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手紙は告げる
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「オランちゃん。オランちゃんは手紙の内容知りたい?」
知りたい。とても知りたい。
首がもげるんじゃないかって程頷けば、ミラはまた悩む。
「オランちゃん。私達はね。何があっても、どんな道を進んでも、離れ離れでも同じ意志を掲げる仲間なの。オランちゃんも大事だし、クライス様もオランちゃんと同じくらい大事」
ミラは僕に手紙の内容を知りたいか言った事を少し後悔しているのか、申し訳なさそうに屋敷を見る。そして、何時になく真剣な眼差しが僕を見つめた。
「オランちゃんは大神官様が崩御なされた事は知っている?」
「知ってるよ。六年前に病気で」
「そう。そこから六年、竜神教は大神官不在のままなのよ」
大神官、彼の訃報は聞いている。
心臓の病でこの世を去ったのだと、帰省してきたルーイが話してくれた。
神官となり、あのクルシェ神官が神官長を務める派閥に入る事になったルーイはクルシェ神官長と共に大神官を看取ったのだと言っていた。
「思想が相容れないだけで面倒見の良い人ですよ。大神官様の看病も最期までクルシェ神官長が務めてました」
そうとても複雑そうな顔でクルシェ神官を褒めつつもルーイは、「思想が相容れない」と念を押すように言葉の端々で連呼していた。
「大神官が六年不在なのは問題なのかい?」
「結構な異常事態よ。でも、問題はそこじゃない。何故、不在なのか…、なのよ」
ミラは深く溜息を吐く。苦虫を噛み潰したような顔で手紙を見つめる。
「…不審死が続いてるの。大神官の地位に近い者ばかり。とても口には出せないような酷い死に方で」
だから、六年間大神官の不在が続いている。
ゾッとするような理由に僕はルーイが心配で立ち上がる。だが、慌てたミラに「ルーイはそこまでの地位にいないから大丈夫よ」と止められてしまった。…本当に?
「ルーイよりもどちらかというと危ないのは今、大神官の地位に最も近いクルシェ神官長よ。…まぁ、神官長本人は大神官にならないと宣言しているそうだけど」
本当の所はどうなのかしら?
ミラは紅茶を飲み、やけ食いと言わんばかりにクッキーを口に詰め込む。
「まぁ、…もぐもぐ。なるように、なるわよ。心配ないわ。ごくんっ!…まぁ、正直、オランちゃんを拐おうとしたクルシェ神官長には本人の宣言通り大神官にはなって欲しくないけどね。さてと…」
詰め込んだクッキーを紅茶で飲み込み、ミラは帰る為に立ち上がる。
帰ろうとするミラに寂しくて眉を下げれば、ミラは「あっ、言い忘れてた」と振り返る。
「ミリアリアが歩けるようになったらよろしくね」
「え?」
それは何がよろしくなのか?
ミラはその言葉に理解が追い付かない僕に「これでよし」と手を振って去っていく。
後でクライスに聞いた話。ダーウィン商会は拠点をエルドラド領に置くらしい。これからは何時でもミラにもアボットくんにも会えるんだって。
「やったね」とクライスとユランに同意を求めれば、二ヶ月に一回で充分だと二人は深々と溜息をついていた。
◇
夕食を終えた夜遅く。
クライスは執務室でルーイからの手紙を読み、精神的疲労で凝った目頭を丹念に指で揉み込んだ。
ユランはそんなクライスを気遣って、三つのカップに紅茶を注ぐ。一つはお疲れのクライスに、もう一つはミゲルに手渡し、そして最後の一つは自分で飲み、クライスに手紙の内容を問う。
「また、竜神教。クルシェ神官長様様が難癖付けてくるって?」
「それならまだマシな方ですね。その程度ならクライス様の手を煩わせる前に私とルーイくんでどうにかしてみせますよ」
ユランの問いにミゲルがクライスの代わりに食い気味に答える。
ユランはその答えに今度は難癖じゃないのか、それもまた面倒臭いと舌打ちをした。
クルシェ神官と出会ってから二十一年。
何度もクルシェ神官はクライスにエルドラド領に執拗な嫌がらせを続けていた。
信徒を使ったエルドラド領産の作物の不買運動や誹謗中傷。酷い時はクライスの暗殺教唆など。どれも嫌がらせというには悪辣だが、当人は少し唆すだけで関わってはいないので犯罪とも言えない。
その嫌がらせは大神官が死去してから年々酷くなっている。クライスは手紙を読み進め、その内容に眉を顰める。
「神官長の不審死が続いてるのは知っているな」
「ああ。あの巷では大神官様の呪いとか言われてる奴」
「呪いなんて馬鹿馬鹿しい。暗殺ですよ」
ついにクルシェ神官長は自らの手を汚しでもしたのかとミゲルは鼻で笑う。だが、手紙をクライスから手渡され、その内容を確認するとミゲルの顔色は悪くなっていく。
「クライス様。本当に、本当に呪いなんですか」
そう怯えるミゲルの姿にユランは堪らずミゲルから手紙を奪い、久々の友人の字に目を通した。
《数時間前まで確かに生きていた筈の人間が、まるで死後数ヶ月も経っているかのように腐り溶けた状態で見つかる》
そう友の字で不審死の遺体の状況が書かれており、ユランは表情を強ばらせる。
「そういう毒じゃないのか? クライス様」
「そういう毒かもな。だが、俺は次の文面が引っ掛かる」
クライスに促され、ユランは手紙を読み進める。すると、クルシェ神官長が熱心に邪竜の祭壇に祈りを捧げているという話が書かれていた。
「邪竜の魔力は腐敗と死」
神官長達の死に方は大地すら草木が生えぬ程腐敗させる邪竜を彷彿とさせる。
そして、その邪竜の祭壇に祈りを捧げるクルシェ神官長。
クライスは窓から二十五年前、自身が落とされた崖を見つめた。
「帰ってくるのかもな。邪竜が」
何時破れるか分からない竜の王が邪竜に掛けた封印。
それが破られるのは数千年後か、数百年後か。それとも数年なのか。
もしかすれば、もう既に破られているやもしれない。
知りたい。とても知りたい。
首がもげるんじゃないかって程頷けば、ミラはまた悩む。
「オランちゃん。私達はね。何があっても、どんな道を進んでも、離れ離れでも同じ意志を掲げる仲間なの。オランちゃんも大事だし、クライス様もオランちゃんと同じくらい大事」
ミラは僕に手紙の内容を知りたいか言った事を少し後悔しているのか、申し訳なさそうに屋敷を見る。そして、何時になく真剣な眼差しが僕を見つめた。
「オランちゃんは大神官様が崩御なされた事は知っている?」
「知ってるよ。六年前に病気で」
「そう。そこから六年、竜神教は大神官不在のままなのよ」
大神官、彼の訃報は聞いている。
心臓の病でこの世を去ったのだと、帰省してきたルーイが話してくれた。
神官となり、あのクルシェ神官が神官長を務める派閥に入る事になったルーイはクルシェ神官長と共に大神官を看取ったのだと言っていた。
「思想が相容れないだけで面倒見の良い人ですよ。大神官様の看病も最期までクルシェ神官長が務めてました」
そうとても複雑そうな顔でクルシェ神官を褒めつつもルーイは、「思想が相容れない」と念を押すように言葉の端々で連呼していた。
「大神官が六年不在なのは問題なのかい?」
「結構な異常事態よ。でも、問題はそこじゃない。何故、不在なのか…、なのよ」
ミラは深く溜息を吐く。苦虫を噛み潰したような顔で手紙を見つめる。
「…不審死が続いてるの。大神官の地位に近い者ばかり。とても口には出せないような酷い死に方で」
だから、六年間大神官の不在が続いている。
ゾッとするような理由に僕はルーイが心配で立ち上がる。だが、慌てたミラに「ルーイはそこまでの地位にいないから大丈夫よ」と止められてしまった。…本当に?
「ルーイよりもどちらかというと危ないのは今、大神官の地位に最も近いクルシェ神官長よ。…まぁ、神官長本人は大神官にならないと宣言しているそうだけど」
本当の所はどうなのかしら?
ミラは紅茶を飲み、やけ食いと言わんばかりにクッキーを口に詰め込む。
「まぁ、…もぐもぐ。なるように、なるわよ。心配ないわ。ごくんっ!…まぁ、正直、オランちゃんを拐おうとしたクルシェ神官長には本人の宣言通り大神官にはなって欲しくないけどね。さてと…」
詰め込んだクッキーを紅茶で飲み込み、ミラは帰る為に立ち上がる。
帰ろうとするミラに寂しくて眉を下げれば、ミラは「あっ、言い忘れてた」と振り返る。
「ミリアリアが歩けるようになったらよろしくね」
「え?」
それは何がよろしくなのか?
ミラはその言葉に理解が追い付かない僕に「これでよし」と手を振って去っていく。
後でクライスに聞いた話。ダーウィン商会は拠点をエルドラド領に置くらしい。これからは何時でもミラにもアボットくんにも会えるんだって。
「やったね」とクライスとユランに同意を求めれば、二ヶ月に一回で充分だと二人は深々と溜息をついていた。
◇
夕食を終えた夜遅く。
クライスは執務室でルーイからの手紙を読み、精神的疲労で凝った目頭を丹念に指で揉み込んだ。
ユランはそんなクライスを気遣って、三つのカップに紅茶を注ぐ。一つはお疲れのクライスに、もう一つはミゲルに手渡し、そして最後の一つは自分で飲み、クライスに手紙の内容を問う。
「また、竜神教。クルシェ神官長様様が難癖付けてくるって?」
「それならまだマシな方ですね。その程度ならクライス様の手を煩わせる前に私とルーイくんでどうにかしてみせますよ」
ユランの問いにミゲルがクライスの代わりに食い気味に答える。
ユランはその答えに今度は難癖じゃないのか、それもまた面倒臭いと舌打ちをした。
クルシェ神官と出会ってから二十一年。
何度もクルシェ神官はクライスにエルドラド領に執拗な嫌がらせを続けていた。
信徒を使ったエルドラド領産の作物の不買運動や誹謗中傷。酷い時はクライスの暗殺教唆など。どれも嫌がらせというには悪辣だが、当人は少し唆すだけで関わってはいないので犯罪とも言えない。
その嫌がらせは大神官が死去してから年々酷くなっている。クライスは手紙を読み進め、その内容に眉を顰める。
「神官長の不審死が続いてるのは知っているな」
「ああ。あの巷では大神官様の呪いとか言われてる奴」
「呪いなんて馬鹿馬鹿しい。暗殺ですよ」
ついにクルシェ神官長は自らの手を汚しでもしたのかとミゲルは鼻で笑う。だが、手紙をクライスから手渡され、その内容を確認するとミゲルの顔色は悪くなっていく。
「クライス様。本当に、本当に呪いなんですか」
そう怯えるミゲルの姿にユランは堪らずミゲルから手紙を奪い、久々の友人の字に目を通した。
《数時間前まで確かに生きていた筈の人間が、まるで死後数ヶ月も経っているかのように腐り溶けた状態で見つかる》
そう友の字で不審死の遺体の状況が書かれており、ユランは表情を強ばらせる。
「そういう毒じゃないのか? クライス様」
「そういう毒かもな。だが、俺は次の文面が引っ掛かる」
クライスに促され、ユランは手紙を読み進める。すると、クルシェ神官長が熱心に邪竜の祭壇に祈りを捧げているという話が書かれていた。
「邪竜の魔力は腐敗と死」
神官長達の死に方は大地すら草木が生えぬ程腐敗させる邪竜を彷彿とさせる。
そして、その邪竜の祭壇に祈りを捧げるクルシェ神官長。
クライスは窓から二十五年前、自身が落とされた崖を見つめた。
「帰ってくるのかもな。邪竜が」
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それが破られるのは数千年後か、数百年後か。それとも数年なのか。
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