【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。

47 奇跡 ◆ギルベルト

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 一年に一度か二度起きる魔物の襲来。
 前回は忘れもしない秋の一の月。人為的に引き起こされた偽りの襲撃だった。
 東では大勢の住人や兵士が犠牲となった。
 その前は一昨年の春の二の月だったか。
 西側が襲撃に合い、その時も大勢が犠牲になった。
 そうやって毎回失われる命も多く、建物への被害も甚大だ。
 けれどそれは予見もできなければ、対策を立てることもできない。
 精々、門を強固なものにしたり、門番の見回り体制を強化するくらいだ。
 魔物の動きが察知できれば、被害はもう少し抑えられるはずなのに。
 現状ではそれに関しては何の手立てもない。こればかりは、各国も同様だ。

 だから今回、クリストフから魔物襲撃の予兆ありと報告を受けたときには、何かの間違いではないかと疑いもした。
 その報告から間もなくして、王都に響き渡る緊急の鐘。
 すぐに出ることができる第二騎士団をクリストフに付け、私も準備を急ぐ。
 騎士団の編成が終わった頃に、魔物襲来の報が届いた。同時に、多数の冒険者が既に待機していたため、門前で食い止めることができているとも。
 その報告を聞いた陛下を筆頭とした重鎮たちが、驚きざわついた。
 そんなことが可能なのかと。
 ……正直、私でさえ半信半疑だったのだから。




 そしてすべての準備を整え西門に向かったのだが――――

「……本当に……?」

 クリストフは間もなく終わると言っていた。
 けれど、まさか、それが真実だなんて。

 結論から言えば、西門前広場は綺麗なものだった。
 門には所々破損した場所が見られるが、打ち破られた様子もない。
 馬から降りて門をくぐったが、そこには凄惨な光景が広がっていた。
 おびただしい死骸は、全て魔物のものだ。
 ……この数を、この短時間で?
 私についてきた騎士団の面々も、言葉を無くしている。

「お、殿下」
「統括」

 この死骸の中でも統括はいつもと変わらない様子で、私に軽く手を挙げた。
 統括の声で私に気づいたクリストフ直属の兵団員や第二騎士団員達が、一斉に膝をつく。

「作業を続けてくれ」

 私の言葉に短く答え、各々作業へ戻っていった。
 私と共に来た騎士団の面々も、作業に加わる。

「統括、これは」
「ん?なんだ。クリストフから聞いてないのか?」
「……魔物襲来の予兆ありとは、聞いてましたが」
「そのまんまだよ。門は多少やられたが、住人の避難も十分間に合った。恐らく住人には怪我人は一人も出ていない」
「……こんなことが」

 これだけの数の魔物を、門前で防ぐことができたなんて。

「ですが、冒険者の方々に怪我は――――」
「それもラルフィンがいれば大概どうにかなったな。……何より」

 統括は私の腕を引くと、声を潜めた。

「アキラがいてこそだ」
「……」
「魔物襲来を感知できたのも、高位神官ラルフィンを最初から呼ぶことができたのも、これだけの数の魔物を最小限の被害で食い止めることができたのも、全部あの坊主がいてからこそだ」
「……そんなに」
「いいか、王太子殿下。このことはあまり他国に知らせるな。余計な火種になる」

 どの国も魔物の突然の襲来には頭を悩ませている。その対応には兵力が必要であり、国家間で争う余裕がないのが現状だ。
 ……けれど、その均衡が崩れたら。
 万が一他国に知れ渡れば、どの国もアキラを欲しがるはずだ。若しくは、命を狙ってくるか――――

「ですが、冒険者の方々は直接見ています。彼らは簡単に国を移動できます」
「冒険者たちが語ることができるのは、精々が『腕のいい魔法師がいる』ってところまでだ。詳細を知ってる奴は、ほいほい吹聴して回る奴らじゃねぇよ」
「…わかりました」
「まあ、落ち着いたら一度リーデンベルグの魔法研究所には連れていきたいんだがな。そんときは快く許可を出してもらいたいもんだ」
「ええ。それはもちろん」

 統括とクリストフの間で話もついているのだろうし。
 私ができるのはその遠征申請に速やかに許可を出すことくらいだ。

 私が統括と話し込んでる間にも、魔物の処理が進んでいく。
 今回は素材を取り出すほどの余裕もある。

「……それにしても」
「なんだ」
「これだけの魔物が王都に入り込んでいたらと思うと……、この光景が奇跡そのものなのだとよくわかります」
「違いない。他国には内密にしたとしても、お前さん方はあの坊主をしっかり労え。これはこの国の歴史に残る偉業だ」
「ええ」

 魔物の処理が終わると、死骸は出来るだけ同じ場所に集められた。

「店主、準備できました」

 声をかけてきたのは、神官の少年の傍によく居る銀髪の青年だ。

「おう。じゃあ、さっさと終わらせるぞ」

 統括は私から離れ、魔物の死骸の山に歩み寄った。
 呼びに来た銀髪の青年と、他の冒険者も数人、それからクリストフのところの団員が一人、山を囲むように立った。

「少し深めに。エアハルトは最後の蓋もしろよ」
「心得ております。レヴィ殿」
「各々魔力量に注意しろ。……行くぞ!」

 統括の掛け声で一斉に高まる魔力。
 それと同時に、魔物の死骸はその真下に出来た穴にそのまま吸い込まれるように落ちていった。
 ……圧巻、というか。
 その光景に言葉をなくす。

「埋めます」

 平然と言い放ったエアハルト・カーラーは、その大穴を一瞬で土で埋めた。
 あとに残ったのは、戦闘があったと思われる踏み荒らされた地面と、魔物の体液だけ。

『女神さまの理から外れた穢を祓い、お清めください。この地に女神さまの慈悲が届きますように――――』

 神官の祈りの声のあと、浄化の光が降り注ぎ、荒れて穢れた地面は小さな芽を息吹かせる。
 ――――そして訪れるのは平穏そのもの。

 統括に、冒険者への報酬は後日届けると伝え、全騎士団員には帰城の命を出した。クリストフの団員たちは団長に任せておけば問題ないだろう。
 私は一人神殿に立ち寄り、全て終わったことを知らせた。
 住人たちには怪我の一つもなく、本当に魔物の襲撃などあったのか疑う者もいたくらいだ。
 神官の中にはこの奇跡を涙しながら喜ぶ者もいた。

 城に戻りながら、陛下にはどう報告しようかと考える。
 アキラが使う魔法についても、クリストフと一度しっかり話し合わなければならない。
 ならば、先に三人で内密に話し合うのがいいだろう。
 他の者たちに知られてもいい内容のみ、公の場で明らかにさせればいい。

「……まあ……、アキラはアキラだから」

 褒賞を、と言っても何も欲しがらないだろう。勲章はもっと拒否されそうだ。

「甘い菓子の方が喜びそうだけど」

 口に出すと本当にそんな気がしてきた。
 思わず笑ってしまう。



 ――――でもまずは、ティーナに会いに行こう。
 奇跡が起きたと伝えたら、どんな顔をするのかな。



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