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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
35 眼の前が開けていく ◆クリストフ
しおりを挟む足の上にアキを乗せ、その体温と吐息を感じることができる時間が、とにかく幸福だと感じた。
魔法師の話をしていたとき、いつもはにかんだ笑顔を絶やさないアキが、神妙な顔をしていたから、酷く気になってしまった。
「国にとって大事なのはわかるけど」
眉間のシワが深くなる。
「保有ってのは、ちょっとやだなぁ、って、思っただけ」
それは明らかな嫌悪の言葉と表情だった。
「アキ?」
「魔法師だって人なわけでしょ?なんか物を扱うような言い方じゃない?」
そう言われたことに、俺の中で思考が回り始めた。
確かに、物のような言い回しだ。
けれど、そのことを今まで何一つ疑問に持たなかった。
魔法師だけではなく、兵士にしろ騎士にしろ、……何より俺自身が、国にとっては替えの効く道具のような存在だ。
だからこそ、保有する、という言葉に違和感は持たなかった。それが、今までの常識だったから。覚悟を持って国に仕えているのだから。
けれど、アキの言葉に、それが瓦解していく。
「前に、魔法師が足りてない、って、クリス言ってたけど」
「ああ」
「それって、平民のみなさんが、水晶握って生まれてきた赤ちゃんのことを報告しないようにしてるんじゃない?」
「!」
国が、全ての国民を把握しているわけではない。
貴族に関してはある程度把握しているし、商人の出入りに関しても管理している。けれど、出生自体に管理体制はない。
報告がされなければ、高い魔力を持った子供が生まれたことなど、わからないままで終わってしまう。
「なぜ、そう思う?」
「や……だってさ、自分の子供を好き好んで戦場に送り出したい親なんていなくない?」
いとも当然…というアキの表情。
「貴族の人にしたって、自分の子供を戦場に出すときには死なせないように後方支援とかにまわしたりするでしょ?権力使ってさ」
……相変わらず、アキの知識の出どころがわからない。だが、それは間違っていない。往々にしてあることだ。
「まあ、貴族のみなさんがみんながみんな、そんな名誉と実績のためだけに戦場に出るわけじゃないんだろうけど…、あくまでも俺の意見だからね?」
妙な強調のされ方をして、苦笑してしまった。
「えーと……なんだっけ。まとまらない。……ああ。だからさ、いくら魔力持って生まれてきても、軍属がほぼほぼ決定してる状況なら、絶対安全!ってわけじゃないから、親としては行かせたくないでしょ?俺が親なら隠し通すと思うし。あ、でも、考え方は十人十色だから、『俺の子供が軍属!?ラッキー、これで食いっぱぐれなくてすむ!』って考える親もいると思うけどね?」
頭を抱えたくなった。
俺は今まで、王族だから、貴族だから、平民だから……という視点は持たないようにしてきた。
どれかに傾けば、見なければならないことに気づけなくなるからだ。
……なのに、結局は「王族としての自分」としてしか、考えることが出来ていなかったんじゃないだろうか。
俺にとって、国に尽くすのは当然のこと。それは、国民も同じだと、ずっと思ってきた。
けれど、家族は……なによりも大切なものだ。俺にとっての、アキであり、兄上であり、父上で。
その家族が害される可能性があるのなら、その場所に送り込むことなどしたくない。
……アキを、軍属になど、させたくないのと同じだ。
何故、気づかなかった。
「ザイル」
「は」
「早急に調査を」
「御意」
オットーもザイルも、恐らく俺と同じ考えに至ったのだろう。オットーは平民出だからなのか、酷く思いつめた顔をしている。
「……アキは」
「なに?」
「……いや」
何を聞けばいいのだろう。
どうしてアキは、こんなことをあっさりと考えることができる?
どうすれば、お前のような考えを常に持つことができる?
「クリスっ」
「ん?」
「言ってくれなきゃわからないっ!」
口元を尖らせて、むすっとした顔で。
たった今、国の方針を全てひっくり返すようなこと言ってのけたその口で、ちょっと拗ねたような子供の様なことを言う。
……本当に、同じ人物なんだろうか。
どれが、お前の本質なんだろうか。
「余計なこと言ったんならそう言ってよ。俺、この国の常識とかわかんないし」
「問題ない。むしろ、アキはそういう知識をどこで身につけたのかが知りたい」
はっきりとそう聞くと、アキは少し目をさまよわせ、困ったように首を傾げてきた。
「俺の国で、かな」
思わず笑みが溢れる。
アキの頭をなでながら、アキの国はどこなのかと思う。
そんな国が、この世の中にあるのだろうか、と。
恐らく、アキには俺に話せないことがあるのだろう。
いつか、打ち明けてくれるんだろうか。
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