【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

1 まるでトップ会議。なぜ俺はここにいるの?

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 もう直、夏の三の月。というか、明日から。今日はもう二の月の三十の日だから。
 八月の日本は暑い。
 こっちの世界も当然暑い。日本ほどじゃないけど。
 太陽が二つあるけど、倍で暑いことがなくてほっとした。

 俺がどうしてかこっちの世界に来てから、あと半月くらいで四ヶ月が経つ。
 春らしい黄緑色の世界は、夏の青々とした緑に色を変えた。そしておそらく今が一番濃い色を呈する緑。

 この世界に来て、俺は魔法が使えるようになった。
 誰かを愛する気持ちを知った。
 体を重ねる心地よさを知った。
 何気ない日常がどれほどの幸福に満ちていたのかってことに気づけた。
 憎まれる怖さも知った。
 自分の弱さも知った。
 怪我の痛みも知った。
 でも、一番大切な人クリスが傍にいてくれるから、乗り切ることができたし、この世界にいて幸福だって感じることもできてる。
 俺、本当に恵まれてるね。




 お兄さんとティーナさんの結婚式は、お兄さんの誕生日である夏の二の月の十八の日に行われた。
 その後、クリスの仕事の手伝い?をしたり、西町に出かけたり、襲われたり(……これいらない)したから、暫く寝込んで。
 寝込んでる間に、色々調査に出ていたクリス隊の皆が戻ってきた。
 昨日のうちに出揃った内容。

 そして、今日。

 場所は、初めて入るお兄さんの執務室。
 クリスと、お兄さんと、お兄さんの側近さんだと言うテオドルト・ベイエルさんと、オットーさんと、ザイルさんと、俺。
 テオドルトさんの視線が怖くて、俺、借りてきた猫状態。……クリスの膝の上で。
 何この拷問。
 いぁ、位置はいい。俺が落ち着く場所。
 けど、部屋がね?部屋が、お兄さんの執務室なわけだよ…。窓からの景色は違うけど、まあ、部屋の中はあまり違いはない。書類の量が多い気もするけど。

 なんでこのメンツでお兄さんの執務室にいるのか、って、遠征を含めた色々なことの打ち合わせというかすり合わせというか、そんなのが必要で。……ごめんなさい。俺、ちゃんとわかってない。

「え、と……、クリス?」
「ん?」
「俺……部屋に、戻る、よ?」
「何故?」
「や……だ、って」

 みんな硬い表情して(テオドルトさんに至ってはずっと怖い顔してるしっ)報告書を見てるし、これって、次代のトップ会議!みたいな感じだし、クリスのとこで俺ができるなんちゃってお手伝いで通じる雰囲気じゃないし。

 まとめると、俺、いたたまれない。

 しかも、何度も言うけど、俺、クリスの膝の上。
 お兄さんの執務室で、初対面のテオドルトさんの目の前で、クリスの膝の上…!
 自己紹介は済ませているけど、視線が怖すぎてカチコチに固まってしまう。
 だから帰りたい。
 一刻も早く帰りたい!

「ここにいろ」

 ……と、クリスには腰をがっちり掴まれた。
 助けを求める視線を、後ろに控えているオットーさんとザイルさんにむけたけど、苦笑されて終わった…。

「アキ」

 用意されていた一口大のお菓子を、クリスが俺の口につけてきた。
 この状況で食べれということですね…。
 もう仕方ないから、いつも通り食べた。離れ際に唇を指でふにふに触られて、なんとも言えない感覚が背中に走る。…やめてください。切に…。
 でも、お菓子は甘くて口の中で溶けるような食感で、とても美味しかった。

「美味いか?」
「うん」

 甘いお菓子にほだされて、ついついクリスに甘えてた。
 二個目も口に入れてもらって、にまにましながら食べてたら、くすって笑い声。ちらりと見上げたら、クリスが優しい笑顔になってた。

「――――うん、まあ、どこにいてもいつも通りの二人で安心するけど、話を進めてもいいかな?」

 いつの間にやら報告書を読み終えていたらしいお兄さんが、呆れた苦笑顔でそう声をかけてきた。
 コクコク何度も頭を縦に振る俺の顔は多分真っ赤。クリスが俺の額やら首やらに触って、熱が上がったのかと確認するくらい真っ赤だと思う。…クリスの手は気持ちがいいけど。

「……北は、まずいな」

 ぱさりと紙の束をテーブルの上に置いて、テオドルトさんが息をついた。

「そうだね。これはクリストフのとこの案件じゃなくて、私達の方で処理しなければならないものだ」

 ディックさんからの報告書の内容を思い出しながら、お兄さんとテオドルトさんの話を聞いていた。
 ……帰りたかったのに、クリスの甘やかしにすっかりそのことを忘れて。

「兄上の方で動いてくれるのであれば助かる」

 クリスの言葉に、お兄さんの視線は俺の方を向いた。それから、何やらうんうん頷かれる。

「アキラもまだ万全ではないんだろうし。…この間も寝込んでいたんだろ?」
「え、っと…」

 西町に行って襲われて、その後何日かはベッドの上の住人に逆戻りした。確かに体調は微妙。過保護にされるほどでもないけど。

「北についてはよく調べられている。魔物被害もそれほど酷くはないようだし、追加調査も必要なさそうだ。……相変わらずいい人材を抱えている」

 ディックさん、褒められてるよ!
 うんうん、だよね。クリス隊のみんなは凄く優秀なんだよ。
 けど、クリスは僅かに目を伏せて、「そうだな」って、小さく頷くだけ。
 何かあったかな?

「……クリストフ、別に嫌味とかじゃなくて、本当にそう思っているからね」
「……ああ」

 よくわからん。
 イヤミじゃない、ってどういう意味だ。や、そのまんまの意味なんだろうけど、それをあえてお兄さんが言葉にする意味がわからない。
 そして、よくよく見ていたら、ここにいる人たちみんな、『わかってる』って顔してる。テオドルトさんも、オットーさんとザイルさんも。
 …なんか、俺の知らないこと、俺が教えてもらってないことがあるような気がする。でもそれを、お兄さんたちだけじゃなくて、オットーさんとザイルさんも知らされてる、ってこと。そして多分、クリス隊に関すること。
 うううーん???
 なに。何かあったわけ??
 聞いたら教えてくれるかな。それとも、はぐらかされて終わりだろうか。

 教えて、欲しいんだけどな。

 こんな時、少し寂しい。
 俺はまだそこまでの信頼とか、得てないんだな、って思うから。
 クリスが俺に教えないときは、大概、俺に心配をかけたくないから、とか、俺に関わることだから、とか、そんな理由があることも知っているけれど、それなら、尚更、教えてほしい。
 守られるだけじゃなくて、一緒に考えていきたいのに。
 一緒に乗り越えていきたいのに。
 ………まだ、足りないの、かな。


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