【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

閑話 オットーさんとザイルさん⑤

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◆side:ザイル

 私は本来前向き思考な性格をしてるのだと思う。
 悩むこともあるが、それでも結論を出すことは比較的早いし、出してしまえばそこまでだ。悩み事を後々まで引きずるようなことは今までなかった。

 貴族家…特に末端の男爵家の三男など、まあそんなものだろう。求められるのは跡取りとしての能力ではなく、自分で生活していくための力だ。
 幸いにも私は殿下の目に止まり、認められ、自分が自分らしく生きていく場所を手に入れた。忙しくても日々は充実してると思うし、やりがいもある。

 恋愛事や結婚などは自分には無関係のままだと思っていた。いずれは誰かと婚姻関係を結ぶかもしれないとは思っていたが、それはもっと歳を重ねてからだろう、と。
 とにかく今は、殿下のもとで自分の力を高めていくことが何よりも楽しく、そんな浮ついたことを考える暇などない、はずだった。



 ――――けど、を境に変わってしまった。



「………」

 目が覚めて一瞬ここがどこかわからず、ぼうっと天井を見上げた。
 ベッドの周りのカーテンを見て、ようやくここが医療室だと思いだした。
 窓から差し込む日差しは暖かく、かなりの時が経っていることに否応なく気付かされる。

 …ずっと、憧れる思いはあった。
 あの殿下と対等に立ち合い、信頼されてるあの男に。平民出であるにも関わらず、貴族相手でも堂々と立ち振る舞い、萎縮したり自分を卑下することがない。
 時折、酷く冷たい視線で貴族を見ていることもあったが、だからといって問題行動を取ることもなく。
 粗野さを感じられない身の動きは、多分本人が努力した結果なんだろうけど。

 少しでも追いつきたくて、鍛錬はかかさなかった。
 そのおかげか、確かに私の剣の腕自体もかなり磨かれたと思ってはいるけれど、それでもまだ、あの男には追いつけない。

 そんな中でのだ。
 いくら酔ってたとは言え、受け入れるような行為だったんだろうか。
 あの男は私の前では態度を崩す。いつも団員たちには線を引いているのに、私と二人のときにはそれがない。いつもいつも、素の顔で接してくる。
 …そのことに、多少なりとも優越感はあった。自分は特別だと思う気持ちもあった。
 だからあれも受け入れたんだろうか。
 翌朝の行為も、酒が入ってたわけじゃないのだから、抵抗はできたはずだ。けれど、私は受け入れた。

 あのときは深く考えなかったけど。
 考えられるような状況でもなかったし。
 ただ、嫌じゃなかった、ってことだけで。
 自分にとって初めての行為を、意外とあっさり受け止め、嫌悪することもなく、その後も共寝を何だかんだと受け入れ。口付けも嫌がりながらも殴ることなく受け入れ。

 私にそこまでしておいて、嫁になれって散々言っといて、今更のように、貴族だから平民だからと線引された。
 あくまでも仕事の話だったんだろうけど、それでも私はその言葉に傷ついていた。あの男の根本にはそれが深く突き刺さっているのだと、気付かされた。
 だから、余計なことにも気付かされた。
 あの男に対して持っていた憧れは、別の名前に置き換わっていた。
 少なからず抱いていたであろうそれは、何故かその瞬間に決定的になったんだから笑える。

 嫁になれと言い寄ってくるのに、拒絶する男。
 抱かれておきながら自分の想いには気づかずぞんざいな態度を取っていたのに、拒絶の言葉を聞いて想いに気づく私。

 どちらが酷いだろうか。




「――――ああ、起きましたね。昼食は摂れそうですか」
「あ、はい」

 カーテンが開けられ、声をかけられる。
 医療師の男性は私が答えると笑ってまたどこかに行ってしまった。
 そうして戻ってきたときには、手にトレイを持っていた。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 パン粥ではなく、コメ粥。アキラさんとセシリア嬢の………執念?の、賜物。

「顔色も良くなりましたね。食べ終わったら戻っていいですよ」
「わかりました」

 再びカーテンが閉められてから、一匙コメ粥を口に運んだ。
 ……うん、美味い。
 付け合せのように小皿に入っているおかずも美味いし。

 何口か食べてから、腹が減っていたことに気づいた。
 ……ん。空腹はだめだな。思考がどんどん暗くなるだけだ。

 貴族とか平民とかにあの男がこだわるなら、それをなくせばいいだけで。
 私は三男だし。
 家を継ぐ必要も、跡取りを残す必要もなくて。
 なんだ。
 こんなに簡単なことだったのか。
 殿下の兵団に所属することに、貴族である必要はまったくないんだから。

 グダグダ考えてたのが馬鹿らしい。私らしくもない。
 やっぱり疲労と睡眠不足と空腹は駄目だな。碌な思考にならない。
 今の私のほうがよほど私らしい。

 用意された食事を食べ終わり、軽く身体を伸ばしてからカーテンから外に出た。
 トレイを持ってでた私を、医療師はうん、と頷き見る。

「戻られますか」
「はい。お世話になりました」
「いいえ。何かあればまたお越しくださいね。無理せずちゃんと眠ってください」
「気をつけます。ありがとうございました」

 トレイはその医療師が受け取ってくれた。
 気持ちがスッキリすると足取りも軽くなる。
 家に連絡を入れて、殿下にも伝えて、それから、あの男にはどう伝えようか。

「ザイル様」

 渡り廊下を進んでいるとき、そう声がかかった。

「マリアンナ様」

 春色のドレスに身を包んだマリアンナ・ベレント子爵令嬢。
 家を通して私に婚約の打診をしてきた方が、嬉しそうに私に歩み寄ってくる。近くには侍女らしき人物もいるが、咎める様子はない。

「医療室にいらっしゃると聞きまして…。もうお加減はよろしいのでしょうか」
「ええ。もう問題ありません」

 ……私が医療室にいるって、誰が伝えたんだ。

「よかった。私、心配で――――」
「マリアンナ様、先日お伝えしたとおり、私は貴女のご希望に沿うことはできませんから。婚約の件については丁重にお断りを入れたはずです。それから、ご令嬢が城のこのような場所にまで来られるのは、あまりよくないと思いますよ」
「ですが――――」
「マリアンナ様、諦めてください。どうか、貴女に相応しい方を見つけて下さい」
「……私は、あの夜会のときに貴方であればと思ったのです。ですから――――」
「マリアンナ様」

 可愛らしい方だとは思う。
 子爵家を背負って行かなければならない重圧も理解している、知に富んだ方だとも思う。
 けど、それだけ。

「私のことはどうか諦めてください。私は貴女の望みには応えられない。…私は平民になりますから」
「え…」
「どうか、貴女に相応しい方を」

 もう一度、繰り返し。
 彼女の瞳は僅かに揺らいだけれど、雫が落ちることはなく。

「……どなたか、お心に決めた方がいらっしゃるんですか……?」
「……ええ」
「その方が平民だから…、ザイル様も平民になると…、そういうことですか?」
「ええ。そうです」

 笑顔は自然と出た。
 嘘偽りなく、そういうことだから。

 マリアンナ嬢は私を見つめていたが、ふ…っと視線を下に向けた。
 そうして次に顔を上げたときには、涙の滲んだ笑顔をむけてくれる。

「わかりました。……どうか、どうか、その方とお幸せになってください。貴方に、立派になったと思われるくらい、私も頑張りますから。だから、どうか」
「ありがとうございます。マリアンナ様も、貴女に相応しい素敵な方を見つけてください。焦らずとも、きっと見つかりますよ。貴女はとても魅力的な方なのですから」
「ありがとうございます」

 微笑んだマリアンナ嬢は、本当に綺麗だった。






◆side:オットー

 ザイルが医療室に連れて行かれた日の夜。
 夕食後に部屋を覗いたが戻っていず、夜中の時間に医療室まで足を伸ばした。
 夜勤の医療師に断りを入れ、ザイルが寝ているベッドを確認し、カーテンを開け中に入った。
 僅かなランタンの灯りのせいで、顔色まではわからないが、眉間に皺が寄り、夢見でも悪いのかと心配する。

 様子がおかしいのはわかっていた。
 ムキになって仕事をしている様だったし、根を詰めすぎているのか昨夜もかなり遅く帰ってきたのに、今朝は俺よりも早く部屋を出ていた。

 何がそれほどこいつを苦しめているのか。
 ……俺が、なにかしたのか。

 額にかかる髪を指で梳く。
 柔らかな髪を、頭を、ゆっくりと、撫でる。
 自分らしくないなと思いながら、顕にした額に口付けた。
 ……かなり殿下とアキラ様に毒されているらしい。困ったものだ。

 けれど、眉間の皺がなくなり、口元に笑みが浮かぶのを見ると、満足できる。
 どうにもこいつの体温がないと眠りが浅い。
 …気づかないうちにかなりはまり込んでいるらしい。

 一つため息をついてから、ザイルが眠るベッドから離れた。
 医療師に礼を伝えてから部屋を出た。
 明日はいつもどおりにできるだろうか。
 腕の中に抱いて眠れるだろうか。

 部屋に戻り、冷たいベッドに横になる。
 アキラ様という一番の懸念事項は無事解決した。
 そろそろ、いいだろうか。
 自分の思うように動いても。





 そして翌日。
 昼食後に殿下の私室に向かってる途中、顔色の良くなったザイルと、婚約を申し込んでいたマリアンナ嬢が談笑している場面を目にした。

 殿下の言葉も、アキラ様の声も、全てが素通りしていく。
 吹っ切れた笑顔で。
 彼女をいたわるような優しげな眼差しで。

 ――――ああ、そうか。

 ザイルは、選んだんだ。
 俺ではなく、彼女を。
 断ったと、言っていたのに。

 ――――結局、彼女を、貴族を、選んだのか。

 恨むような思いも、全てを否定したくなるような悲しみも、何も湧いては来なかった。
 ただ、その事実だけを、俺は受け入れた。




 一本の杭が胸に深く突き刺さる。罪人の命を刈り取る鈍い光を放つ鋭利な杭が。

 何故、俺が愛した者は、俺の手からこぼれていくのだろう。
 何故、俺のもとには何も残らないのだろう。

 誰か、俺に教えてほしい。
 俺は、何を間違えた…?
















*****
こじれまくった先の終着点
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