押しかけ花婿は邪竜の贄姫

きっせつ

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エルドラド領の子供達

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珍しく僕は寝ずに考えた。
だって、クライスはせっかちなんだ。
この前なんか、土地再生のついでだとか言って、数万本の葡萄の木に魔力を込めされられた。

『春の季節に豊穣の竜が実りを授けた葡萄』
これをエルドラド領の看板ブランドとして売り出してガッポリ儲ける。悪い顔で本来なら秋に実る葡萄の山を前に高笑いしていた。
秋まで待てば、普通に実るのにね。本当にクライスはせっかちだ。

…と、いう訳で、寝ずに僕は考えた。
ぼんやり空を眺めながら、木の上で遊ぶリス達を眺めながら。探検だと、森の中を突き進む人の子供達一行を眺めながら。

「ユラン隊長! この森はリスがいっぱいです」

「気を付けろ、隊員。ソイツは魔王の手下達だ。警戒を怠るな!」

「ユラーン。ミラ、もう探検ごっこ飽きたぁ。おままごとしたいー」

「ゆ、ユランくん。本当に入って良かったのかな…。ママがここはシシャク様が守ってるシンリュウ様の森だから入っちゃダメって」

「うるさいぞ、隊員達。俺が隊長だから隊長の俺に黙ってついてこい」

この土地はエルドラド子爵であるクライスの敷地。
元気な不法侵入者達はユランと呼ばれていた横暴なリーダーと共に森の中を進んでいく。やがて、彼らは綺麗な清水が湧く泉へと到着した。ついでにこの泉は木々を育てる為に僕が地道に掘り当てたものである。

「わー。綺麗」

「青いチョウチョがいっぱいです。隊長」

「ふむっ。じゃあ、ここで休憩だ」

「喉渇いたー」

子供達は肩に水筒を背負っているというのに、何故か、わくわくした顔で泉の水を掬って飲もうとする。
うーん、困った。この泉、幅は狭いのだけど、地下水を汲み上げる為に掘ったから、かなり深いんだ。

「ダメだよ。落ちたら溺れてしまうよ?」

そう声を掛ければ、子供達はこちらにパッと振り返った。子供達は僕を見上げ、悲鳴を上げたが、ユランという少年は腰に挿していた枝を抜き、構えた。

「出たな。バケモノ。俺がやっつけてやる」

ユランはくるりとその場で枝を回し決めポーズを取ろうとした。しかし、回した枝は隣にいた少女の頭を掠めた。

「きゃっ!」

少女の頭を掠めた枝は描いていた軌道を変え、少女の頭に付いていたお花の髪飾りと共にぽちゃりっと泉の中へと落ちていった。

「俺のバルムンクが…」

「あ…。ミラの…、ミラのお花の髪飾りっ!」

二人は僕がいる事を忘れて、呆然と深くて底の見えない泉を眺めていた。やがて、事態を理解したミラという少女の黒い瞳からはポロポロと涙が零れ落ちる。

「うわーーーっん。ユランのばかぁああーッ!!! だいっきらい」

少女は大号泣。ユランは「でも」「だって」と言い訳をするが、言い訳をする度に少女の悲しみは深くなっていく。そして遂にはユランすら泣き始めた。

これは困った。大惨事だ。
僕は慌てて顔を泉に突っ込み、お花の髪飾りとバルムンクなる枝を探した。何度か、鼻に水が入って溺れかけたのはご愛嬌。

「ごほっ、ごほ…。ほら、見つかったから泣き止んでおくれよ」

やっと見つけたバルムンクなる枝をユランの前に置き、お花の髪飾りを少女の頭に付けた。少女はピタリッと泣き止み、僕を黒い瞳で見上げた。

「ミラのお花の髪飾り?」

「そうだよ。見つかって良かったよ。君の黒い髪に映える赤い綺麗なお花だね」

ね?と少女に目線を合わせれば、少女は泣いてた事が嘘だったかのように満面の笑みで頷いた。


白にピンクに黄色。
森に生い茂る花々で器用に編まれた花冠。
頭に乗せられたその花冠には蝶々たちが舞い降りる。

「ふふっ。キレイ。ミラが作った冠、チョウチョさんいっぱいだね」

満足げにそう呟くとミラは白詰草とレンゲ、タンポポを編んで「おそろい」と自身の頭に乗せた。

「わぁ、すごい。りゅうって体全部に鱗があるんですね! 冷くて気持ちいいです」

「ぼ、ぼくも竜ちゃん触りたい」

その横では言葉遣いが丁寧なルーイと少し怖がりなマークがキラキラした目を輝かして僕の鱗に触れている。

人間って不思議。
コロコロと表情が変わる。さっきまで泣いていたかと思えば、まるで陽だまりのような笑顔を浮かべるんだ。


「な、なぁ。ソイツはバケモノだぞ」

「りゅ、竜ちゃんはバケモノじゃないよ」

「そうですよ、ユラン。竜ちゃんと僕たちはもう友だちです。ひどいこと言わないでください」

「竜ちゃん。いじめる、ユランなんてきらーい」

「笑顔の次は喧嘩かい? やめておくれよ。喧嘩はよくない」

「「「はーい」」」

すっかり三人は懐いてしまった。
ユランは僕を親の仇のように睨んできたが勘弁してほしい。僕だって何故懐かれたのか分からない。


「「「また明日」」」

そう次の約束をして夕暮れと共に子供たちは帰っていく。明日の約束なんて初めてで、明日が来るのが楽しみだと思った。変なの。

でも、何故か楽しくて、一人で森に居るのがちょっと勿体無い気がする。人の姿になり、初めて屋敷へと自らの足で向かう。

「オランジェ様?」

屋敷へ着けば、忙しそうに洗濯物を取り込むルーベンスが驚いたように目を丸くしていた。だが、ハッと我に帰るとルーベンスは凄い勢いで視線を逸らし、持っていたシーツを僕に手渡した。

「オランジェ様。裸ではクライス坊ちゃんに怒られてしまいますよ」

「あー、そうだったね。それは面倒だ」

人は裸に羞恥を覚える生き物。
ルーベンスからもらったシーツを巻けば、ルーベンスは急いで服を持ってきて僕に着せる。シーツじゃダメなのかい?

動きの制限される服にゲンナリしていると、ルーベンスはフッと優しい笑みを浮かべた。

「綺麗な首飾りですね」

ミラの花冠が首元で揺れる。
龍の時に丁度よかったミラの花冠は人になれば、首飾り。

「お作りになられたのですか?」

「違うよ。友達にもらったんだ」

「友達?」

ルーベンスは訝しげに森を見た。
これ以上話していると色々と面倒そう。僕はそっと目を逸らし、「それは不法侵入者では?」と質問してくるルーベンスを見なかった事にした。

「さて、クライスは何処だい。ルーベンス」

「話まで逸らしましたね…。クライス坊ちゃんなら書斎です。先刻まで竜神教会からの使者の相手をなさっておりました」

「へー。教会」

おそらく、あの竜を祀ってる奇特な教会。そこはかとなく、面倒な気配がして少し身震い。
恐る恐る書斎の扉を開ければ、クライスが机に突っ伏していた。
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