51 / 560
第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
3 ヤキモチ焼きの視線は人を泣かせることができる。
しおりを挟む凄く唐突に覚醒した。
夢も見ないで深く眠ったらし。体がスッキリしてる。
クリスはテーブルでまじめな顔で何か書類を見てた。
「クリス?」
「よく眠れた?」
「うん…」
目をこすりながら起き上がったら、すぐにクリスがキスをしてくれる。
しっかり重なって流し込まれたものを飲み込んだら、ほんのり花の香りがした。
「紅茶?」
「もっと飲むか?」
「……アツアツなのが飲みたい」
クリスは笑って軽くキスをしたあと、ベルを鳴らす。すぐ部屋に来たメリダさんは、何も伝えてないのに紅茶を持ってきてくれてた。
なんというか、凄い。
「いい香り…」
「こちらのお菓子もどうぞ」
しかもお茶受けつきだった。食べたら、さくさくのクッキーで、にんまりと笑みが浮かんでしまう。
「っ」
クリスが吹き出すように笑った。
「ほんと可愛いな」
ひとしきり笑って、俺の頭をなでて、クリスもクッキーに手を伸ばす。
自分で食べるのかと思ったら、俺の口元に持ってきた。
「ほら」
「ん」
……食べさせてもらうことに慣れすぎてしまって、疑問にも思わない。
「坊っちゃん、行商人の方々が来ておりますけど、こちらに通しますか?それとも隣に?」
「ああ、来たのか。隣で用意させておいてくれ。飲み終わったらいくから」
「はい」
メリダさんは微笑むと、一礼して部屋を出ていった。
「行商人?」
「王都に出るほうが早いが、当面の着替えは必要だろう?」
俺の顎の下に指を添えながら、クリスが目を覗き込んでくる。
あ、俺のものを買うのか。
「ありがとう」
自分から、触れ合わせるだけのキスをした。
よかった。これで下着をゲットできる!
「アキが気に入ったものがあればそれも買うから」
「うん」
「宝飾品関係も揃っているはずだ」
「アクセサリーってこと?いらないよ?」
クリスは不思議そうにする。
「俺、これがあれば十分だし」
左腕の袖をぐいっと引っ張って、クリスに買ってもらったブレスレットを見せる。
クリスが目を細めた。
「そうか」
嬉しそう。
アクセサリーとか興味ないし。本当にこれだけあれば十分で。クリスが選んでくれた、クリスと俺の色のブレスレット。俺の大切なものの一つ。
紅茶を飲みきったら、クリスが俺を抱き上げてきた。
居間の方に入ると、作業していた男女数人の方々が、クリスに向かって一斉に礼を取った。
「殿下、お気に召したものがございましたら、なんなりとお申し付けください」
「ああ」
クリスはその中を進み、商品が見渡せるように置かれたソファの上に俺を座らせて、俺の隣に腰掛けた。
あ、この服、結構裾短かった…。
近くにいたメリダさんが、すぐに俺にひざ掛けをかけてくれる。
クリスは行商人さんのいろいろな説明を聞いてるんだけど、品物が多すぎて俺にはよくわからない。
「一度採寸をしておきたいのですが…よろしいですか?」
女性スタッフさんからそう声をかけられた。
「えっと」
隣を見たら、クリスがうなずくから、ひざ掛けをソファにおいて立ち上がった。
こちらへ、と、指示された場所に立つと、メジャーのようなものを持った女性が近づいてきた。
「失礼します」
首周り、肩幅、腕の長さ、首から足元まで、とか、とにかくあちこちメジャーをあてられたり、まわされたり。
「細いですね…」
女性が腰回りに手を触れたときだった。
「触れるな」
…って、そりゃあ、たいそう怖い声が後ろから聞こえてきた。
当然、その場にいた行商人さんたちの顔が青ざめてしまって、俺の採寸をしてた女性なんて、今にも泣き出しそうだ。
「クリスっ」
むすっとしたままのクリスを軽くにらみつける。
「採寸!さわんないでどうやって測るのさ。俺の服なんでしょ?そんな怖い声出さないで」
「……わかった」
むすっとした顔。
「もう…」
怯えた顔で俺を見る女性に、精一杯笑いかけた。
「大丈夫なので、続けてください」
そしたら女性は泣き笑いの表情でうなずき、採寸を続けた。流石プロ。これ以上クリスを怒らせるのはまずいと思ったのか、体に触れるのはほぼメジャーだけ。
びっしり書き込まれたメモを確認して、女性がほっと息をつく。
「終わりました」
「ありがとうございました」
そう伝えてソファに戻ったら、すぐにクリスに口づけられた。みんなに、見せつけるように。
「クリスっ」
「我慢したんだから褒美があってもいいだろう?」
機嫌が治った。
俺の羞恥心はマックスだけど、これは仕方ない。クリスが機嫌損ねてお開きになんてなったら、元も子もない。俺の下着ゲット計画が泡となる。
それからクリスは俺の腰を抱いたまま、服選びを続けた。
俺も気に入ったものを…と言われたけど、流石にジーンズやジャージみたいなものはない。全体的にひらひらしてる感じがする。
宿場街でクリスが用意してくれた服、動きやすかったんだけどな。
「ね、クリス」
「ん?」
「前にクリスが用意してくれた服って…」
「ああ、乗馬服か」
なるほど。そういう服だったのか。
「あれ、動きやすくて良かったんだけど…、ああいう感じの服って、ないかな…?」
「ふむ…」
乗馬服と聞いて、行商人さんたちも考え込んだ。そしたら、さっき採寸してくれた女性が、スケッチブックみたいなものに、何か書き始める。
「殿下、このようなデザインはどうでしょう?」
「――――ああ、いいな」
どれどれと覗き込んだら、確かにズボンの形がよく似てる。けど、あのときの服よりも少し華やかで。お城の中だから、それなりにちゃんとした服じゃなきゃだめ、ってことか。
「アキ、生地は何がいい?」
「そんなこと言われてもわかりません」
クリスが笑った。
「じゃあ、色は?」
「色?」
好きな色…。
クリスの目元に指で触れていた。
「俺、クリスの目の色がいい」
綺麗な、緑がかった、碧色の瞳の色。
クリスが満足そうに微笑んで、俺の指先を握りしめた。
「殿下、瞳の色を確認させてください」
「ああ」
女性はクリスの瞳を見て、またメモに書き込んで、終わったらすぐに離れた。
「生地は…」
いくつかのサンプルを持ってきてくれる。
しっかりしたもの、やわらかいもの、なめらかなもの。
「あ」
触ってしっくり来た生地があった。手触りがいいし、伸びるから動きやすそう。
「これがいい」
「ではその生地で。染め上げから仕上がりまでどれくらいかかる?」
「7日ほど、お時間がかかるかと思います」
7日か。結構かかる。
クリスは何やら考え始めた。
「近い色の既製品は?生地はこれで」
クリスが指定したのは、比較的さらさらのもの。
「明日の夜までに仕上げてもらいたい。謁見用の魔法師の正装だ」
「!!か、かしこまりました!」
その場にいた行商人さんたちの動きが慌ただしくなった。
…なんだ、謁見て。
俺の疑問を余所に、お買い物は続いた。
色的に、碧ばかり、というのも何なので、水色だとか紺色だとか鮮やかな青とか、白とか黒とか。…モノトーン以外がほぼほぼクリスの色だ。俺、どうしようもないな…。
宝石類はやんわり断った。
ほかにも、靴とか帽子とか、上から下までとにかく全部。
大量の注文をして、お開きになった。
「では、皆、よろしく頼む」
クリスがそう言うと、全員がその場で礼を取った。
俺は、また抱きあげられて、寝室の方へと移動。
「疲れただろ?」
「ん…少しね」
「お茶の準備をしてきますね」
後ろからついてきていたメリダさんが、部屋を出ていく。動きが機敏だ…。
ベッドに降ろされるとあくびが出た。
「眠るか?」
「ん…」
眠い、けど。
ベッドに腰掛けたクリスの足の上にあがる。
「アキ?」
「ん…」
足をまたぐように腰を下ろして、向かい合わせになって、胸元にぺたりとよりかかった。
鼓動が心地よくて。
髪を撫でるクリスの手も気持ちよくて。
そのまま、俺は眠りに落ちた。
327
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。
かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
愛などもう求めない
一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる