406 / 560
if番外編:聖夜は異世界(日本)で
①
しおりを挟む里帰り。
言葉で言うのは簡単でも、俺にとっては中々簡単なことじゃない。
でも、特別な日だから、って、女神様が許してくれた。
毎年、ってわけにいかないけど、今年は特別だそうで。
翌々日の夜には戻されちゃうんだけど。
「クリスの服はどうしようもないよね。俺は着てきたのあるけど…。あ、外套はそのままいけるかも。剣は置いていってね?」
「……持っていかなくていいのか?」
「持っていったら捕まっちゃうから」
こっちじゃ剣を佩帯するのが基本だからなぁ。
剣がなくても派手。
完全コスプレ雰囲気になっちゃうけど。
「髪、束ねておこ。俺も」
なんだかんだ長くなった髪。
いつもは青混じりの銀色の紐で結ってもらってるけど、今もそれでいいや。
冬のニの月。
女神様が突然俺の里帰りを許可してくれたので、ごねてごねてクリスも一緒に行くことになった。
「……アキのご両親に挨拶……」
比較的質素な服に、外套を羽織ったクリスは、リアさんに何を吹き込まれたのか、ずっと何かを考え込んでぶつぶつ言ってる。
まあいっか。
「クリス、行こ」
「ああ」
今日は護衛はない。
神殿に向かって、奥の部屋から送り出してもらう。帰ってくるときも同じ部屋に出る予定。
…タリカに放り出されても、まあ、クリスと一緒だからいいっちゃいいけど、移動の手間は省きたい。
二人で手を繋いで、神殿へ。
待っていてくれたのはラルフィン君。
奥の部屋に案内されて、厳重に鍵がかけられて。
『女神さま』
ラルフィン君の呼びかけに、光が舞い始める。
「アキラさま、殿下、ちゃんと帰ってきてくださいね」
「もちろん。行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
手を振っていたら、ふっと一瞬暗転した。
クリスの手をぎゅっと握りしめていたから不安はなかったけど、唐突すぎやしませんか、女神様。
感慨に耽る時間も何もなしに、目の前にうちの玄関が現れた。……いや、現れたのは俺たちの方?
辺りを見回したら、それほど記憶の中と違わない光景が見えて、なんか泣きそうになった。
頭上には満天の星空。……あ、そっか。夜なのか。
「……ここが、アキの世界?」
クリスは物珍しそうに家や庭なんかを見てる。
「うん」
このまま立ちんぼになってても仕方ないと思いながら、インターフォンを押すべきかどうか悩んで、結局押した。
クリスは色々聞きたそうにしていたけど、俺がテンパってるから無理。
「はーい、どちらさま――――」
玄関が開きながら、懐かしいと思える声が聞こえて。
中から出てきた母さんと目が合って、……沈黙の時間が流れた。
「え」
「か」
母さん……って言おうとしたら、無情にも目の前で玄関閉められた。……何故?
どーしよ…って思って玄関に手を伸ばしたら、いきなりクリスに後ろに引っ張られて、それと同時に勢いよくまた玄関が開いた。……うぉ。危なかった。
「「瑛!?」」
……父さんも出てきた。
「うん。えと――――」
「瑛……瑛……!!!」
「なに、なんなの!?なんで連絡の一つもよこさないの!?」
二人からぎゅうぎゅう抱きしめられて、言葉が出ない。
苦しい。
けど、嬉しい。
勢いでクリスと離れてしまったけど、それどころじゃなかった。
「帰ってくるなら一言くらい――――あ、れ?」
一言の連絡も入れるのめっちゃ大変なんだよ…って内心悪態ついていたら、父さんが俺の後ろを見て目を丸くした。
「ま、ま、まさ、か」
「え、王子様の旦那様!?」
変なこと言わないで、母さん。
「あ、あのね、今日は特別だから、って、女神様が――――」
「旦那様連れて異世界から里帰りなんて、なんでもっと早く言わないの……!!」
……母さんのテンションについていけません。
俺があたふたしてると、背後でくすって笑う気配がした。
「申し遅れました。クリストフ・エルスターと申します。春の二の月に、アキ――――アキラと結婚しました。ご両親には何の挨拶もなく申し訳ありません」
……って、胸に手を当てたしっかりとした礼を、クリスが両親の前でした。
「まあ、まずは家に入ろう。あー、クリストフ君……は、流石に駄目か?殿下?王子様?……なんて呼べば……」
クリストフ君!!
なにそれ新鮮!!
「クリストフ君で!!」
「瑛には聞いていない」
「ひどいっ」
「クリス君でもいいんじゃないかしら。それか、クリスさん?」
母さんの順応性が高い気がする。
「お二人の呼びやすいように呼んで頂ければ嬉しい限りです」
クリスはあたふたする両親に、最高の笑顔で促した。その笑顔、好きだ。
「…あー…、じゃあ、クリス君だな。もうそれで。早く家に入ろう。凍えてしまう」
クリス君。
なんか、あれだ。
幼い男の子みたいな呼び方…!
貴重すぎ!
「そうね。早く入ってちょうだい。温かいココアをいれるから。あ、もしかして、お夕飯はまだ?」
「夕飯は食べてきたからいいけど、父さんと母さんは?」
「食べ終わってるから大丈夫よ」
それならよかった。
改めて母さんと父さんは、俺をじっと見た。
それから、さっきまでと全然違う、落ち着いた、少し涙で震えた声で、「おかえりなさい」って、言って、抱きしめてくれた。
*****
ifストーリーのクリスマス小話。
一話で終わらせる予定だったのに、なんか長くなりました……(いつものこと…?)
少しの間お付き合いくださいな^^
163
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる