39 / 50
再会は死んでから
其ノ十三
しおりを挟む
その後、家に戻ってからすぐに、姑獲鳥と加奈の間にあるすべての縁を切ってやった。加奈が倒れて以来、時化た面をしていた姑獲鳥も、縁切りの際は一切の未練も感じさせなかった。結局、縁切り以外の方法を提案することはできなかったけれど、姑獲鳥が満足だと言い張るから、これ以上お節介を焼くことはできない。
ヨスガ曰く、縁とは一度切っても再び繋がってしまうことがあるものらしい。縁は誰かが手を加えなくても、勝手に繋がったり切れたりを繰り返しているという。近くにいるればいるほど、特に縁は繋がりやすいらしい。もし、姑獲鳥が今後も加奈の元を訪れるようだと、二人はまたすぐに繋がってしまうだろう。
それを危惧して、姑獲鳥はどこか遠く、加奈とはうっかりでも出会うことがないほど遠い地へ旅立つこととなった。
「お世話になりました」
深々と頭を下げる姑獲鳥。背中の大きな荷物のせいで、少しよろける。出会った際は手ぶらだったにもかかわらず、大量の荷物を背負っているのは、ヨスガがお節介でいろいろ持っていくよう勧めたせいだ。
「行っちゃうんだね」
「この街にいて、またターカナに迷惑をかけるわけにはいかないから」
「これから、どこに行くつもりなの?」
「とりあえず、旅をしてみようかなって。どうせ、ここに帰って来れないなら、いろんなものを見てみたいと思って」
「そうなんだぁ。お姉さんは、寂しいよ。姑獲鳥ちゃんも、もし寂しくなったら、これを見てわたしのことを思い出してくれていいんだからね」
ヨスガは己の長い金髪を数本抜きとると、姑獲鳥の指に結んであげていた。蘇芳は自分だったらされたくないとか野暮なことを考えていたけれど、姑獲鳥はうれしそうにしていたから、それでよかったのだろう。
「ほら、これも持っていけ」
蘇芳もヨスガのついでに、はなむけの品を手渡した。
「これは……」
それは姑獲鳥色のブレスレッド。太陽の光が反射して、より一層輝いて見える。
「加奈に渡せって言われたからな。正確には言われてないけど」
受け取って最初は無表情だった姑獲鳥だが、次第に実感が湧いてきたのか、じわじわと、それこそ生地が熱されてパンが膨れ上がるみたいに表情は明るくなって、仕舞にははち切れんばかりにくしゃくしゃに崩すのだから、加奈の気持ちもきっと報われるだろう。
「ありがとう。大事にする」
姑獲鳥はブレスレッドを腕に通した。輪っかは彼女の手には少し大きいようで、今にも外れてしまいそうなくらいぶかぶかだった。その様はとても尊かったけれど、このままでは落っことしそうで仕方なかったから、丈夫なひもで腕に括りつけてやった。
「じゃあ、行くね」
「元気でな」
「またどこかで」
「うん、またね」
姑獲鳥が背を向け去っていく。数歩進むたびに、彼女は振り返り手を振っていた。あまりに小刻みに振り返るから、心配にもなる。けれど、蘇芳にできることはここで手を振り返すことくらいしかない。
ヨスガの話では、妖怪も人間と同様、時間が経てば天に帰るという。妖怪の皮を抜け出して、いち魂として向こうの世界へ流れていくらしい。人間と比べるとその時間スケールはかなり長大だそうだが、それでも終わりは必ず来るという。
だとすればいつか、加奈とも再開できるだろう。それがどんな形になるかは分からない。どれだけ先かも分からない。けれど、きっとまた二人の縁は繋がって、一緒に過ごせるときが来るだろう。
――それまでは、頑張れよ。
心の中でエールを送る。姑獲鳥はもう振り返らない。
ヨスガ曰く、縁とは一度切っても再び繋がってしまうことがあるものらしい。縁は誰かが手を加えなくても、勝手に繋がったり切れたりを繰り返しているという。近くにいるればいるほど、特に縁は繋がりやすいらしい。もし、姑獲鳥が今後も加奈の元を訪れるようだと、二人はまたすぐに繋がってしまうだろう。
それを危惧して、姑獲鳥はどこか遠く、加奈とはうっかりでも出会うことがないほど遠い地へ旅立つこととなった。
「お世話になりました」
深々と頭を下げる姑獲鳥。背中の大きな荷物のせいで、少しよろける。出会った際は手ぶらだったにもかかわらず、大量の荷物を背負っているのは、ヨスガがお節介でいろいろ持っていくよう勧めたせいだ。
「行っちゃうんだね」
「この街にいて、またターカナに迷惑をかけるわけにはいかないから」
「これから、どこに行くつもりなの?」
「とりあえず、旅をしてみようかなって。どうせ、ここに帰って来れないなら、いろんなものを見てみたいと思って」
「そうなんだぁ。お姉さんは、寂しいよ。姑獲鳥ちゃんも、もし寂しくなったら、これを見てわたしのことを思い出してくれていいんだからね」
ヨスガは己の長い金髪を数本抜きとると、姑獲鳥の指に結んであげていた。蘇芳は自分だったらされたくないとか野暮なことを考えていたけれど、姑獲鳥はうれしそうにしていたから、それでよかったのだろう。
「ほら、これも持っていけ」
蘇芳もヨスガのついでに、はなむけの品を手渡した。
「これは……」
それは姑獲鳥色のブレスレッド。太陽の光が反射して、より一層輝いて見える。
「加奈に渡せって言われたからな。正確には言われてないけど」
受け取って最初は無表情だった姑獲鳥だが、次第に実感が湧いてきたのか、じわじわと、それこそ生地が熱されてパンが膨れ上がるみたいに表情は明るくなって、仕舞にははち切れんばかりにくしゃくしゃに崩すのだから、加奈の気持ちもきっと報われるだろう。
「ありがとう。大事にする」
姑獲鳥はブレスレッドを腕に通した。輪っかは彼女の手には少し大きいようで、今にも外れてしまいそうなくらいぶかぶかだった。その様はとても尊かったけれど、このままでは落っことしそうで仕方なかったから、丈夫なひもで腕に括りつけてやった。
「じゃあ、行くね」
「元気でな」
「またどこかで」
「うん、またね」
姑獲鳥が背を向け去っていく。数歩進むたびに、彼女は振り返り手を振っていた。あまりに小刻みに振り返るから、心配にもなる。けれど、蘇芳にできることはここで手を振り返すことくらいしかない。
ヨスガの話では、妖怪も人間と同様、時間が経てば天に帰るという。妖怪の皮を抜け出して、いち魂として向こうの世界へ流れていくらしい。人間と比べるとその時間スケールはかなり長大だそうだが、それでも終わりは必ず来るという。
だとすればいつか、加奈とも再開できるだろう。それがどんな形になるかは分からない。どれだけ先かも分からない。けれど、きっとまた二人の縁は繋がって、一緒に過ごせるときが来るだろう。
――それまでは、頑張れよ。
心の中でエールを送る。姑獲鳥はもう振り返らない。
0
あなたにおすすめの小説
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる