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番外編:目には目を、剣には剣を、キスにはキスを (リオの初恋)
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しおりを挟むデクルタの街に戻ってわかったことは、『殿下』って呼ばれていたのは、この国の第二王子殿下で、濃紺の服を着てる人たちは、その殿下直属の兵士ってことだ。
……なんてこったい。
まさか、そんな偉い人たちだったなんて。
そんで。
「リオ、遠慮はいらない。打ち込んでこい」
……何故、この状況?
街の空き地で、何故かディックさんと対峙してる。
濃紺の制服を着てる人は、他にも数人いた。
殿下も含めて皆に見られてる。
なんなの。ほんと。
「えっと……」
しかも、何だなんだと、街の人も野次馬してるし。
ほんとなんなのって思ってたら、ディックさんは口の端っこを上げた。
「なんだ。やっぱり小さくて怖くなったか?」
カッチーーーン。
「チビ言うな……!!!」
踏み込み、一気に間合いを詰めた。
同時に双剣を抜いて、ディックさんの懐に入り込む。
まずは右。
斜め下から振り上げた刃は、激しい金属音を出して長剣に弾かれる。
でも、力負けはしない。
その勢いを使って身体をよじり、すぐに左手の攻撃に移る。
俺の攻撃はいなされる。
金属音がすごい。
でも、俺は楽しくなって。
もっと、もっと!
もっとがいい!!
「もっと……ちょうだい!!!」
「っ」
俺と打ち合える人は、この街にいなかった。
冒険者たちからは、チビだ坊主だとバカにされて相手にされなくて。
一人で森をうろついて。
時々、ちょっと危ない目にあったりしたけど、まあ、なんとかしてきた。
魔物相手に、実戦で手にした技術。
絶対に負けない。
素早い魔物を目で追う技術も。風を切る爪の攻撃も、見切ってきた俺の目。
ディックさんの長剣は、重さもあるだろうに速い。
けど、見えない速さじゃない。
「もっと……!!!!」
足を動かせ。
止まるな。
長剣を振るうちょっとした隙間。
ディックさんの背後に回り込み、とった!!って思ったら、また、剣に阻まれて。
楽しい!!!
楽しすぎて無我夢中で打ち合ってたら、「そこまで!」って声がかかって、はたっと我に返った。
……あ。
手合わせだった。これ。
「やっぱりいいな」
笑ったディックさんは、俺の頭を撫でた。
息も切らしてない。
「どうですか?殿下」
「……リオ、だったな」
「はい」
団長さんに問われた殿下に呼ばれたから、双剣を戻して返事をした。
「まだやれるか?」
端的に言われて、
「はい。できます!」
って、意気込んで答えてた。
「なら、俺の相手を」
……剣を抜かれながら言葉でなけりゃ、一瞬、寝所でか?と思ってしまうような言葉。
もちろん、空気読める俺は、そんなこと指摘したりしないけど!
「よろしくおねがいします!」
殿下自らが手合わせの相手することを、団長さんたちは誰も止めない。
パッと見、鍛えてる感じはしない殿下。
強いんだろうか?
「いつでもいい」
「はい!」
王族とこんな風に向き合うなんて。
いつでもいい、と言うなら、行く。
再び双剣を抜いて、殿下と間合いを詰めて、数度、打ち合って。
……打ち合って。
…………打ち合って。
俺の、剣が、飛んだ。
いや、ほんとに。物理的に。
「……え?」
それはそれは、とてもじゃないけど、夢でも見てるんじゃないかと思うくらい、あっという間の決着だった。
殿下はその立ち位置を全く変えず。
ディックさんとやり合ったときには、結構翻弄したと思ったのに。
え。
なに、これ。
「も……もう一度、いいですか!?」
「ああ」
なんでどうしてと思いながら、地面に落ちた双剣を再び握りしめて、地を蹴った。
連戦で疲れてるとか、そんなんじゃない。
むしろ、身体は仕上がった。
余計な力は抜けて、感覚は研ぎ澄まされて、多分、今、絶好調で――――
「!?」
なのに、簡単にいなされ、また、剣が飛んだ。
「うっそ……」
「ふむ」
「もう一回!!」
「ああ」
また剣を拾い上げて。
最大限の跳躍をして、素早く後ろに回り込んで、すぐに振り上げ……た、とき、ほんの僅かなズレもなく、殿下の視線は俺を捉えていて、ゾクリと悪寒が走ってすぐに横に跳んだ。
殿下、化け物だ。
すごい。
すごすぎる。
こんな人、見たことがない。
「もう終わりか?」
「っ」
その気配に気圧されて動けなくなったとか。
そんなの、駄目だ。
認められたい。
この、とんでもない化け物のような人に、認められたい!!
「いきます!!!」
地を蹴った瞬間、殿下の口元が少し歪んだ。笑みの形に。
数度、打ち合って。
「左の脇が甘い」
「はい!」
指摘されたところを意識して。
「相手の力を利用しろ」
「はい!」
跳んで、入り込んで。
「目を離すな」
「はい!」
…剣が握れなくなるまで、打ち合った。
「よし」
「あ……ありがとうございました!!」
初めてだ。こんなの。
いつも否定しかされなかったのに。
双剣なんて、弱いやつが持つものだと言われ続けたのに。
「リオ」
「はい!」
「俺のところに来る気はあるか?」
殿下の言葉に、ざわついたのは街の野次馬だけ。
濃紺の服を着た人たちは、皆驚いていない。
「あります!!殿下のもとで、もっと強くなりたい…!!」
「ああ。――――オットー」
「はい。後は私の方で」
「任せた」
そう言うと、殿下は空き地を後にした。
残ったのは、団長さんと、ディックさん。
改めて、殿下の兵士団のことを説明された。
完全実力主義の、兵士団。
平民も貴族も関係ない、強さだけが認められる場所。
団長も平民で、ディックさんも平民で。
殿下が赴く場所に必ず同行する。
殿下の命令は絶対で、殿下が指示を出せないときは団長の判断に従うこと。
あと、この兵団は、殿下の護衛も兼ねていること。
そんな説明をされた。
殿下が絶対。
忠誠を誓えないなら、必要ない。
俺は、考えるまでもなく、首を縦に振った。
初めてだったから。
俺のこと笑わなかったの。
殿下も、他の団員たちも。
俺がやってきたことを、認めてくれた。
俺が頑張ってきたこと、無駄じゃなかった。
その日のうちに、俺は家族に説明して、団長からも話しをされた家族は、俺がやりたいようにやればいいと送り出してくれた。
街の人は唖然としてて。
俺が認められたくらいならと、直談判に行った奴もいたらしいけど、あっさりと帰されてた。
そういう奴が、俺が認められたのは剣の腕じゃなくて、寝所で丁度いいからだ、とか、全員と寝たんだろう、とか、そんな噂を広めた。
俺のことを知ってる奴らは、あっさりとそれを信じて、旅立ちの準備もあって買い物にでてた俺を、酷く蔑んだ目で見てきたりした。
まぁいいや。
面倒だし。
俺が受け流したのに、一緒についてきてたディックさんが、なんかやたら怒り始めて驚いた。
「云わせっぱなしにするのか」
「だって、一々言い返しても疲れるだけだし。それに、誰も信じちゃくれないし」
「だからって――――」
「いいよ。慣れてるし」
言葉だけなら。別に。どうってことない。
無理やり襲われたって、大抵どうにかなる。
ただ、力だけはどうしようもないから、複数人に一度に襲われるとまずい。純然たる力勝負じゃ負けてしまうから。
だから、そうならないように。
双剣は、俺のお守りでもある。
ディックさんはガシガシ頭をかくと、盛大に溜息をついた。
「第二王子殿下がそんなまねすると思われてるってことだろ。そんな不名誉な噂、リオの問題でなくてだな、王族が貶められてるってことなんだよ」
わざわざ、大きな声で。
周りから、ビクっとくる気配。
………あ、そっか。なるほど。
「第二王子殿下は婚約者ももてないほどに忙しく国内を回ってるっていうのにな。助けられてる側の国民がそんな態度じゃ、殿下の努力も報われないな」
殿下、婚約者いないんだ。
これ聞いてる周りの人、反応が面白いな。
あからさまに動揺して、俺の噂話はぴたりと止んだ。
「ディックさんは?」
「へ?」
「いないの?恋人」
「いない。作らない。興味ない」
そうなんだ。
ふぅん。
……興味ない、って。
「童貞?」
「はぁ?んなわけあるか。この年で」
「興味ないのに経験だけはあるんだねー」
「お前な……」
楽しい。
面白い。
からかっても全然怒ってない。
しょーがないな、って、出来の悪い弟を見るような目。
でもいいな。
俺が俺らしく居られる。
「これからよろしくね。ディックさん」
「ん?おう。よろしくな」
手を出した。
握手された。
その手を握ったまま買い物の続きした。
振り払われることもなかったけど、握り返されることもなかった。
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