【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
435 / 560
第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

16 『打ちっぱなし』は楽しかった。

しおりを挟む



「アキラ様………!!!!」

 訓練場に出た俺に向かって、顔面崩れまくりでエアハルトさんが駆け寄ろうとしたけれど、クリスが手だけでそれを止めた。
 駆け出したポーズのまま硬直したように動かないエアハルトさん。止まれるだけの理性があったのか。

「エアハルト」
「は、はい…!!」
「アキの魔法訓練の相手をしてくれ」
「な………なんと……!?私が!?」
「お前以外魔法が使えるやつがいないからな」

 医療室に行ったザイルさん以外、みんなが外の訓練場に集まってた。扉前の護衛をしていたミルドさんも。
 オットーさんはザイルさんのことを聞いて少し慌てていたようだけど、「オットー」ってクリスに名前を呼ばれただけでこの場に留まった。
 なんか色々気になることがあるけど、後でいいや。

「アキ、火属性の魔法を徐々に強くするように意識して出してみろ。エアハルトは土壁で相殺していけ」
「了解です~~!!!くううううっっ!!、アキラ様の魔法を私が、私が……!!!」

 だから、そのテンションは引くってば。

「……クリスの補助は?」
「ん?」
「してくれないの?」

 じ…っとクリスを見れば、ふ…っと相好が崩れた。

「甘えたがりだな」
「だって」

 あれをしてもらえると嬉しいんだよ。

「俺はアキの制御係か」
「ふふ」

 笑ったままのクリスが頬にキスをして、俺の背後に回った。
 左手は俺の左手を取って指を絡め、右手は俺の目元を覆う。

「俺の魔力はいらないな。ゆっくりでいい。魔力に火の属性を。スライムを倒したときほどの威力はいらない。ごく弱いものだ」

 耳元で俺に指示を出していくクリスの声。
 背中……ゾクゾクする。

「力を抜いて。的はエアハルトだ。お前の魔法はあれが全部防ぐ。遠慮はいらない」
「ん」

 よくよく聞けば大変なことを言っている気もするけども。

「アキ、余計なことは考えるな」

 くすくす笑われる。
 集中できてないことモロバレだ。
 集中集中……。

「………ん、いいな。ゆっくり、目を開けろ」

 クリスの右手が離れて、瞼を上げていく。
 午後の日差しが目に入り込んでくると同時に、すごく鮮明にエアハルトさんの姿を捉えることができた。
 ……これは恐らく、魔力を感知してるんだ。
 それから、周りから感嘆の声が聞こえてくる。でも、気にならない。

「青も美しいが、緋色も魅惑的だな」

 ちらりと俺を覗き込んだクリスは、満足そうにそんなことを言う。

「いいか?」
「うん」

 クリスの左手が俺の左手を固定する。

「最初は弱く――――放て」

 クリスの声とともに、左手に魔力が集まり、放出された。
 弱い、小さい、ファイアーボール。むしろ、『ひのこ』な感じの。
 イメージするものが小さすぎたのか弱すぎたのか。

「あ」

 俺の手から放たれた小さな小さな火球は、ひょろひょろと直進し、すぽんと消えた。

「えーーーーーっと」

 みんな笑う。
 俺の後ろでクリスも笑う。

「もうっ!!弱く弱く言うから…!」
「ごめん…っ、いや、そうくるのかと可愛くてな?」
「むー!!」
「ま、まあ、弱いものから、だから、まずはそれでいいんじゃないか?…ほら、もう笑わないから、機嫌直せ?」
「むー!むー!!」

 まさか、まさか、エアハルトさんのところにも届かないとか、思わないし!
 まだ笑う気配のなくならないクリスがこめかみにキスしてくるから、俺は口をへの字にしながら左手に魔力を込めた。
 さっきより、ちょっと大きく、距離長く。いっそ、スピードあげてっ。

 俺の左手から放たれた二発目は、さっきのものよりほんの少し大きい火球でスピードも上がった。
 それはエアハルトさんのところまで難なく届いて、構築された土壁にさくっと消される。

「うん、その調子で。少しずつ火力上げて」
「わかってるしっ」

 クリスの補助はもういらない。二発目以降は感覚がつかめるから。
 大きさ、威力、スピード。徐々に上げていって、数も増やした。
 初撃に笑ってた隊員さんたちはもう誰も笑ってない。すごく真剣に見られてる。
 俺と対峙しながら土壁で火球を相殺していくエアハルトさんからも、余裕の表情はなくなった。

 俺はなんだか楽しくなってきて、蛇のように動く炎の鞭や、炎の矢を出すようになった。
 無詠唱だけど、心のなかでは、ファイアーウィップやらアローやらスピアやらバレットやら、そんな適当な名前を作り出していた。
 まさにこれは世に聞く『打ちっぱなし』というやつではなかろうか。
 ストレス発散にもなるし、なんなら、両手で軌道修正までできる。
 あ、やばい、楽しい、楽しい…!

 それに、なんと言っても、こんなに打ち続けてるのに疲れてない!
 魔力のある身体ってすごい!
 これは魔力チートとかいうやつではないか!

 ……ってはしゃぎまくってると、かなり大きな火球が出た。
 威力的にでかい?…と思っていても、楽しさが先に立つ。
 もう一つ…もう一つ…って魔力を練り上げていたら、放った魔法が空中で霧散した。

「アキっ」

 数歩離れたところにクリスがいた。
 手に、血に濡れた剣を持って。

「アキ」

 クリスは俺に駆け寄って、右手で俺の目元を覆う。

「終わりだ。落ち着け」
「く、りす」
「落ち着いて。魔力を沈めていくんだ」

 高まってた魔力が次第に落ち着いていくのを感じた。
 それから、クリスにキスをされる。
 いきなり、深いやつ。
 すぐ舌を入れられて、唾液を流されて。
 飲み込んだら、身体の中に魔力が巡った。

「あ……」

 燻っていた自分の魔力が抑えられていく。

「アキ」

 優しいクリスの声。
 右手が離れて、目を開ける。
 少し眉間にシワの寄った、困ったような顔のクリス。

「正気に戻ったか?」
「正気………って」

 クリスの肩越しに辺りを見たら、なんだかとても大変なことになっていた。
 地面はあちこちえぐれてるし焦げてるし、その先ではエアハルトさんが倒れてて、隊員さんたちが駆け寄ってる。

「………っ」

 クリスの手元を見た。
 左手は握ったままだけど、血が流れてて。
 剣についた血で、何をしたのか、わかって。
 一気に血の気が引いた。

「クリス……っ、ごめん……っ、ごめんなさい……っ!!お、俺、俺……!!それに、エアハルトさんが……!」

 クリスは最後の火球を、んだ。剣に自分の血をつけて、魔力付与させることで。
 謁見のあったあの日と同じように。

「気にするな。楽しそうだったから静観してたんだが、最後のはまずいと思って飛び出しただけだ。
 エアハルトは魔力の使いすぎで気絶しただけだから、寝かせておけば問題ない。心配いらないからな?殴りたくなるほど幸せな顔してるんだ。見てみるか?」

 クリスはそんなふうに言いながら、俺を右腕で抱き上げた。

 エアハルトさんは、気絶してた。…とても満足そうな幸せそうな顔で。これは確かに殴りたくなる。
 でも怪我はないみたいで安心してたら、他の隊員さんたちから、改めて、おかえりなさい、とか、魔法がすごい、とか、色々喜ばれた。そういえば、こっちに帰ってきてから、隊員さんとまともに顔合わせるの今が初めてだった。
 俺の魔法の使い方にドン引きされなくてよかった……。











*****
エアハルトさん、本望でしょう…。
しおりを挟む
感想 543

あなたにおすすめの小説

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

処理中です...