異世界で地球人を探せ! と女神に頼まれまして……

飛永英斗

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グレアンドラ町編

死霊を甦らせる青年

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 バスは荒野を走り続ける。窓の外には、穏やかそうなモンスター達が、昼寝したり、じゃれあったりしてる。そして、その隣ではその姿に興奮してる人がいる。


 「わあぁぁぁ……ずーっとここに居たぁい!」

 「無茶言うなってのメノ。バスをここで止める訳にはいかないだろ。 それに、折角モンスターが沢山いるのに、絵、描かなくていいのか?」

 「あ、そうだったぁ! 急いで書き写さなきゃ……」


  メノは急いでスケッチブックを開き、真剣な眼差しでモンスターを書き写し始めた。

 一方七海は、駅前にあった本屋で買ってきた、ガイドマップを読んでいる。


 「七海、グレアンドラ町って何が特徴なんだ?」

 「ここに載ってる記事では……グレアンドラ町は、かつての大きな戦いで破れた、凄腕剣士が眠っている墓があるらしいわ。でも、お墓めぐりなんて趣味じゃないし……」

 「凄腕剣士、かぁ。……本当にそんな職業あるの?」

 「──駿我くん、一応ここはなのよ? うちの町がおかしかっただけなの。外の町は……まあ、駿我くんがかつて想像していた職業ばかりだと思うわ」


 よかった、モーサン町がおかしかっただけなののか。じゃあもっと剣士とかアーチャーとかドラグーンとか存在するのか……。


 「……それで、動画の企画とかどうするの? トールドんも考えては居るだろうけど、予めこっちでも幾つか用意しておきましょ」

 「そうだな……やっぱり、タピオカミルクティーを作ってみたとか?」

 「同じネタは飽きられるし、タピオカ擬きの元は由紀香ちゃんにあげちゃったわ。却下」

 「ダメだよな……メノはどうだ?」

 「同人誌描いてみたでいいんじゃないかなぁ……あ、今凄い可愛い子いた!」


 筆が入ったら、別の事には集中出来ないメノ。同人誌描いてみたは年齢制限食らうからダメだ。健全なのならまだいいが、メノはそんなの描かなそう。


 「……やっぱり、まだ考える必要があるみたいね。他に何があるかなぁ……」


 ※


  結局、何もいい企画が思いつかないまま、グレアンドラ町に着いてしまった。

 あちこちに花壇があって、花の心地よい香りが鼻を通る。蝶々もあちこちで舞って、この町は平和そうだ。

 ──だが、この町もまた異世界らしくない。普通にTシャツやパーカーを着ているし、八百屋や魚屋ではなく、。質屋じゃなく、が建ってある。これじゃあモーサン町とほとんど変わんないよ……。


  まあそれは置いといて、俺らは行く前に役所で貰った地図を広げて、トールドさんとの待ち合わせ場所を確認していた。


 「それで、トールドさんはこの場所待っているのね。でも、繁華街から離れた場所で、住宅もほぼない……本当に大丈夫なの?」
 
 「大丈夫さ! あんな丁寧な文章を書く人が急に襲ってきたりなんかしないって!」

 「それならいいんだけど……まあ、待たせる訳にも行かないし、早く向かいましょ。ね、メノちゃん」

 「う~……もっといい絵描けたなぁ……」


 メノはさっきバスで描いていた絵を見て一人反省会をしているようだった。


  「メノ、スケッチブックは一旦閉じろ。また後で描く時間あるからさ」

  「はぁい。で、どこ行くの?」
 

 ──全く聞いてなかったようだな。俺と七海は顔を合わせて、呆れ顔になった。


 




 およそ十分後、俺らは待ち合わせ場所らしき場所に辿り着いた。

 だが、トールドさんらしき人は見当たらない。それに、目の前には大きな墓がある。なんて物騒な場所を待ち合わせ場所にしたんだ……。


  「これがガイドマップに乗っていたお墓ね。えっと、(勇敢な戦士、ディメルス=ブレイブ、ここに眠る)だって……」

  「ディメルス……いかにも見た目がカッコよさそうな名前だな」

  「もうここにはいないから、顔を確認出来ないのが残念だねぇ……」





 「ディメルスの事、興味あるのか」

 「うわぁっ!?」


 突然の声と共に木の裏から現れたのは、グレーのロングパーカーを着て、首にペンダントを付けた、俺より少し年上らしい青年だった。


 「お前達が、苺畑か?」

 「は、はい! 苺畑で間違いありません! 貴方はトールドさんですか?」

 「ああ、トールド・スリヒトだ。……話は聞いている。ウチへ向かおう」

 「は、はい……」


 ──なんだろう、イメージと全然違うぞ。ネットでは敬語になるタイプなのかな?

 ていうかこれ、本当についていって大丈夫なのか……?



 ※


 意外に着くのは早く三分後、とある場所に辿り着いた。


 「ここだ。この人形店に居候させて貰っている」


 この人形店は人通りも少なく、湿気が凄い場所に建ってある。俺らなりすましに会ってるのか?


 「さあ、入ってくれ」

 「お、お邪魔しま……うわぁぁ……」


 店内には、可愛くない人形ばかり売っている。二頭身じゃなくて、等身大サイズの人形店らしい。にしても不気味だなぁ……。


 「二人とも、こういうの平気なのか?」

 「「うん。平気平気」」


 二人共、こういうのには耐性あるらしい。本当に変わった奴らだな……。


  「客室はこっちだ。上がって」


 靴を脱いで、トールドさんの言われた通りに客室へと入った。客室は普通の和風な部屋だった。一般的な異世界では普通じゃないのだろうけど。


  「……モーサン町からここまで長かったろ。ゆっくり休んでいきな」

 「ありがとうございます。あ、そういえば煎餅があるんです。良かったら……」


 七海がトールドさんに煎餅を渡す。受け取ったトールドさんは、じっとパッケージを眺めている。……もしかして、お気に召さなかったかな?


 「……美味しそうだ。お茶の用意をしてくる」


 少しだけ笑みを浮かべながら、トールドさんは客間を離れていった。


 「──怖そうな人だと思ったけど、結構優しそうな人だねぇ……七海ちゃん?」

 「あのペンダント……どこかで見覚えがあった気がするわ……」


  トールドさんが付けていたペンダント。確かに攻撃力が上がりそうな感じがするが、冒険職に就いているようでもないし……。


 「……お待たせ。熱いからよく冷まして飲めよ」

 
 戻ってきたトールドさんは、さっきまで着ていたロングパーカーを脱いで、黒の作務衣さむえの状態だ。


「……何だ、ペンダントが気になるのか?」

 「いや! その、それ、どっかで見た事あるような気がしたんで……」

 「そうか……え、おい、本当に姿を見せんのかよ……ったく、仕方ないな……」


 トールドさんは突然、ペンダントに向かって話し始めた。何やってるんだろうと思ったけど、俺と萌子が話してる時も、周りにこう思われてたのかな……。


 「──ディメルスもお前らと話したいようだ。今から合わせてやる」


 そう言うとトールドさんは、ポケットから小さな藁人形を取り出し、高く宙へ投げた。

 そして、首にかけたペンダントを藁人形に向けて、こう唱えた。


 「──憑依魔法発動!! 憑依対象はこの霊人形。魂を乗り移せ……ディメルス!! 蘇 生レズレクト精 霊スピリット!!」


 唱えた途端、ペンダントから一つの光が藁人形目掛けて飛んで行った。そして、目が開かない程、部屋中が光で溢れた。


 光が消え、目を開いてみると、さっきまで誰も居なかった場所に、硬そうな鎧に高そうな指輪という重装備で、更には金髪と言う、正に剣士のような見た目をした男が立っていたのだ。


 「ディメルス=ブレイブ、再びこの地に蘇ったり!! ……スリヒト様、私のわがままを聞いてくれてありがとう。そして……苺畑の皆さん、お会い出来て光栄です」


 異世界とは言え、既に死んでしまった人を甦らせるなんて有り得ない……お墓もある筈なのに……。


 「ど、どどどどういう事なんだ七海……」

 「こ、こんな憑依魔法を使う人なんて、見た事も聞いた事もないわよ! トールドさん、貴方一体何者なんです!?」

 「普通の人になら教えるつもりないが……同じ地球人として、今回は特別にお前らにも教えてあげよう」



  トールドさんは座布団に座り、ディメルス=ブレイブとの経緯を話し始めた。時間の経過を忘れる程に。

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