エビの一生

茶竹 葵斗

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エビの一生

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 オレはエビだ。ミナミヌマエビだ。
 日本全国どこの川にでも生息しているちっぽけなエビだ。ちなみにペットショップにもいるぞ。

 オレは川での生活を謳歌おうかしていたが、どこの馬の骨かも分からん物好きの夫婦に網ですくわれて、60センチくらいの透明な水槽に隔離されてしまった。

 女のほうが丁寧に水合わせとやらをやってくれたので、水温の差とか水質の差に左右されることなく水槽へと入ったよ。

 最初は正直怖かったんだが、ここでの生活もまあ悪くはなかった。水面から投入されるエサの匂いにつられて、仲間達と一緒にザリガニ用のそれをついばんだ。夫婦はそんなオレ達を見て大層微笑ましそうな面をしてた。

 ある日、水槽にサカナが現れた。それは茶色い体に一本銀色の線が入った、アカヒレというやつだ。5匹のアカヒレ達の中には2匹金色のやつも混じっていて、きらきらと光っていた。

 奴らはオレ達に見向きもせずぴこぴこと泳いでいた。正直何を考えているのか分からない奴らだ。エサを投入されてもそんなに興味も示したりしなかったし、何せ目が怖かった。死んだサカナのような目をしてた。

 オレ達ミナミヌマエビはアカヒレと共に優雅な日々を送っていた。しかし日が経つにつれて、アカヒレ達は徐々に死んでいった。オレ達は少しの悲しみを覚えつつも、無駄にしないようにと彼らの体をついばんだ。そうして最後に金色のアカヒレが1匹残ったところで、また平凡な日々が訪れた。

 そうして時が流れて、オレ達は大家族になった。ちっちゃいエビを見る夫婦の顔はやはり微笑ましいものだった。

 ある日、また違うサカナが水槽にやってきた。こいつらはメダカというらしい。メダカはアカヒレとは違って水の中を悠々と泳いだ。まるでジェット機のようだった。

 メダカ達は水槽を我が物顔で泳いでいた。稚エビをつついては食べていった。オレの友達も食われた。夫婦は「おかしいな、おかしいな」と言いつつ、結局オレ達を救うことはなかった。

 そうして、オレは最後の1匹になった。アカヒレの金色のやつとおんなじ、1匹ぼっちだ。どうやらオレは他のエビ達と比べて体が大きかったので、食われるのを免れたらしい。

 悲しかった。たくさんの仲間達に囲まれて、何を考えているのか分からないアカヒレ達を見上げているのが楽しかったのに。今オレのことを見てくれるのは夫婦以外他にいない。

 夫婦は言った。「この子が最後の生き残りだね。あと1年はもってほしいね」

 そうだ。オレ達ミナミヌマエビの一生は1、2年で終わる。水槽の中で暮らしてきて、もう半年程経つだろう。オレもそろそろ寿命かもしれない。

 オレはまだ死んだサカナのような目をしている金色のアカヒレを見上げた。

「なあ、オレ達、命を繋げられたかな。お前の仲間をついばんで、そんなオレ達をメダカが食った。命を繋げられたかな」

 命は回る。回り回って、いろんな奴らが今を生きている。悲しいけど、悲しいことじゃないさ。


オレはエビ。どこにでもいる、ミナミヌマエビだ。
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