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やがて、灯りの動きが止まり、かちゃりという軽い音、そして軋む扉の音が聞こえて、あたりは闇に包まれた。
その途端、不安な気持ちに心を奪われ、叫び出したくなるのを懸命に抑えて僕は壁を伝いながら彼が消えた部屋のあたりまで歩いた。
 手の感触がざらざらした土から木に変わり、僕はそこがさっき彼の入った部屋だと気付いた。
 神経を集中して、僕は扉に耳を近付けた。



 誰かが喋っている……
何を言ってるのかはわからないけれど、間違いなく話し声がした。
 懸命に耳を澄ませていると、アステリアと彼じゃない誰かの声がすることに気付いた。




 (一体、誰が……!?)



 僕は早くなる鼓動を感じながら、扉の向こうに神経を集中させた。
けれど、語られる言葉は何一つ聞き取れない。
 二人とも声が小さく、アラステアの相手が男なのか女なのかさえわからない。



 (それにしても、こんな所になぜ……)




ふと、そう思った時、僕は恐ろしい想像に身震いした。
もしや、アラステアは誰かを愛するあまり、その人を連れて来てここに監禁しているのではないのかと……



しかし、その時、部屋の中から笑い声のようなものが聞こえたのだ。
 監禁されていたら、笑ったりするだろうか?
いや、その前にあんなに穏やかに話をするのもおかしい。
 普通なら開けろとか出せとか、わめくものではないだろうか?
では、当人も合意の上でここに……!?



 僕は、腰をかがめ鍵穴から部屋の様子をうかがった。
 灯りの傍にいるアラステアの後ろ姿は見えたけど、相手の姿は家具が邪魔して見えない。



 僕は部屋に引き返した。
そのままそこにいても収穫はないと考えたからだ。
アラステアが戻って来たのは、明け方になってからのことだった。



 次の夜も…そのまた次の夜もアラステアは地下室に向かった。
 昼間は、いつもと変わらない態度で僕に接し、おやすみの挨拶をして別れてから彼はこっそりとあの部屋に向かう。



 僕は知っていながら、彼に地下室の話をすることが出来ない。
 何度か切り出そうとしたけれど、どうしても口にすることが出来なかった。

そんな中、無理が祟ったのか、アラステアは体調を崩し、町の病院へと運ばれて行った。
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