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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
65 アキラさんは可愛い ◆セシリア
しおりを挟む私が私であることを思いだしたのは、五歳のとき。
本当にあるんだなと感心してしまうくらい、デフォな階段落ちをしでかして、三日間意識がなかったらしい。
セシリア・エーデルとして育ってきた五年間。その記憶はなくなっていないし、人格も変わっていない。
ただ、私の中にセシリアではない記憶がある、それだけ。
でも、最初の頃は、現実と前世がごちゃごちゃになってしまって、朝早くに目が覚めてスーツに着替えなきゃ…なんてクローゼットをめちゃくちゃにしたこともあったけど。
もう会えない『私の両親』を思って涙が止まらなくなったこともあったけど。
仕事の辛さばかりが思い出されて、苦しくて苦しくて過呼吸を起こしたりもしたけれど。
でも、『セシリア』の両親は、優しく包み込むように愛してくれたから。
だから、しっかり、区別をつけることができた。
……そう。
私のことなんてそれくらいでいい。
私は嘘偽りのないセシリア・エーデルなのだから。
ミナが、何かに怯え始めてから、見ていられなくてお父様に殿下に相談してほしいと懇願した。
魔水晶さえ持たせなければ、万が一、殿下とミナが会っても、魔力のことはバレないだろうという軽い気持ちからだった。
ミナはよく人見知りをする。
だから、客人が来ると聞けば、すぐに部屋に引きこもると思ったのだけど。
けど、今日に限って私のドレスの後ろに隠れながらついてきた。
大丈夫、大丈夫、って思っていたのに、殿下には一目で魔力持ちだと見破られてしまうし、ご婚約者様に呼ばれたら笑顔で行ってしまうし。想定外のことばかりで驚いた。
……なにより驚いたのは、ご婚約者様の――――『アキラ』様だったけど。
アキラ、って、日本でよくある名前じゃない。苗字は名乗らなかったけれど、この名前でこの容貌……まるっきり日本人じゃない。
元腐女子の私にとって、同性でも簡単に結婚できるこの世界はとても素晴らしい世界だけど、なんでまた王子様らしい王子様の婚約者が日本人の男の子なんだろう。
嬉しさと驚きと、それからミナのこともあって、私の中は大嵐だったわ。
思わず廊下を走り抜けてしまうくらいに。
昼食に、殿下の直属兵士団の方々にも同じように楽しんでもらいたくて、日本のビュッフェレストランをイメージして会場を作ったら、「バイキングレストラン…」ってアキラ様が呟いていて、内心大喜びだった。
さて、どうやって話を切り出そうかと思案していたけれど、アキラ様も私になにか話したいことがあったようで、昼食の後のお茶会の許可を殿下にもらえたからよかった。
……でも、どうして、移動のときは必ず殿下がアキラ様を抱き上げるのかしら。元腐女子としては、とても美味しい場面だけれど。美丈夫な王子様と可愛い男の子。鼻血出そうだわ。ほんと。
しかも、なんなんでしょう。
「……本当に大丈夫か?」
「大丈夫。約束は守るし」
「……そうか」
お茶会と打ち合わせで少しの間はなれるだけだというのに、滅茶苦茶別れを惜しんでる。主に殿下が。
そして、私がいるというのに、キスの嵐。
ちらっと室内に入ってきた護衛役の二人を見てみたけど、全く動じてないから、多分これはいつも通り、なのね。
目の前の光景、まさに眼福。
この世界に薄い本があるのなら、この二人の愛の物語がここで爆誕しそうなくらいに。
「……また後で」
「ん…」
……ああ。アキラ様の表情が色っぽい。これは見惚れるなと言う方が難しい。
その後に顔を赤くして照れた様子のアキラ様も、本当に可愛らしかった。
今どきこんな素直で可愛い男の子もいるんだな…って感心しながら、軽くカマかけしてみたら、あっさりとひっかかってくれる単…………んんん、素直さは、とても好ましいと思った。
アキラ様――――アキラさんは転移者。私は転生者だということを話すと、やっぱり…みたいな反応もあったから、私と話がしたそうだったのはそういうことだったかと納得した。
殿下との馴れ初めを話すときのアキラさんの真っ赤な照れた顔!!
今の年齢は私のほうが下だけど、なんか、こう、思わずぎゅっと抱きしめてしまいたくなるこの可愛らしさ!
あ、駄目ね。
私の語彙力が破壊されてしまった。
殿下が迎えにいらしたときもそう。
体感的に一時間くらいだったと思うのだけど、殿下を見た瞬間の、安堵したような嬉しいような、とにかくそんな表情になったアキラさんは、文句なしに可愛いし、肩を抱いた殿下からのキス攻撃を受けてるときは、うっとりと艶っぽい表情を見せるしで、私の中が色々大変なことになったのはナイショ。
殿下からは友人許可をもらえたし、万々歳だわ。
「この後はどうされますか?」
「んー…、どうする?クリス」
「街周辺の調査はまだかかりそうだな」
ご自分のお膝の上にアキラさんを座らせて、上機嫌の殿下。
「でしたら、温泉はどうですか?王都から長旅の疲れをまず癒やされては」
「温泉!!」
「ああ…。例の湯か」
「湯浴み用に侍女二名が待機してますし」
こちらの世界、貴族が入浴するのに侍女が付くのは珍しいことじゃない。
だから、殿下方にも必要かと思ったのですけど。
「侍女は下げてくれ。…アキ、折角だから湯に入ろうか」
「ん!入る!」
「承りました」
なんとなく想像はしていたけど、お二人一緒に入るのね。
侍女もいらないなんて。
思い切り露天風呂を楽しんでもらいましょうか。
……少しくらい覗き見しても許されるかしら?
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