【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第6章 家族からも溺愛されていました。

10 心が疲れていたから

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 気がついたら、ノートがすごい量になってた。
 なんせ、字がよれてて、一ページあたりの字数が少なすぎるし、無駄に長くなる日記みたいなものも、ページ数を食う原因。……だとは思うけど、まだ慣れきれなくて、小さくかけない。
 んー…。
 ティーナさんに、お手紙書いたときとか、もう少し綺麗な字が書けていたと思うんだけどなぁ。
 五ヶ月寝っぱなしだった身体は、二ヶ月くらいのリハビリじゃ、まだまだ元には戻らないってことかな。

 十二月に入って、歩行リハビリは少しランクアップで、軽いランニングみたいな物も組まれるようになった。
 ランニングマシーンで、軽く。
 でも、それが、かなりきつい。筋肉痛が辛くなる。
 筋肉痛が出てきたのはいいことだ、って、ギルマス似のリハビリの先生は笑うし。
 歩くのにちょっと毛が生えた程度の速さのランニング。
 体力って中々元には戻らないと、改めて実感した。
 目標は三キロなんだけど。
 目標達成にはまだ遠い。

 消灯後に、疲れた足をマッサージしながら、ノートを開く。
 今まで書いたやつを見直して、なんかじわっと目が潤みだした。
 …多分、疲れてるから。
 思うように動けないし、体力も戻らないし。
 焦りとか、不安とか。
 だから、余計、クリスの体温が欲しくなる。

「クリス…」

 本当に小さく、口に出す。
 同室の皆はまだ寝てなくて、イヤホンしてテレビを見たり、スマホいじったりしてると思う。
 だから、変に大きな音は立てられないし、泣くのもだめだ。心配させてしまう。

 新しいノートを開いて、クリスの名前を書く。
 その下に、日本語でも書いてみる。
 なんとなく、ページをかえて、『銀色の髪』って書く。『青色の色がある』も、書き足して、「銀色の髪で所々に青色のメッシュ」って書き足す。
 クリスを想いながら、クリスのことばかり書いた。
 向こうの言葉と、日本語で。
 好き、も、愛してる、も。
 たくさん、たくさん。
 ……これ、絶対、人に見られちゃダメなやつ。

 足のだるさとかも忘れて書き続けた。
 クリスの好きなところ。
 クリスが言ったこと。
 クリスの格好良かったところ。
 クリスの好きなもの。
 クリスの嫌いなもの。
 とにかく思いつく限り、クリスのことばかり、たくさん。

 すごい勢いで書いたから、どんどんページはなくなって。
 心が疲れてたから。
 クリスのことばかり想ってて、涙がぼろりと落ちて。

 嗚咽がもれないように。
 でも、喉の奥でひくつく音は隠せなくて。

 最後のページに、日本語で、たった一言だけ書いた。





 クリスに、会いたい





 って。
 小さく。
 書いて。

 紙の上に涙が落ちて。
 少し、字が滲む。

 ……もー……、やだ。
 寂しい。
 一人は寂しい。
 家族がいて、友達もいるのに。
 寂しくて寂しくて仕方ない。

 帰り方がわからない。
 自分の中に残っている記憶を頼りに、ノートにこれでもかって書きなぐっているけど、ただ、それだけ。

 ――――もしかしたら、全部、俺の中の妄想だったんじゃないのか、って。意識をなくしていた間に見ていた、心地のいいただの夢だったんじゃないのか、って。

「ちがう……ぜったい……ちがう……っ」

 あの世界が、クリスが、俺の記憶の中だけの存在だったなら、これがあるはずがないんだから。
 俺の大切なもの二つを入れた袋を、額にくっつける。
 これが証。
 たった一つの繋がり。

 ベッドの上で膝を抱えるように座って、ただじっと、袋を額に当てるように持ち、動かなかった。
 段々、気持ちが落ち着いてくる。

 ……きっと、思うようにできなくて、心が疲れていたんだ。
 だから、よくないことばかり考えて、余計に寂しくなって、寂しさでさらに心が疲弊して。
 悪循環。

 開きっぱなしだったノートを閉じて、ノートの束の上に置く。
 退院したら、なにか見つけることができるかもしれない。
 焦らなくていい。
 自分のペースでいけばいいんだよね?

 袋の中から二つを取り出す。
 薄明かりの中でも、羽根は綺麗にほんのり輝いて見えた。

「……気づいて」

 クリスと、お揃いの。
 二人の、大切なもの。

 俺、生きてるから。
 ここにいるから。
 だから、クリスも俺のこと呼んで。
 帰ってこい、って願って。

 月長石にキスをする。
 届けてほしい。
 俺の想いも、願いも。
 外さないで。俺たちの繋がりを。

 何度かキスを繰り返して、ようやく気持ちが落ち着いた。
 大切な二つを袋に仕舞い直して、胸元で握りしめて横になる。
 枕元の明かりは最小まで落とす。

 リハビリ病棟は、あまり煩くない。
 前の病棟のように、時々看護師さんたちが走ってるような音も聞こえない。
 同室の皆の、ちょっとした含み笑いの音や、僅かな衣擦れの音くらいしか聞こえない。
 でも、完全に何も聞こえないより、落ち着く。
 何も音のない夜だったら、俺は眠れないから。

 結構泣いてしまった。
 明日、腫れなければいいな…。
 そう思いながら目を閉じた。





 夢の中で、クリスは天を仰ぎ見ながら泣いていた。
 周りには、おびただしい魔物の死骸があった。

『アキ、俺は、また――――』

 続きの言葉は聞きたくなかった。
 クリスも苦しんでいるんだ…って思ったら、どうしようもなく胸が痛くなった。

 お願い、クリス。
 気づいて。
 俺はここにいるから。
 ちゃんと、生きているから。
 だから、お願い。
 死に急ぐようなこと、しないで。
 俺が帰るの、待ってて。

 夢の中なのに、手は届かなかった。
 今すぐ抱きしめたかった。
 でも、叶わなくて。






 翌朝、目覚めた時、枕は涙で濡れていた。




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