ四人が走り去り見えなくなった時…
私は、駆け出した。
秋彦さんの目を盗み、命懸けで走った。
走って、走って……息が切れて死ぬんじゃないかと思う程、走り続けた。
私はどうにか彼をまき、暗くなるのを待ってタクシーと列車を乗り継ぎ、一度も行ったことのないひなびた田舎の温泉宿に辿りついた。
期待はしていなかったけど、少し昔の古都を思わせるけっこう雰囲気の良い町だった。
さすがにまだ私の居場所がばれている筈はないと思いつつも、それでも安心は出来なかった。
ちょっとした物音にも心臓が止まりそうになってしまう。
(もう大丈夫…
最初の難関はうまくすりぬけた。
もう大丈夫よ…)
私は何度も何度も…まるで呪文のように自分にそう言い聞かせた。
それから瞬く間に数年の月日が流れた。
希美の入院はけっこう長引いたけれど、幸いにも大きな後遺症もなく無事に退院した。
私は、あれ以来、一度も彼に逆らうことはなかった。
そのおかげで、彼はいつも私に優しい。
軟禁生活は続いているものの、あの件から数ヶ月してから、私はまた週に一度の買い物に連れて行ってもらえるようにもなり、おかしなことに私はそれで満足するようになっていた。
近所の人達は、私のことをとても幸せな妻と思っていることだと思う。
そして、あの人のことは心を病んでいる妻を優しくいたわる素晴らしい夫だと。
私はきっと一生彼の人形でいるんだと思い始めていた矢先、転機は突然訪れた。
それは、希美の結婚。
二人は結婚してアメリカに渡り、向こうで小麦の栽培をするという。
しかも、そこに両親も一緒に行き、仕事を手伝うという話を聞き、私はこの信じられない機会に私の人生を賭けることを決めた。
希美や両親が安全な場所へ行けば、人質がなくなるようなものだ。
私は、やっとこの異常な生活から解放される…!
披露宴は盛大なものだった。
希美の旦那さんが顔の広い人で、そのため招待客がたいそうな数になった。
披露宴が終わると、希美夫婦と両親はそのままアメリカに旅立つ。
「おめでとう!」
「お元気で…!」
皆に見送られ、車に乗り込んだ四人が走り去り見えなくなった時…
私は、駆け出した。
秋彦さんの目を盗み、命懸けで走った。
走って、走って……息が切れて死ぬんじゃないかと思う程、走り続けた。
私はどうにか彼をまき、暗くなるのを待ってタクシーと列車を乗り継ぎ、一度も行ったことのないひなびた田舎の温泉宿に辿りついた。
期待はしていなかったけど、少し昔の古都を思わせるけっこう雰囲気の良い町だった。
さすがにまだ私の居場所がばれている筈はないと思いつつも、それでも安心は出来なかった。
ちょっとした物音にも心臓が止まりそうになってしまう。
(もう大丈夫…
最初の難関はうまくすりぬけた。
もう大丈夫よ…)
私は何度も何度も…まるで呪文のように自分にそう言い聞かせた。
0
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる