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if番外編:異世界におけるチョコのトリセツ(全6話)
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しおりを挟む昼食用のバゲットサンドを乗せたワゴンの下の段に、ハンカチをかけたチョコ籠たち。
倒さないように注意しながらワゴンを押して執務室に向かった。
ちゃんとノックしてから入ったよ。今日は。
執務室にはいつもの顔ぶれでちょっとホッとする。
「クリス、お昼にしよ」
「アキ」
俺を見た瞬間のクリスの笑顔、好きすぎる。
サンドを盛ったお皿をソファの前のテーブルに置く。
リアさんは簡易キッチンでお茶の準備を始めた。
「アキおいで」
「ん」
ソファに移動してきたクリスに呼ばれて抱きつくと、そのまま膝の上に座らされた。
クリスは俺の頭にキスをすると、くすっと笑う。
「甘い匂いがする」
「え」
切っただけなんだけどな。意外と匂いが強いのかな。
自分でも袖とか嗅いでみたけど、まあわからない。そんなもんだな。うん。
みんなでまったり昼食を摂った。作るの俺も手伝ったーって話したら、クリスが滅茶苦茶喜んでくれて、キスもくれたし、たくさん食べてくれた。
でも、何個目かわからないサンドを手に取ったとき、はたっとチョコのことを思い出してストップをかけた。
「アキ?」
それ以上食べたらチョコ入らなくなるし。
「えっとさ」
「ん?」
「……俺たちがいた世界の方に」
「ああ」
「バレンタインってイベントがあってさ」
「イベント…祭りみたいなものだったか」
「うん。まぁ、そう。それで、その日は好きな人や大切な人とか、友達とか仲間とかに、贈り物したりするんだ」
「ふうん?」
「んで、あっちとこっちで微妙に時間の流れは違うのわかってるんだけど、それが今日なんだよね。それで…」
「それで?」
クリスの膝から降りて、ワゴンの下から色々取り出した。
「これ、隊員みんなで食べてもらおうと思って」
「いいんですか?」
「うん」
オットーさんにとりあえずみんな用のカップケーキの山を渡した。
そしたら、クリスの方から不穏な気配が漂ってくる。
「クリス?」
「アキの手作り?」
「んーん。これは料理長さんに作ってもらったやつ。たくさんあったほうがいいかなと思って」
「そうか」
…不穏な気配が消えた。わかりやすっ。
「……で、これは、俺が作ったやつ。リアさんに教えてもらいながら作ったから、多分食べれる味になってると思うよ。オットーさんとザイルさんに」
「え」
驚いた二人に、紙袋を渡した。
またイラっとした気配がしたけど、最後に手に持ってたハンカチをかけた籠を持って、クリスのところに戻った。
「それで、これはクリスに」
「中を見てもいい?」
「もちろん!」
籠を持ったまま、機嫌の良くなったクリスの膝の上に座った。
クリスはハンカチを少し持ち上げて中を見たかと思えば、驚いた顔をしてハンカチを戻してしまった。
「アキ、これは」
「うん。チョコレート。バレンタインの贈り物といえば、チョコレートが定番でさ。厨房にたまたまあったから、それ使わせてもらった。……あ、でも、すごく貴重なものだったんだよね…?ごめんね。たくさん使っちゃったよ」
「……チョ、コ……?」
紙袋を持ったまま、ザイルさんが固まった。
「いい匂いですね」
オットーさんは紙袋を開けて中を見て、そんな感想。それほど驚いてない。
「いや、えと、オットー、それ、私が預かるから」
「え?いや、ザイルも同じものを貰ったでしょう?」
「いや……そうじゃなくて……」
ザイルさんの慌てようがすごい。
なんだろう。
「……アキの世界ではこれを恋人や伴侶に贈るのか?」
「うん。あと、チョコを渡しながら、告白したりとか」
「ほう……」
クリスがリアさんの方を見た。
「セシリア」
「アキラさんの仰っていることは本当ですよ?殿下。私達の世界では、チョコレートは一般的にすぐ手に入る嗜好品でしたから」
「……随分積極的な文化なんだな……」
ニコニコ笑うリアさん。
若干頭を抱えてそうなクリス。
狼狽えるザイルさん。
いつもと変わらないオットーさん。
うーん……?
「……駄目……だった?」
少し悲しくなっていたら、クリスの手が俺の頭を撫でた。
「いや。嬉しいよ。とても」
微笑んで、額にキスが降りてくる。
よかった。
「セシリア――――」
「はい。準備しておきます」
リアさんは特に指示されたわけでもないのに、お仕着せのスカートの裾をゆったりと持ち上げ膝を軽く折り礼を取ると、執務室を出ていった。
「リアさん?」
「気にするな。…一緒に食べようか、アキ」
「うん」
「え゛」
呆然とした声は、ザイルさんから。
さっきからザイルさんがおかしいんだけど。チョコレート、嫌いだったかなぁ。
「あ、そんなに苦くはしてないですよ?お酒とかも入ってるし、木の実とか果物も」
「あ、いえ」
クリスは笑いながらハンカチを取って、木の実も果物も入ってない、恐らくお酒を入れた欠片を手に取った。
それを楽しそうに口に入れる。
「殿下…っ」
「ああ、美味いな。好みの甘さだ」
「よかった」
指先もぺろりと舐めて、オットーさんに視線を流す。
「まあ、オットーとザイルなら構わないだろ。オットー、食べたことないだろ?」
「ええ。初めて見るものですけど」
「美味いぞ?」
「そうですか。では、折角ですしいただきますね、アキラさん」
「え゛゛」
「はい、どうぞ!」
オットーさんは紙袋のなかから、木の実入のを摘んで、口に入れた。
カリって音が聞こえてくる。
「あ゛っ」
「……確かに美味しいですね。口ですぐ溶けてしまう」
ソファでテーブルを挟んで向かい合って座って、クリスは二枚目のチョコレートを口に入れて、木の実だったらしく、カリカリ音を立ててた。
ザイルさんは顔を真っ赤にしたままオットーさんを見てるだけで、袋を開けることもしていない。
「アキ、口を開けて」
「ん、ぁ」
口の中にチョコレートが入ってくる。甘くて、苦くて、果物の酸味がある。確かに口溶けがいい。チョコレートの部分はすぐに溶け出した。
「うん、美味しく出来てる!」
「ああ」
オットーさんも美味しそうに二枚目を食べてて。
ザイルさんだけが、頭を抱えて項垂れていた。
*****
あと一話か二話で終わります……。やっぱり予定は未定でした……。
明日は仕事なので、朝は更新できないかもです。
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