【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

7 俺の現実は今日からここで

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 いつの間にか知らない土地にいた。
 心細くなっていたところに人に出会えた。
 そしたら突然スライムに襲われた。
 俺を助けてくれた人たちは、アニメや漫画でよく見る革の胸当てとか剣を装備していて。
 俺もよくわからないまま魔法を使った。
 そしたら何故か、銀髪青メッシュのイケメンさん改め、クリスにキスをされて。気がついたら言葉がわかるようになってました…。

 ちなみに、俺のファーストキスでしたけどね!




 道は、街道だったみたい。
 馬でしばらく走っていると、建物らしきものが見えてきた。
 恐らく、目的の村なのだろうけど、見えるだけでも、屋根が壊れていたり煙が所々から上がっている。

「ひどい……」
「タリカだ。スライムに襲われた」

 後ろから硬い声が聞こえてくる。
 全く状況がわかないが(説明されていないんだから仕方ない)、あの集落らしき場所は「タリカ」という名前で、スライムに襲われ被害が出ているんだろう。
 でも、スライムくらいでこんなに被害が出るものだろうか?

 後ろに座るクリスを見上げた。
 途端、優しそうな瞳が俺に向けられて、心臓がバクバクしてきた。いきなりキスしてきた人だけど、イケメンなんだよ。俺の命の恩人なんだよ。あそこで助けてもらえなかったら、俺、今頃スライムのお腹の中だったわけだし。わけわからん場所でいきなり17年の生涯に幕を閉じるところだったんだから。
 だからね、感謝はしてる。感謝はしてるが、キスはいらない!それは余計!!気持ちよかったけど!!手慣れてる感半端なくてイラっとするし!!
 そりゃーね。これだけかっこよくてイケメンで(同じ意味だ)、性格までイケメ……いや、それはないな。優しいのは確かだと思うけど。それだけの好条件な人を女の人が黙って見てるわけないよねぇ。

「つまり、たらし………」
「なんだ?」
「なんでもないでーす」

 もういいや。事故だと思おう。

 それにしても、やっぱり被害が酷い。
 いくら物理に耐性のあるスライムだからって、たった2匹に襲われただけで、こんなになる?
 クリスも、その部下の人たちも強いよね?
 もう一度クリスに振り向いた。じ…っと見て、それから周囲を走る部下さんたちも見て、まさか、と、思う。クリスたち、スライム相手に普通に剣を使っていた。倒せないわけじゃないけど、時間がかかりすぎる。……わかった気がする。
 恐らく、スライムに対抗するための有効な手段がないんだ。要は、魔法がない、もしくは、魔法を使える人が、いない。

「どうした?」
「……なんでもない」

 どこまで口を出していいのかわからない。
 もうしばらくは、様子を見ていよう。

 悶々と考えている間にも、タリカの敷地内に入ったようだった。

「……っ!!」

 腹のそこから込み上げてくるものがある。吐き気のような気持ち悪さ、もやもやした悔しさ、息が詰まるほどの哀しみ。

「父さん………っ」

 シーツのような白い布をかけられたものに、泣きながらすがる人たち。
 体が、震えてしまった。

「2人亡くなった」
「……っ」

 背筋に嫌な汗が流れた。
 一般的な高校生であれば、人が死ぬ場面に出くわすなんて、ほぼない。あったとしても、綺麗に処置されて、安らかな表情で眠る親族くらいかもしれない。
 けれど、ここは――――

「ママ………!!!」

 小さな女の子の叫び声。
 真っ白なシーツには所々に赤黒いシミができてる。
 シーツからでている手には、無残な傷が残されていた。

「っ」
「アキ」

 吐きそうだ。
 こんな場所、耐えられない。

「俺たちがもっと早くここにくることができれば…あの命は助けられたかもしれない。どんなに後悔しても…、失われた命を戻す方法はない。これが現実なのだと…受け止めなければならない」

 後ろからの声は、落ち着いている。
 左手は俺の前に回り、抱き締めてくれている。
 ……突然意味不明に口づけてきた相手を許したわけではない。気を許したわけでもない。けど、今だけは、この腕から伝わってくる温もりが嬉しかった。

 うん。これは、現実だ。夢かも、とも思ったけど、こんなリアルな夢、あるわけない。
 誰かに何か言われたわけでもない。未だにここがどこなのかもわからない。
 だけど、確かなことがある。



 ここが、日本ではないこと。
 ここが、俺の知る世界ではないこと。
 ここが、今の俺の現実であること。



「俺、何ができるかな?」

 こみ上げた涙を無理やり抑えた。
 ぐいっと手の甲で目元を拭く。
 俺が泣いてたって、何にもならない。
 俺よりも辛く、悲しんでいる人たちが沢山いる。
 ……日本に、戻れるものなら戻りたい。それは当然。けど、「戻れない」ことに悲観ばかりしているのが、俺がすること?
 ゲーオタなインドア派の俺にできることなんて、なにもないかもしれない。こんな、どこから来たのかもわからないような俺に、何かさせてくれるとも思えない。
 けど、何かしたい。今、俺はここにいるから。
 ………まあ、焦ったって帰り方はわからないし、帰れるときは帰れるんだろうし。それまで、精一杯、俺にできることを、やろう。

「城に連れて行く。…それからだ」

 クリスの声は真剣なもの。お腹に回ってる左手にも強く力が込められてる。

「…ん、わかった」

 決めたんだから。
 俺にできることをするから。逃げないから。

 亡骸と、その周りの人たちの様子を目に焼き付け、静かに目を閉じ、黙祷した。祈りの形として正しいかはわからない。けど、きっと同じだよね。この世界の神様。俺は貴方とは関係ないけど、あの人たちの魂を救ってください。


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