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第6.5章 それでも俺は変わらない愛を誓う(side:クリストフ)
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しおりを挟む春の月は、一年の始まり。
王都では、新たな一年の始まりを告げる春の訪れに、祭りが開かれる。
この日だけは、必ず晴れる。
花弁のように時折雪が舞うことはあるが、離れ始めた太陽の光を浴び、祝福の光のように輝き舞い、消えていく。
だからこそなのか、この日は女神の祝祭日とも呼ばれるようになったらしい。
女神がこの世界に現れた日とも言われている。
「おかしいですよね。『作った』ではなくて、『現れた』日、なんですよ」
「そうだな」
今日は冒険者としてではなく、高位神官として神殿にいるラルフィンは、白を基調とした神官のローブを身に着けていた。
女神の祝祭日。
神殿が一年の中で一番忙しい日、でもあるか。
この日ばかりは大勢の者たちが神殿を訪れ、祝福を受けていく。中位・高位の神官たちは、それこそ休む間もなく駆り出されていくのだろう。
当然、王都に居を構えているラルフィンが参加しないわけもなく。恋人たちは家で大人しくしているらしい。
「殿下はご存知ですよね。一部の国には、男神信仰があること」
「ああ」
「その男神信仰の中では、この大地を作ったのは、その男神だと言われているんですよ」
礼拝堂内を花で飾り付けていくラルフィンは、嫌悪とかそういった感情でこの話を振ってきてるわけではなさそうだ。むしろ、興味、か。
「男神信仰は、もともとこの大地すべての人たちに広まっていました。でも、突然それが女神さまにすり替わって」
「女神様が何か言ったのか?」
「……教えてくれないんです。なんでだろう…って気になって聞いてみたんですけど、笑うばかりで」
うーんと考えながら、活けた花の向きを変える。
「女神様にも事情があるんだろ」
「まあ……そうですよね」
ラルフィンと話してると、女神も人なんじゃないかと親近感が湧いてくる。
祈りは女神に思いを伝えるものだが、本来はこちらから発するだけの一方通行のものだ。
けれど、ラルフィンは祈りを対話の場としている。
何も知らない者の目には、その言動は奇異に映るかもしれないが、女神に関してラルフィンが間違うことはないのだ。
「この大地……この世界には、よくわからないことが沢山ですね」
「……そうだな」
ラルフィンがこの話題を出してきた意図がわからない。
「……もしかして、ラル」
「はい?」
「女神様から、何か言われたのか…?」
「いえ。……あ、ただ、信じておけばいい、って。……殿下は、その意味がわかりますか?」
「……多分、な」
信じて待てということか。
実際、俺にできるのは信じることくらいだ。
いつアキが戻ってきてもいいように、すべてを整えておくだけ。
「ありがとうな、ラル」
「僕の方こそ、お手伝いしていただいて有難うございました!」
「いや、俺も一応は神官だから」
「でも、王族の方々は僕達より忙しいでしょう?式典の準備とか、王族には王族の忙しさがある、って、店主さんが」
「レヴィか」
どんな流れでそんな話になったのか。
忙しいのは確かに事実だ。
思えば、心に余裕もなく動き回っていた。全部、一人で抱えて、自分がやらなければと、思い込んで。
「確かに城の方は準備で忙しいだろうけど、中心は陛下と兄上だ。俺は警備の方に目を光らせるだけで、実際にはそれほど忙しくないんだよ。それに、祝祭日の手伝いは俺は初めてだからな。何もかもが新鮮だ」
「……そういうものですか?」
「そういうものだな」
二人で笑い合い、そろそろ城に戻るかというところでオリバー神殿長と話し込んだ。
俺が城に戻ったのは昼近く。
王都周辺の見回りに関してオットーから報告をもらい、昼過ぎから行われる式典での警備体制を確認した。
礼装に身を包み、渡り廊下を進む。
ふと外を見ると、祝祭日に相応しく光が舞っていた。
立ち止まり、暫しその光景に魅入る。
アキと共に、この美しい光景を見ることができたなら、空虚だった心は満たされただろう。
この光の中に立つアキは、どんなものよりも愛らしく、可愛かったに違いない。
自然と、左耳の耳飾りに触れていた。
来年は、二人でこの光景を見よう。
城を抜け出し、賑わう王都を楽しもう。
来年。
その言葉に、ふと笑みが浮かぶ。
以前は祈りのように口にしていた言葉だ。
アキが死ぬわけない、と。失うはずがない、と。どうにかしてでも、繋ぎ止める方法を探し出すのだ、と。
だから何度も『来年』と口にした。
けれど、今は違う。
祈りではなく、それは幸福な言葉となった。
来年も、その次の年も、五年後も、十年後も、更に先も。
二人で共に歩める幸福な未来がそこにはある。
「殿下」
「……ああ、すまない」
メリダに呼ばれ、我に返る。
広間に向かう俺の口元には、自然と笑みが浮かんだ。
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