秘めた思いと繋がり

しぎょく

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 十数時間後、ようやく日本に到着した。
 空港のロビーで玲那さんが黒服を着た男の人と一緒に僕らを出迎えてくれた。
 イギリスでの話は車の中で聞くからと言われ、僕たちは車の待つ場所まで行き、真っ黒のリムジンに乗り込んだ。
 直ぐに車は学園に向けてだと思うけど発車した。

 「で?君がジュベール君だね?初めまして、ひろちゃんやきーくんから聞いていると思いますが、夢見野玲那と申します」

 流暢な英語だった。
 これだけ綺麗で訛りのない英語をここまで話せたら英語圏の国なら十分通じるだろう。
 浩は隣で通訳しろとうるさい。
 この程度の英語なら通訳しなくても誰でも分かるだろうけど、浩にはさっぱりなのだろうな。
 とりあえず挨拶しているだけだと言う事を浩に伝えた。
 本当に浩には子どもでも分かるぐらいの英語は分かって欲しい。
 いちいち通訳するのがめんどくさい。

 「学園の手続きは君の叔父さんであるトレイスさんがしてくれたから心配はないわ。入学は歓迎だけど、ちょっとした試験をしてもらう事になるわ。留学生がするような簡単なものだからきっと大丈夫よ」

 ジュベールならきっと大丈夫。
 僕はきっとその試験に受かるのを信じている。
 玲那さんも受かる事を前提に言っていると思う。

 「きーくん、大変だったんだって?ひろちゃんから粗方のことは電話で聞いたけれど、きーくんが倒れて一ヶ月寝込んでいた事しか教えてくれないもの!あとひろちゃんのお母さんのことしか・・・・だから、いっぱい教えてね、何があったか」

 獲物を狩る目。
 何がなんでも手紙に書かれていた通り、僕と浩の事を聞くつもりだ。
 浩は僕が倒れたと言う事と母の事を話した以外は話していないみたいだった。
 今後の会社の事があるので、支社のことは僕が直接話さなければならない。その事を分かっているからあえて話さなかったのだろうか。
 支社の事を話すとき、玲那さんだけではなく、志気君にも聞いてもらいたい。

 「あっそうだ、忘れていたわ。ハイきーくん。トレイスさんがきーくんに渡して欲しいって頼まれたの。箱の中身は見ていないから安心して」

 小さな箱だった。
 どうせ明後日会うのだから、その時に渡してくれればいいと思ったけれど、今これがあるほうが支社の話をするとき、話しやすいとおもう。
 だからこの事を予想してトレイスは手続きに来た時に玲那さんに渡したのだろう。

 「ねぇそれ、なんなの?」

 「後でのお楽しみです。学園に着くまで楽しみに待っていてください」

 楽しみにするようなものではないけれど、驚かせたいという気持ちがあるので、それまで箱を開けずにいる。
 箱の中に何が入っているのかは知っているけれど、すべてトレイスにこの事を任せていたので僕もまだ見ていない。
 寮に帰ったら、とりあえず箱を開けて中身を確認してから玲那さんや志気君にこれを見せるつもりでいる。

 「学園に着いたわよ。お帰りなさいひろちゃん、きーくん」

 学園の門を通り、学園内へ入る。
 この風景を見るとようやく日本に帰って来たという感じがする。
 思ったとおり車は寮に向かっていた。
 寮の前で男子寮の寮管さんと大学部の生徒らしい男性が立っていて、車から降りた僕たちを出迎えてくれた。

 「お帰りなさいファボット君。中川君。えーっと、そこの貴方がジュベール・マキシマン君なのかな?」

 姓はマキシマン。普段フルネームで言う事がないかあらうっかり忘れていた。

 「ハジメマシテ・・・・・ジュベール・マキシマントモウシマス。ヨロシクオネガイシマス」

 一ヶ月やそこらで日本語を話せるようになるのは無理のは分かっている。
 ずっとトレイスやグレイスがジュベールに日本語を教えていたみたいだけど、結局挨拶程度の日本語しか教えられなかったと言っていた。
 挨拶が出来れば十分だと思う。後は僕が通訳すればいいと思うけど、やっぱり僕以外に誰か英語は話せる人物が欲しいと思った。
 夜とか休日はいいけれど、授業がある間は僕が一緒にいるというわけにはいかない。

 「え・・・あ・・・・その・・・・」

 寮管さんは困っているように見えた。

 「あっ・・・・日本語でいいですよ。僕が通訳します」

 前に一度僕宛に電話が掛かってきたとき、志気君が伯父の応対をしていたので、急だったということもあるだろうけど、あまり話せないのだろう。
 とはいえ、浩ほどではないと思う。さっきもジュベールを見たとき、英語で言っていたから、簡単な言葉ぐらいは大丈夫なのだと思う。

 「お願いしてもいいかしら?」

 「もちろんです」

 「まず、私の隣にいるこの方を紹介するわね・・・・」

 寮管さんの隣にいた人は大学部の寮長さんだった。
 とっても落ち着いた人で、ある程度なら英語を話せるらしく、寮管さんが連れてきたらしい。
 大学部の寮の名かはこの寮長さんが案内してくれると言ってくれたので、しばしばお別れとなった。
 後でジュベールを僕たちの部屋に連れてきてくれると言ったので、任せることにし、僕たちは一度部屋に戻る事にした。
 玲那さんも、僕たちに落ち着いてからでいいから生徒会室に来るように言って、車で戻っていった。
 部屋の戻った僕たちは、荷物を片付けていた。

 「きよ・・・・・・・・」

 あの日以来、二人でいる事はたくさんあったけれど、何も出来なかった。
 ジュベールが持っていた僕の荷物を別れる前に受け取ったけれど、その荷物を人がせっかく片付けようとしているのに、浩は邪魔するように後ろから抱き付いてきた。
 抱きつかれるのは嬉しいけど、邪魔しないで欲しい。
 引き離しても離れないので、片付けるのは諦めた。

 「ばか・・・・・・・ん・・・・・」

 抱きつく浩に僕は自分から唇を重ねた。
 僕だってこうしたかった。
 キスをしてと浩に言うことはあったけれど、僕から浩にキスをしたことはなかった。
 少し驚いていたけれど、目つきが分かったように浩は、僕の体勢を変え、向かい合うようにし激しいキスをしてくれた。
 息が出来ないぐらい激しいキス。何度も何度も繰り返ししてくれる。

 「ん・・・は・・・あ・・・・・ん」

 体がぞくぞくする。
 頭もジンジンと痺れて体に力が入らず立っていられない。
 浩に支えられながら立っているのがやっとだ。

 「・・・ベッドに行くか?立っていられないだろ?連れてっていってやるよ俺のベッドに・・・・」

 軽々と抱きかかえられた。
 ベッドに連れて行ってくれるのは嬉しいけど、これはないだろう。
 俗に言うお姫様抱っこ。
 浩にすればこの方が抱きやすいのかも知れないが、誰も見ていないと分かっていても恥ずかしかった。
 おろして欲しいと頼んでも自分の力でベッドにいける自信がなく、恥ずかしいけれど、連れて行ってもらうしかなかった。

 「しても・・・・いいか?」

 もうあの時の僕ではない。
 今の浩が僕に何をしたいのか十分分かる。
 僕は何もかも受け入れるつもり。何をされても言いと思うし、してほしいと思う。だから浩の好きなようにしてほしいので僕は頷いた。
 「ん・・・・・あっ・・・・・・」

 キスをされながら浩の手が服の中にもぐりこませ、何かを探るように手が動き回り、やがてその手が僕の乳首を見つけ、ギュッと摘まれた。
 乳首を摘まれた瞬間、僕の口から甘い声が洩れた。
 その声を聞いた浩は、何度も何度も乳首をぐりぐりをいじくったり、つまみあげたりして、遊んでいる。

 「あっ・・・・ん・・・・・あ・・・もう・・・だめ・・・やだ・・・・」

 遊ばれるのが嫌だった。

 「わかったよ・・・なにがして・・・・・?」

 何かを察して突然手が止まった。
 よく耳を澄ましてみると足音が聞こえる。
 足音はだんだん近づいてくる。このまま通りすぎてくれればいいと願いたかったけれど、万が一ジュベールならと思うと、そうは言っていられないので、二人で決めた結果ここは一度中断することとなった。
 中途半端で終わったので何かが物足りなく、体は火照りうずいていたけれど、我慢した。
 足音は部屋の前で止まった。
 ジュベールだろうかと思ったけれど、ノックの音がジュベールのものではなかった。
 誰だろうと扉を開けたら、志気君が立っていた。
 僕が帰って来たのを知って顔を出しに来てくれたのだろう。立っているのもなんなので、部屋に入ってもらった。

 「どうだったイギリスは?伯父さん元気だったか?」

 「相変わらず忙しい人ですけど、元気でしたよ」

 冷蔵庫の中に真新しい未開封のお茶のペットボトルが入っていたので、コップにお茶と入れて志気君に出した。
 志気君は伯父の事を知っている。
 寮に掛かってきた電話を応対してくれたのがしき君でよかったと思う。

 「中川君も向こうに行ったって聞いたよ。お母さんには会えたのかな?」

 「ああ・・・・・」

 伯父のことだけではなく志気君は僕たちの事情も知ってくれているので、話をするにしても一から説明をする必要はないので楽。

 「し・・・・志気君!あ・・あのね、後で志気君に大切な話があるの。これは、志気訓だけじゃなくて、生徒会長である玲那さんにも聞いてもらいたいことだから・・・あ・・あの・・・・」
 何て言えばいいのだろう。
 説明したいのにどう伝えればいいのがが、分からない。言葉が見つからない。
 これから人の上に立つ身になるのに、こんな所で詰まっていていいはずがないのに、どう言えばいいのかが分からなかった。
 
 ぱこーん

 軽い音が部屋に響いた。
 浩に頭を叩かれた。
 痛くは無かったけれど、突然のことだったので驚いてしまった。

 「何をやっってんだよ、んな簡単な事もちゃんと言えねーのか?」

 「え・・・あ・・・・だから・・・」

 「ぐだぐだ言わず、大切な事を言いたいから生徒会室に来いって言えばいいだろう」

 ごもっとも浩の言うとおりだった。
 遠まわしに言わなくても、浩が言うように言っても十分相手には伝わるはずなのに、どうして僕はこう遠回りにしか言えないのだろう。
 本当に僕はこんなんで支社の皆をまとめることが出来るのだろうと心配になった。

 「澄くんの言いたいことは十分俺に伝わったよ。もちろん、澄君が僕に話があるなら聞くよ。それに何処でも行くよ」

 「ありがとうございます。本当は今すぐ生徒会室に行って話したいのですか、もう少し待ってもらってもいいですか?あと一人こっちに来るので」

 ジュベールが来れば直ぐに生徒会室に向かうつもりでる

 「それにしてもあいつおっせーなー・・・なにしてんだよ、ぐずぐずしていたらほって行くぞ」

 待つことが嫌いな浩はイライラしていた。
 僕のことになると幾らでも待ってくれていたりするけれど、こういうことになるとまったく待っていられない性格をしている。
 あと、志気君が来た事であれが中断されたのも原因かもしれないけれど、基本人を待つのが嫌いだというのが分かる。

 「もう少し待ってあげてひろ・・・・あっ、この足音来たんじゃない?」

 部屋の番号はあらかじめ伝えていた。
 慌てたような足音が部屋の前で止まったので、多分ジュベールだと思う。
 何時ものように入ってきてもいいといっているので、ノックをしたら入ってくるだろうと思ったけれど、どんどんというノックの音がなるだけで、扉が開くことは無かった。
 間違っていたらという心配があってノックだけして僕があるのを待っているのだろうと思い、部屋の扉を開けた。

 「待っていたよジュベール。中に入って何か飲む?それともこのまま玲那さんの所に行く?」

 トレイスやグレイスが淹れるようなお茶は淹れられないけれど、冷蔵庫の中にお茶が入っているのでそれを出す事は出来る。

 「いえ・・・・僕は大丈夫ですので、行きましょう」

 ジュベールがそういうので、僕たちは寮を出て生徒会室に行った。
 道中、志気君にジュベールの事を聞かれたので、歩きながらジュベールの事を話した。
 パーティーの時に父親であるグレイスに会った事があるので、グレイスの息子だという事を話、後は日本で勉強するために留学してきたと僕は言った。
 ジュベールもグレイスから志気君の事を聞かさせられていたみたいで、二人は直ぐに打ち解け、話をしていた。
 久しぶりに志気君の英語を聞いたけれど、やっぱりとっても綺麗だ。
 訛りもなく、とっても聞き取りやすい。

 「お前らいつまで話してんだ?とっくに着いたぞ?」

 話をしていて気が付かなかった。
 浩は英語が分からないので詰まらなさそうにさくさくと先に行ってしまう。
 僕も二人と話したいけれど、浩と一緒にいたいという両方の気持ちがあったので、ところどころ二人の会話の中に入りながら、浩の後を追っていた。
 玲那さんの家兼生徒会室になっている屋敷の中に入り、生徒会室として使っている部屋に向かった。
 浩は厨房に何かを作るように言ってから上がるといっていたので僕たちだけ先に向かった。
 ノックをしてから、部屋の中に入ると、部屋はたくさんの書類で埋まっていた。
 書類をよく見るよ未処理書類ばかり。浩がいないだけでこれだけ溜まるのだと思った。

 「いらっしゃいきーくん。きーくんたちが来るの首を長くして待っていたのよ。ここじゃゆっくり話せないと思うから、隣の部屋に行きましょう」

 これだけ書類でゴチャゴチャしていれば誰もが気になった落ち着かないだろう。
 後でこの書類を全て浩がするのかなっと思いながらが、隣の部屋に入った。

 「どうぞ好きなところに座って。何か飲み物でも持ってこさせるわ・・・・あら?ひろちゃんいたの?」

 内線でお茶を持ってこさせようと受話器をとった時、遅れてやって来た浩が何かを手に持って中に入ってきた。

 「お前俺がいる事を知ってワザと言ってるだろ」

 「もちろん言ってるわよ!」

 パチンと手を鳴らして楽しそうに言う。
 浩と玲那さんのこの会話、とっても久しぶりに思う。
 イギリスにいた間、浩に何かが足りない気がしていたけど、玲那さんとのやり取りが無かったから、足りないように思ったんだ。
 こっちに戻ってきて玲那さんに会うと、僕とずっと一緒にいたときとはまた違う浩の顔になるのだと言うのがよく分かる。
 僕といるときは気を使ってくれているのか使ってくれていないのか分からなかったけれど、玲那さんといると、玲那さんに遊ばれて、じゃれているようにしか見えない。
 どっちが本当の浩なのだろうと思ったけれど、どっちも本当の浩。ただ、僕と一緒にいると浩は兄の顔になるだけ。玲那さんがいるときの顔は兄の顔ではなく、普通の浩というわけだ。
 兄でいるときの浩も好きだけど、僕の前でもこういう浩でずっといて欲しいなと思いながら、ぎゃんぎゃんと玲那さんに吠える浩も見ていた。

 「さて、ひろちゃんとは十分遊んだから、そろそろ本題に行ったほうがいいのかなきーくん」

 切り替えがスッごく早い。
 突然話が切り替わられた事により、浩は苛立ちを見せている。
 玲那さんは久しぶりに浩と遊んで満足そうにしているけれど、浩は、苛立ちの中に言い足りないと言う物足りなささがあるようだ。

 「話をする前に、玲那さんと志気君にこれを渡しておきます」

 部屋に戻ってから空けよう思っていた箱を浩のせいで開けられずにいたので、この場で箱を開封し、中を取り出し、中のものを二人に渡した。

 「これ名刺?・・・・え?日本支社社長って・・・・きーくん?」

 箱の中身は名刺。

 トレイスが先に日本に行くと聞いたときに、日本で英語と日本語の両方の字で書いた名刺を作るように頼んだもの。
 今はじめて名刺を見るけれど、シンプルが一番だと思っている僕には丁度言い感じのデザインだ。
 流石僕の好みを分かってくれていると思い、嬉しかった。

 「澄君・・・・これ・・・ほんとうなのか?まさか、あの時・・・・」

 二人とも名刺を見てかなり驚いていた。
 突然こんな物を渡されて、僕が支社長だって書かれていたら驚くのも無理はない。
 信じてもらえないか見知れないけれど、これに書かれている事は事実。ちゃんと話をすれば分かってくれるだろう。
 「うん・・・あの時用事があるからって言われたのが、これだったの・・・」

 あの時はこんな事になるとは思っていなかった。
 でも社長になるという最終結論を出したのは僕自身。いまさら止められるはずがない。

 「すごいな澄君は。この年で支社を任されるなんて」

 「ほんと、すごいわきーくん。驚いたけれど、応援するわ」

 「あ・・・・ありがとう・・・ございます」

 想定外だった。
 もっと何か言われるかと思ったけれど、意外にもすんなりしていた。
 何か言って欲しかったけれど、反対されるよりはずっといい。

 「でも、社長をするとなれば学校は休むのか?」

 「それは嫌だわ私。せっかくきーくんが生徒会に入ってくれたのに、きーくんがいないなんて耐えられない」
 「それは・・・大丈夫です」

 学校も休むことなく生徒会も続けれる事を話した。
 暫くは支社が落ち着くまでは僕も平日学校を休んで会社に出向かなければならないけれど、落ち着けば平日はトレイスに会社を任せられる。よほどのことがない限り僕は休日のみの社長。
 会議だって平日ではなく、休日にしてくれると言っていたので問題はない。

 「ジュベールくんも、きーくんと同じ条件なのよね?その分、寮で伯父さんであるトレイスさんに代わってきーくんの執事をするって聞いたけど」

 『僕は、見習いですけど、リュセ様の執事です。伯父が執事としてリュセ様の側にいられないので、年の近い僕がいるしかないです』

 まだまだトレイスやグレイスの足元にも及ばないけれど、執事として日に日ひ腕を上げているのが分かる。
 『寮長には私から話を通しているから、遠慮なく渡り廊下を渡っていいわよ。鍵は常に開いているはずだから。万が一しまっていたら、この鍵を使いなさい』
 といって玲那さんはジュベールに渡り廊下の鍵を渡した。
 『ひろちゃん、さっきから静かだけど、どうしたの?もしかして私たちの会話分からないから拗ねているの?やーん、かわいいひろちゃん』
 英語が分からない事を分かっていてあえて日本語を話そうとはしない。
 ジュベールがいるから、英語が主流になってしまうけれど、なるべく僕は浩に分かるように通訳するようにしているけれど、どうしても出来ない時がある。
 玲那さんは面白がって絶対に日本語を話そうとはしないし、志気くんは志気くんで遠慮しているのだろう。
 どっちかというと僕以外に英語も日本語も両方話せるのだから通訳して欲しい。
 まぁ一番は浩が英語を話せるようになってくれるか、ジュベールが日本語を話せるようになってくれれば良いことだけど、ジュベールはまだ日本語を覚え始めたばかりだし、浩は英語を覚えようとしてくれない。
 『ひろちゃん・・・・もう、ひろちゃんったら!』
 拗ねているというわけではないのだけど、一向に話そうとしない浩。
 『きーくん、ひろちゃんどうにかして?つまんないよ・・・』
 さっきまで散々浩で遊んでいて、今もひとしきり浩を突いていたのに、まったく反応を示さないから僕に面白くないといわれてもどうにも出来ない。するつもりなどない。
 きっと、玲那さんが英語ではなく、日本語を話せばたぶん言葉を話すと思うけど、これは玲那さんに気が付いてほしいし、いい加減力ずくではなく、普通に浩を扱えるようにしてほしいと思い、何も言わない。
 「きーくんのいじわる」
 分かって欲しいから言わないだけで、意地悪をしているわけではない。
 『一ヶ月浩様と一緒にいましたが、こんな浩様始めてみました』
 ジュベールにとればこんな浩を見るのは初めてだろう。こんな姿を見られるのは玲那さんがいたときだけだから、僕と一緒にいるときはなかなか見ることが出来ない。
 「玲那さんと一緒の時は何時もこんなんだ?」
 「そうなんですか・・・」
 珍しそうにジュベールは二人を見ていた。
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