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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
44 ありえない真実 ◆マシュー
しおりを挟むエルスター王国の王都西町の冒険者宿の店主は、自身も冒険者として名を上げ、今でこそ冒険者は引退したが、まだその腕前は衰えてはいず、頼りになる素晴らしい人物だ……と、聞いていた。
エルスターに入るまで冒険者たちの話を聞いていたが、とにかくエルスターの冒険者たちは統率が取れているという。
そんな人の元で活動してみたい…と、あこがれを胸に抱き暁亭まで来たというのに、その当の店主は突然現れた黒髪の少年の話を真に受け、宿を出ていってしまった。
あんな少年が第二王子の婚約者だって?
……それすら疑わしいじゃないか。
宿のある西町は活気にあふれているし、魔物が出たという話も聞こえない。……どの街にも設置されてるはずの緊急の鐘も鳴らない。
どう考えたってあの少年の虚言だ。
宿にいた俺以外の冒険者たちは、店主の号令に従って行ってしまうし。
間違いは間違いだと諭すことも必要だろうに。
あの服装から考えれば、平民の子供ではないだろうが、貴族の子供だからといって虚言に乗るなど、考えられない。
結局、噂は噂でしかなかった。
そんな、物語の登場人物のように素晴らしい人など、存在しないのだろう。
出てきた溜息は深い。
なんのためにここまで来たのだろうか。
ここにいる意味がなくなった。
途中の街で依頼を受けながら、長い時間をかけて国に帰ろう。完全な無駄足だった。
無人の宿を出て乗合馬車の停留所を目指して歩き出したとき、空気を震わす低音の鐘が鳴り響いた。
露店商や住人たちが騒ぎ出し、通りは騒然とする。
鐘は緊急を知らせる物。
街の中で響くのは、何かしらの襲撃にあった知らせ。
思わず舌打ちしてしまう。
あんな虚言に乗って、鐘まで鳴らし、住人たちを混乱に陥れるなんて。どこまで愚かなのか。
人の波に逆らって西門に足を進めた。
通りは避難する住人たちで溢れていて、中々前に進めない。
それでもなんとか門前の広場についたとき、暁亭では見なかった冒険者たちも駆けつけていた。
いつ嘘が露見するのか、騙されたと店主が気づくのか、興味はあった。
――――けれど。
「酸の攻撃には注意してください!マンティスの鎌は見た目よりも早く動きます!!」
鐘からいくばくもしないうちに、西門の外は戦場と化した。
「ギルマス、エルさん、障壁をはりなおします!!」
魔物の特徴を素早く伝えながら、店主さえも手足のように使う子供。
なんなんだ。
一体、これはなんなんだ。
魔物の襲撃は各国どこでも起こり得るものだ。特に人が多く集まる王都等の街は、年に数回の襲撃を受けることがある。
特に前兆のない魔物たちの襲来は、目視できたときには大体が手遅れになってることが多い。
門は破られ、犠牲者が出る。
冒険者たちが応戦し、城からも兵士たちが駆けつけるが、どこでも犠牲者が多いのが当たり前のもの。
なのに、その襲来を門の前で食い止め、俺達の間を抜けようとした魔物は透明な壁のようなものに行く手を阻まれ、門をくぐることもできない。
「ワームから酸の攻撃が来ます!!」
それから、あの、子供――――
恐らく魔法師なのだろう。
いくつかの魔法を発動させながら、俺たちに敵の行動予測までも伝えてくる。
本当に、一体なんなんだ。
事態が動いたのは、地中から魔物が現れたときだった。
地中から這い出た魔物の鈍く光る尾の攻撃が向けられて、子供はその態勢を崩した。
それを目撃した何人かが助けに踏み出そうとしたが、それよりも早く馬に騎乗したままの青年が、背後からその子供を抱え上げた。
彼らが下がるのと同時に、濃紺色の軍服を着た数人の兵士らしき者たちが、前線に加わった。それを見た王都の宿に所属しているらしい冒険者たちは、一様に安堵の顔をしていた。
その彼らに少し遅れて、濃緑色の軍服を着た兵士たちも駆けつけてくる。
この国の兵士だということは理解した。
ちらりと後方を見れば、あの子供と、子供を助けた青年が抱き合ってる姿が目に入った。
何をどう理解すればいいのかわからない。
魔物の襲撃など虚言だと思った。
第二王子の婚約者だというのも自称だと思っていた。
なのに、これは。
店主が言っていたことが本当なのであれば、あの青年は第二王子ということか?気づけば店主とも対等に話をしている青年。
「…っ」
考えすぎて手元がおろそかになった。
けれど、キラーアントの牙を受けた瞬間、辺りに浄化のような光が舞った。
その光が触れると、負った傷が治っていく。
まさか、神官の癒やし、か。
「フィー、ありがとう!」
その声に再度後ろを向くと、桃色がかった銀髪の少年が嬉しそうに声の主に手を振っていた。
……あれが、神官?年若い……、あの子供と同じくらいだろう?
一体どうなってるんだ。
魔物の襲来を予見する子供に、周囲の者を一気に癒やす神官の少年……。
後から加わった濃紺色の軍服を着た兵士たちは尋常ではない強さを見せつけ、魔物を屠っていく。
そして、上空に飛行する魔物が襲来したときも――――ワイバーンから放たれた炎の攻撃は謎の壁に阻まれ、火の粉が舞うだけでそれほど大きな怪我もない。そのうち、口に巨大な氷をいれられ、羽根を切られ落下した。もう一種の方は、寸分の狂いもなくその目に矢が刺さり、同じように落下してくる。
その頃に前線に入った濃紺色の軍服を着た青年二人は、「団長」「副団長」と、皆に呼ばれていた。
その二人もまた、とんでもない強さを見せた。長年そういう訓練でもしたのかと思うほどに息のあった動きをする。
もうこれ以上何があっても驚きはしない……と思っていたが、その後加わった銀髪の青年は、この場にいる誰よりも剣の腕が秀でていた。
時折「殿下」と呼ばれているのが聞こえてくるから、彼は本当にこの国の王子なのだろう。
あれほど苦戦していた巨大な魔物と地面に落とされた魔物は、彼らが参戦することでそれほど時間もかからずに屠られる。
残る二体も地に落とされ、もう決着は目に見えた。
とんでもない。
なんなんだ、ここは。
「アキラさま!」
終わりかけた時、後方からまだ少し高い声がした。
見れば、神官と思しき少年が、ぐったりと倒れている黒髪の子供の手を握っている。
「アキ…!」
「クリストフ、行け!」
「オットー、あとは頼む」
「御意!」
そんな会話が聞こえた直後、青年は子供に駆け寄り、その身体を抱き上げていた。
「魔力切れか……。エルフィード!坊主が限界だ!障壁を張り直せるか!」
「出来ます!!」
「任せた!エアハルト、土でできるだけ足止めしておけ!!」
「はい!」
「いいかお前ら!!最後まで守りきれよ!!」
「応――――!!!!」
士気を高めていく店主のその姿に、俺は己を恥じた。
「マシュー」
「店主…」
「どうだ、凄いだろう?ただの子供じゃないんだ。あの坊主は」
「………はい」
何も嘘はなかった。
嘘どころか、真実しかなかった。
これは誰もなし得なかったこと。
全てはあの子供の――――黒髪の魔法師が起こした奇跡。
俺は今この場に立ち会えたことを、深く女神に感謝した。
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