【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第6.5章 それでも俺は変わらない愛を誓う(side:クリストフ)

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 神殿の七の鐘が鳴ったあと、俺は一人で礼拝堂に赴く。
 願うのはアキのことばかり。

 アキを亡くしたと思っていたときは、何故このような結末を用意していたのか、女神に問うばかりだった。
 だが今願うのは、アキが平穏であることばかり。
 『ノート』から読み取れるのは、元の世界で、治療院みたいな場所にアキがいることだ。
 こちらにいたときのように、度々熱を出し、体力もなく弱っている様子がうかがえる。
 元気になって欲しい。
 俺の傍にいないのだから、せめて、身体だけでも。
 傍にいればすぐにでも癒やしてやれるのに。

 この祈りが届いているのなら、早く俺のもとにアキを返してくれ。
 代償が必要だというのなら、命以外俺の全てを差し出せる。アキが、俺の腕の中に戻ってくるのなら。
 ……ああ、腕は残してもらいたい。アキを抱きしめることができなくなるから。

 いつもと同じように、アキを思い続ける。
 この時間、神官たちは担当の者以外は休んでいるはずだ。
 けれど今夜は来訪者がいた。

「…殿下」

 抑えた声で呼ばれる。

「ラル」
「僕も……いいですか?」

 僅かなランタンの明かりの中でも、ラルフィンの表情が固くこわばっているのはよくわかった。
 はじめからそうするつもりだったのだろう。俺の答えは聞かずに、すぐに俺の隣に膝を付き、祈り始める。
 扉近くに他の気配もした。ラルフィンが一人でここに来るわけがない。確認するまでもなくあの二人だろう。

「………僕は」

 胸の前で手を組み、瞳を閉じたまま、ラルフィンは口を開いた。

「どうしてあのとき、殿下と共に行かなかったのか…、後悔ばかりしています」
「ラル」
「何故、アキラ様が、女神さまの御下に還らず散ったのか、未だに僕にはわかりません」

 少し震えた声に、ラルフィンが抱えていたであろう苦悩がわかる。

「殿下は……何か、ご存知ですか?」

 女神に一番近い存在であるはずのラルフィン。
 俺と同じように何度も女神に問いかけたのだろう。何故、どうして、と。

「女神さまは、僕に何も教えてくれません。どんなに問うても、優しくほほえみ、頭を撫でるだけです」

 女神はラルフィンにも何も語らないのか。

「殿下、アキラ様は」
「ラル、アキのことは俺にもわからない。もうこの世界のどこにも、存在していないということしかわからないんだ」

 くしゃりと歪むラルフィンの表情。

「やっぱり僕が……っ」
「ラルフィン」

 ぽたりと落ちる涙。
 ラルフィンを促し立たせ、ちらりと二人の方を見れば、音もなくこちらに歩み寄る。

「「フィー」」

 アキを思ってどれだけ泣いたのか。
 二人からは動揺する気配も感じられない。

「ラルフィン、アキが消えたとき、怪我はほとんどなかったんだ。軽い切り傷も数か所だけだった」
「それは……」
「アキが消えたのは、魔力消耗……魔力を使い切ったからだ」

 息を呑んだのはエルフィードだった。魔法師でもある彼にとって、その危険性がよくわかるのだろう。

「魔力に対して、神官の癒やしの力はなんの効力も持たない。だから、ラルフィンが責任を感じることはないんだ。……むしろ、感謝してる」
「殿下……」
「西の森でアキを全力で癒やしてくれた。ラルがいなければ、俺はあの時アキを失っていたんだ」
「それは……」
「それに、俺がアキを失うことは、もうわかっていたことだ」

 弾かれたように顔を上げたラルフィン。ラルフィンを慰めていた二人も、俺に視線をよこしてきた。

「アキは魔力を消耗するたびに、魂を消費して補っていた。あの時点で、レヴィからはもってあと数ヶ月と言われていたんだ」
「…っ」
「俺もレヴィも助ける手段を探していた。……結局、解決策は何も見つからなかったが」
「そんな……」

 余計涙を流すラルフィンの頭を、苦笑しながら撫でた。

「そんな……こと、なんで、女神さま……っ」
「いいんだ、ラル。…それよりお願いがあるんだ。俺にはラルのように女神様の声を聞くことはできない。だから、女神様が何か仰ったとき、それを俺に教えてほしい」

 俺が聞けない声も、ラルなら聞けるかもしれないのだから。

「声なら……いくらでも……っ」
「ああ。これ以上、気に病むな。お前の恋人たちまで暗い顔をしている」
「ディー……エル……っ」
「泣き虫フィー」
「ほら…もう帰ろう?」

 アキが戻ってきたら、ラルフィンにはしっかり話そう。
 俺がどれほど言っても、後悔し続けるのだろうから。
 二人に促されるまま、ラルフィンは足を動かす。
 ディオルグは俺に軽く頭を下げてから、ラルフィンに向き直った。
 あの二人がいればラルフィンは大丈夫だろう。

「……今夜は来訪者が多いようですね」

 ラルフィンたちを見送り、どこともなしに、声をかける。
 宿舎に通じる扉の近くには、苦笑した神殿長が佇んでいた。

「殿下はいつまで夜の礼拝を続けるのかと思いましてね」
「……続けますよ。アキが、戻るまで」

 はっきりと伝えると、神殿長は満足そうにうなずいた。

「戻るまで、ですか」
「ええ」

 俺にも躊躇いはない。
 アキが俺の腕の中に戻ってくるまで、祈りを絶やす気はないのだから。

「何か、ありましたか」
「神殿長?」
「先日までの貴方とは、全く表情が違う」
「……ああ」
「良い方向に流れているのだと……解釈しても?」
「ええ。いずれ、話します。もう、後ろを向き続けるのは辞めると決めましたから」
「それはよかった」
「ご心配を、おかけしました」

 どれほど沢山の者たちを、俺の悲しみに引きずり込んでいたのか、今更ながら気付かされた。
 アキを迎えるために、しっかり前を向こう。

『殿下に、女神様の祝福を』

 薄暗い中に、光が舞う。
 俺は自然と膝をついた。

『違えることなく前へ進めるよう、お見守りください』

 祈りの言葉とともに、癒やしの力が降り注ぐ。

 ……ああ。アキ。
 俺は忘れていたよ。
 俺には、支えてくれる者たちが沢山いる。
 お前に恥じぬよう、呆れられぬよう、皆に感謝を伝えよう。俺を見放すことのなかった皆に。

 アキ。
 俺は生きていてよかったと、心から思う。
 自害を止めてくれてありがとう。
 俺を引き止めてくれてありがとう。
 だから、アキ。
 早く俺の腕の中に戻っておいで。
 お前の居場所はここなのだから――――




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