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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。
35 殿下の想い人③ ◆ザイル
しおりを挟む私が殿下の目に止まり、直属兵団への誘いを受けたのは三年前になる。
「出世は望めないが俺の元でその腕を振るわないか?」
項垂れていた私に、殿下はそう声をかけてくれた。
年に一度行われる御前試合。
成人してすぐにその大会に出た。
剣の腕は磨いてきたつもりでいる。
男爵家の領地は兄上が継ぐのだから、自分は騎士団に入りこの国を守ろうと決意し、幼い頃から鍛錬は欠かさなかった。
だから、剣はそれなりに扱える。それなりの自負はあった。
御前試合でも順調に勝ち進むことができた。
そして決勝戦――――。
私は、負けた。
激しい打ち合いの中、私の剣が折れたのだ。今まで手入れは欠かさなかった。けれど、この短時間の中でのいくつもの激しい試合で、私の愛剣は限界まで消耗していたのだろう。
立会人の「そこまで」という声が聞こえても、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
準優勝だって悪くない。
素晴らしい成績だった。
騎士団への入団も問題はないだろう。
――――周囲は口々にそう言った。本心からの言葉なのだろう。
だが、本当にそうだろうか?
剣が折れるほどに摩耗していたというのに、それに気づかなかった。気づいていればそれなりの戦い方があったはずなのに。
この結果を喜べるはずもなく、会場から少し離れたところで折れた剣を見ていたところに現れたのが、殿下だった。
結局、私は殿下の誘いを受けた。
殿下は私の憧れでもあったから。
年はそれほど変わらないというのに、この国最強の剣士と称される殿下。この人の元で、その技術を学ぶことができれば、私はもっと強くなることができる。
そして、この人に認めてもらいたい――――。
出世などいらない。
国を思って笑うこの人の元で、剣を振るい続ける。
……入団してすぐに、上には上がいるのだと、打ちのめされたのは、今となってはいい思い出だが。
殿下が見せていた笑顔が、本心からのものではないことがわかったのは、それから三年後の今。
スライム討伐の際に出会った少年に見せた笑顔に、今までの笑顔など、ただ顔に張り付いたものだったのだと気づいた。
その少年に出会ったことで、殿下の仮面が一つ剥がれたのだと思った。
タリカではさんざん見せつけられた。
ベルグをでてからもそれは続くのか。それはそれで、まあ、いいか。オットーと二人、見守ろうと決めたのだから。
………けれど、まさかここまでとは思わなかったけど。
あいた口が塞がらない。
殿下が、あの少年を一時も離さないのだ。
ベルグを出発してから、こまめに休息を取っているが、その度に殿下は少年を馬からおろし、用意していた果物や果実水を口に運んでいる。
………あれだ。砂を吐きそうだ、とかいうやつ。
しかも、皆の目があるというのに、全く気にせず口づけを繰り返している。
少年は真っ赤になりながら抵抗するが、それも最初だけだ。
……まさに二人の世界。
「…恋人がほしい」
独り身の団員から漏れる言葉が切実だ。二人を見ていると確かにそう思ってしまう。
甘すぎる。二人の空間が甘すぎる。
「…キスマークが増えてるよ」
オットーが苦笑しながら教えてくれた。
確か、昨日は首筋に一つだった。
「……お、おぅ」
それが、今日は見えるところだけでも3箇所に増えている。
少年が醸し出す雰囲気も、昨日と全く違う。
なんとなく、そういうことかと納得した。
これは……しばらく遠征は無さそうだな。
「しばらく平和かもしれない」
「…殿下、寝室から出てくるのか?」
オットーと二人、顔を見合わせて笑ってしまった。ちゃんと、他の人に聞こえないように小声で。
「ま、暫くは蜜月を堪能するんじゃないかな」
「違いない」
どうか、しばらくの間、仕事が舞い込みませんように。
殿下の笑顔があの少年に向けられますように。
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