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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
13 城内散歩と怖いオットーさん
しおりを挟む「そろそろ行こうか」
「ん」
結婚式の話はまた今度だ。
綺麗めの格好に整えてもらって、右耳のイヤリングも左手のブレスレットも装着完了。
クリスが差し出してくれた手を握って(本当なら添えるだけでいいとかなんとか)、椅子から立ち上がる。
行き先は厨房。
でも、ゆっくり、城内を歩く。
クリスと寄り添いながら。
「辛くなったら言うんだぞ?」
「うん。でも大丈夫」
メリダさんからの「いってらっしゃいませ」って言葉に送り出されて、俺はクリスと部屋を出た。
部屋の外には、オットーさんと珍しくミルドさんがいた。
「おはようござ……、あ、もう、こんにちは?」
流石におはようの時間じゃないわぁ…って言い直したら、二人に笑われた。
「どちらも必要ないですよ。…体調が良さそうで安心しました」
「はい。多分もう大丈夫です!」
オットーさんは「よかった」と呟きながら、笑顔だ。
ミルドさんはニコニコしてるだけ。
「……なんか、オットーさんとザイルさんが一緒にいないの、不思議」
「ええ。まあ、そうですね。ザイルは執務室にいますよ。どうしようもない上司が部屋で仕事することも放棄してますので、尻拭い中です」
「えー………と」
傍らのクリスを見上げたら、苦笑しかしてない。
「ごめんなさい」
「なんでアキが謝るんだ」
「だって、俺がいるからクリス仕事に行かないんでしょ?」
俺が寝込んでたりしてて、傍にいてくれたから。
「それに…、なんか俺、ずっとクリスを引き止めてたみたいだし…」
ずっと寝てたのに、寝たままクリスを求めてたらしいから。
「アキは何も悪くないよ」
「そうですよ。『書類は持ってくるな』と私に言ったのは殿下ですし」
「……言ってない」
「言いましたよ確かに。私に。睨みつけながら、その目で、『邪魔するなよ』って」
「言……」
「『目は口ほどに物を言う』でしたっけ?どこぞのご令嬢からの受け売りですが」
どこぞのご令嬢………。
誰なのかは想像はつく。
それにしてもオットーさんは凄い。相変わらず。クリスが何も言えなくなってる。でも何故だろう。凄みが増してるというか、苛立って見えるというか。
「なので、アキラさんは何一つ悪くありませんよ。……ああ、でも、もし体調が良ければ、執務室の方に来ていただけないですか。皆、会いたがってますから」
「あ、はい」
「心配されずとも、あの男は近づかないようにしっかり手綱を握っておきますからね」
にっこりと、オットーさん。
あの男……って、やっぱりエアハルトさんかな……。
「後で執務室に行く。それでいいだろ、オットー」
「ええ。もちろん」
オットーさんの勝利、ってとこかな…。
溜息をついたクリスに腰を抱かれて歩き出した。
「アキ、すまない」
「え?」
「余計な気を遣わせただろ」
「や、俺も全然気づいてなかったし」
「昼からもベッドでゆっくりしようと思ってたんだが」
体をかがめたクリスが、耳元でそんなこと言うから、顔が熱くて仕方ない。
「…っ、ラルフィン君から大丈夫、って言われたし、俺も執務室行きたいからっ」
「そう?」
くすっと笑う声も、耳元で。
ゾワゾワするから離れてほしい…っ。
「あ、でも、俺が行ったら仕事にならない?」
「アキがいないと仕事にならない」
そんなやり取りをして、はた…っと二人で顔を見合わせた。
それから、二人で笑う。
「前にもこんな会話したな」
「そうだね。したね」
笑って。
楽しくて。
廊下なのに、クリスが頬にキスしてきたことも気にならなくて。
必要以上にくっついて、ゆっくりゆっくり歩いて。
目指すは厨房……だったんだけど。
すれ違う人たちの視線を滅茶苦茶感じた。
ぎょっとする人。
二度見してくる人。
悲鳴を上げそうになる人。
固まる人。
色々な反応だ。
「……珍獣になった気分」
「ちんじゅう?」
「珍しい動物、ってとこかな。それか幽霊…ゴーストか」
「ああ。発表はまだだからな。城の者たちの認識では死んだことになったままだ。今日陛下から正式に発表されるだろうから、問題はないよ」
「うん」
散歩並みにゆっくり歩いているのは、見せつけてる感じもする。
俺いるからね。
生きてるからね。
クリスは俺のものだからね。
ちょっかい出さないでね。
俺からしたらそんな感じの。
クリスからしたらまた違うかもしれないけど。
厨房のドアはミルドさんが開けてくれた。
「料理長」
クリスが声をかけると、それまで作業していた料理人さんたちがクリスを見て、俺を見て、手元を見てからまた俺を見た。
見事な二度見。
手元止まってるけど、大丈夫かな。
「殿下、どうされま」
奥から出てきた料理長。
手にバニラの甘い香りのするボウルを抱えて。
それきっとクリームだよね。
俺を見て不自然に言葉を切った料理長の手元から、お菓子の材料であろうクリーム入のボウルがストンと落ちて、派手な音を立てて床に転がった。
中身のクリームはそれなりにホイップされていたようで、あまり飛び散らなかったけど、それでも惨事だ。
でも誰も片付けようとしない。
「りょう」
「アキラ様?」
「はい」
沈黙に耐えられなくて呼ぼうとしたら、呆然とした料理長から呼ばれた。
「アキラ様?」
「…はい」
「アキラ様?」
「料理長、戻ってきて?」
「……本物?」
「うん。俺です。多分本物です」
固まったままだった料理長は、ぎくしゃくと動きだして、床の上に転がっていたボウルを拾い上げ、適当な台の上に置いてから改めて俺を見た。
「……亡くなった、と」
「俺たちの勘違いだったんだ料理長。アキは女神様に保護され、自国で療養していたんだ。療養が終わり、この間戻ってきた」
クリスは俺の頭を撫でながら、料理長にそう説明した。
「……メリダ殿が楽しそうに『アキラ様の好物』を依頼していったことの意味が、ようやくわかりました……」
ぐす…っとした顔を一度天井に向けてから、料理長は俺に向き直り、ニカッと笑顔をみせてくれた。
「おかえりなさい、アキラ様」
「はい!ただいまです!!」
あっちこっちから、よかった、とか、おかえりなさい、とか、いろんな声があがって、拍手までされた。
こんなに歓迎されるのが、なんだかちょっと照れくさい。
「あ、そうだ」
クリスの隣から少し離れて、料理長の近くに行く。
「あのね、カール料理長」
「はい?」
こそこそっと。
クリスの目の前だけど。
「今度またケーキ作らせて」
「!」
「ほら、あのときのちゃんと最後までできなかったから」
「ええ、そうですね。是非やりましょう!」
ちらっとクリスを見たら苦笑顔。
ちょっと離れてるし小声だし、聞こえないよね?
「よろしくお願いします」
「はい。承りました。あ、お昼はどうされます?まだご用意しておりませんよね?」
「あー、えっと、朝ごはんが少し遅かったから、サンドイッチとかがいいかな…。お肉と卵と野菜の」
「ええ。用意しておきますね」
「クリスもそれでいい?」
「構わない」
…って、傍に来たクリスが、俺を片腕縦抱きしながら答えてくれた。
「料理長、これからも頼む」
「はい。お任せください!」
「お騒がせしてすみませんでした」
って、クリスに抱かれたまま頭を下げたら、あったかい笑い声が聞こえてきた。
「いつでも来てください、アキラ様」
「ありがとうございます!」
ニコニコの料理長さんたちに見送られて、俺たちは厨房から出た。
クリスは俺を下ろすつもりがないらしく、縦抱きのまま廊下を進む。
「料理長と何の話をしてたんだ?」
「なーいしょ!」
へへ、って笑ってクリスに抱きつく。
クリスは、やれやれ…って笑いながら、俺の背中を撫でた。
*****
すみません、おまたせしました><
ちょっと頭痛ひどくて寝込んでました。
500文字くらいは書けたんですが、流石にそれだけを上げるのは……ちょっと……(苦笑)
相変わらず、先に進まないお話…(笑)
そして。
……アキの腕時計、いずこ……(笑)
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