8 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。
7 俺の現実は今日からここで
しおりを挟むいつの間にか知らない土地にいた。
心細くなっていたところに人に出会えた。
そしたら突然スライムに襲われた。
俺を助けてくれた人たちは、アニメや漫画でよく見る革の胸当てとか剣を装備していて。
俺もよくわからないまま魔法を使った。
そしたら何故か、銀髪青メッシュのイケメンさん改め、クリスにキスをされて。気がついたら言葉がわかるようになってました…。
ちなみに、俺のファーストキスでしたけどね!
道は、街道だったみたい。
馬でしばらく走っていると、建物らしきものが見えてきた。
恐らく、目的の村なのだろうけど、見えるだけでも、屋根が壊れていたり煙が所々から上がっている。
「ひどい……」
「タリカだ。スライムに襲われた」
後ろから硬い声が聞こえてくる。
全く状況がわかないが(説明されていないんだから仕方ない)、あの集落らしき場所は「タリカ」という名前で、スライムに襲われ被害が出ているんだろう。
でも、スライムくらいでこんなに被害が出るものだろうか?
後ろに座るクリスを見上げた。
途端、優しそうな瞳が俺に向けられて、心臓がバクバクしてきた。いきなりキスしてきた人だけど、イケメンなんだよ。俺の命の恩人なんだよ。あそこで助けてもらえなかったら、俺、今頃スライムのお腹の中だったわけだし。わけわからん場所でいきなり17年の生涯に幕を閉じるところだったんだから。
だからね、感謝はしてる。感謝はしてるが、キスはいらない!それは余計!!気持ちよかったけど!!手慣れてる感半端なくてイラっとするし!!
そりゃーね。これだけかっこよくてイケメンで(同じ意味だ)、性格までイケメ……いや、それはないな。優しいのは確かだと思うけど。それだけの好条件な人を女の人が黙って見てるわけないよねぇ。
「つまり、たらし………」
「なんだ?」
「なんでもないでーす」
もういいや。事故だと思おう。
それにしても、やっぱり被害が酷い。
いくら物理に耐性のあるスライムだからって、たった2匹に襲われただけで、こんなになる?
クリスも、その部下の人たちも強いよね?
もう一度クリスに振り向いた。じ…っと見て、それから周囲を走る部下さんたちも見て、まさか、と、思う。クリスたち、スライム相手に普通に剣を使っていた。倒せないわけじゃないけど、時間がかかりすぎる。……わかった気がする。
恐らく、スライムに対抗するための有効な手段がないんだ。要は、魔法がない、もしくは、魔法を使える人が、いない。
「どうした?」
「……なんでもない」
どこまで口を出していいのかわからない。
もうしばらくは、様子を見ていよう。
悶々と考えている間にも、タリカの敷地内に入ったようだった。
「……っ!!」
腹のそこから込み上げてくるものがある。吐き気のような気持ち悪さ、もやもやした悔しさ、息が詰まるほどの哀しみ。
「父さん………っ」
シーツのような白い布をかけられたものに、泣きながらすがる人たち。
体が、震えてしまった。
「2人亡くなった」
「……っ」
背筋に嫌な汗が流れた。
一般的な高校生であれば、人が死ぬ場面に出くわすなんて、ほぼない。あったとしても、綺麗に処置されて、安らかな表情で眠る親族くらいかもしれない。
けれど、ここは――――
「ママ………!!!」
小さな女の子の叫び声。
真っ白なシーツには所々に赤黒いシミができてる。
シーツからでている手には、無残な傷が残されていた。
「っ」
「アキ」
吐きそうだ。
こんな場所、耐えられない。
「俺たちがもっと早くここにくることができれば…あの命は助けられたかもしれない。どんなに後悔しても…、失われた命を戻す方法はない。これが現実なのだと…受け止めなければならない」
後ろからの声は、落ち着いている。
左手は俺の前に回り、抱き締めてくれている。
……突然意味不明に口づけてきた相手を許したわけではない。気を許したわけでもない。けど、今だけは、この腕から伝わってくる温もりが嬉しかった。
うん。これは、現実だ。夢かも、とも思ったけど、こんなリアルな夢、あるわけない。
誰かに何か言われたわけでもない。未だにここがどこなのかもわからない。
だけど、確かなことがある。
ここが、日本ではないこと。
ここが、俺の知る世界ではないこと。
ここが、今の俺の現実であること。
「俺、何ができるかな?」
こみ上げた涙を無理やり抑えた。
ぐいっと手の甲で目元を拭く。
俺が泣いてたって、何にもならない。
俺よりも辛く、悲しんでいる人たちが沢山いる。
……日本に、戻れるものなら戻りたい。それは当然。けど、「戻れない」ことに悲観ばかりしているのが、俺がすること?
ゲーオタなインドア派の俺にできることなんて、なにもないかもしれない。こんな、どこから来たのかもわからないような俺に、何かさせてくれるとも思えない。
けど、何かしたい。今、俺はここにいるから。
………まあ、焦ったって帰り方はわからないし、帰れるときは帰れるんだろうし。それまで、精一杯、俺にできることを、やろう。
「城に連れて行く。…それからだ」
クリスの声は真剣なもの。お腹に回ってる左手にも強く力が込められてる。
「…ん、わかった」
決めたんだから。
俺にできることをするから。逃げないから。
亡骸と、その周りの人たちの様子を目に焼き付け、静かに目を閉じ、黙祷した。祈りの形として正しいかはわからない。けど、きっと同じだよね。この世界の神様。俺は貴方とは関係ないけど、あの人たちの魂を救ってください。
460
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる