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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
71 前夜に
しおりを挟むいつものようにどろどろに甘やかされる夜ではなくて、穏やかに気持ちよさを与えられる夜だった。
緊張をほぐすような甘いキスと、激しくはない触れ合い。
高められて、促されるままに吐精して、脱力して眠りの中に……とは、いかなかったけど。
魔導具で少し濡れた体を綺麗にされて、寝間着代わりのクリス服も直された。
俺の隣に横たわって、俺を抱き寄せるクリスは、いつも上半身は裸。下だけ、手触りのさらりとしたズボンを穿いている。
すぐ目の前の素肌に少しドキドキはするけれど、心音も温もりもすぐ近くで感じることができて落ち着く。
いつもなら、ここで爆睡。
風呂場でも、ベッドに入ってからも、何度もイかされて、意識が朦朧としてしまうから。
けど今日は、風呂場でのいつもの慣らしはしなかったし、吐精も一回だけ。体は程よい疲労感に満たされてるから、回数が少なくても眠れそうなのに、今夜に限っては中々眠りが来ない。
「眠れない?」
「ん…」
もぞもぞする俺に気づいたのか、クリスが右手で俺の背中を撫でて、幼子にするように『ポンポン』って軽く叩いてきた。
昼間、二人でたくさん話した。
出会ったときのこと。
魔法を使ったときのこと。
魔物に襲われたときのこと。
離れていたときのこと。
俺のこと。
クリスのこと。
「眠らせようか?」
「……強制的に眠らされるのは、なんかちょっとやだ」
確実にクリスの眠り魔法(だと、俺は思ってる)使う宣言だよね。
普段ならいいんだけど……、なんか……なんとなく、今夜は、いやだな、て思う。
「多分、だんだん眠くなると思う…」
「そうか?」
やっぱり緊張してるのかな。
クリスの手と体温と鼓動が心地良い。
昨日、あんなにドキドキした原因の匂いは、今は俺の気分を落ち着けるような匂いに思えるし。
「クリス…」
「ん?」
「……もし俺がこっちに来なかったら、この場所には他の誰かがいたのかな」
仮に、運命みたいなものがあったとして、俺が来ることで、その『誰か』の運命を捻じ曲げてしまっていたのなら。
……あの人が、ここにおさまることは、全然想像つかないし、想像したくもない。
けど、あの人じゃなくて。もしかしたら、クリスが選んだ人が、いたかもしれなくて。
「……誰かに何か言われたのか?」
「そういうわけじゃないよ」
少し低くなったクリスの声音。
慌てて顔を上げて、否定した。
「貴族の誰かに、不快なことを言われたわけでもないのか?」
「うん。違う。言われてない。というか、俺が単独で貴族の人と会うの、帰ってきてから多分なかったし」
噂も聞かない。
多分、死んだはずの俺が現れたことで、何かしらの悶着はあったはずなのに。
俺には何も聞かされてない。
もしかしたら、隠されてるのかもしれない。俺の耳に入らないように、クリスが根回ししてるのかもしれない。
俺が会うのはごく限られた人ばかり。
たまに廊下ですれ違う貴族の人たちも、深々と頭を下げるだけで、俺に対して何かを言ってくることはない。
「クリスが心配するようなこと、なにもないよ」
大丈夫…って意味も込めて、唇を軽く触れ合わせる。
「ならいいが…」
「ちょっとね、考えすぎただけ。俺がこっちに来たのは偶々だからさ。本当なら、誰か別な人がいたのかもしれないと思って」
今度はクリスが俺の額にキスをくれた。
「……仮定の話だが」
「うん」
「アキがいなかった場合、恐らく貴族の令嬢と婚姻していた」
「……うん」
「けどな、こんなことはしなかったと思う」
「へ?」
「肉欲を感じない。口付けたいとも思わない。言ったことなかったか?閨指導以外で女性も男性も抱いたことはないと」
「あー………聞いた………ような?」
いつ頃だったかはっきり覚えてないけど、そんな話は聞いた気がする。半信半疑だったけど。
うーむ…と考え込んでいたら、体を引かれてあれよあれよという間にクリスの体の下に引き込まれた。
「クリス」
しっかり重なる唇。
すぐにノックされて薄く開いたら、熱い舌が遠慮なく入り込んでくる。
大きな背中に両腕を回す。
足を開くように手で促されて、大人しく従った。
重なる体。
クリスが少し腰を揺らめかすだけで、キスの気持ちよさと相まって、俺のが芯を持ち始める。……それはクリスも一緒で。俺のにあたるクリスの雄も、少しずつ固くなっていくのがわかる。
「は……ぁ、ぁ」
唇が離れて、耳元でくすって聞こえた。
「お前が相手ならこんなに些細な刺激だけで勃つのにな」
「ん……んっ!」
「他の誰に対しても、抱きたいとも、口付けたいとも、触れたいとも思わない。全部、お前だけだ、アキ」
「おれ、だけ」
「そう。だから、お前と出会わなければ、俺は人を愛する想いを知らないままだっただろうな。俺は半身を得られないまま、妻となった女性も愛さず、ただただ、国のためにこの命を使っていたはずだ」
俺を見下ろすクリスの瞳が優しい。
微笑んで、ゆっくり、俺の頬を何度も撫でる。
「お前がこの世界に来たのは偶々なんかじゃない。必然だったんだよ。俺の伴侶になるために、半身として俺を支えるために、俺に出会うために、アキはこの世界に……俺の所に来る運命だったんだ」
「クリス」
「愛してる。この世界に来てくれてありがとう。大切な家族の手を離してまで俺を選んでくれてありがとう。……生きていてくれて、ありがとう」
ぽたりと、落ちてくる雫。
俺の目からも涙が溢れて、クリスの涙と混ざり合う。
「クリス」
「愛してる。愛してるよ、アキ」
「……っ」
堪らず、自分からクリスに口付けてた。
「……っ、女神様も、言ってた……っ」
「なにを?」
「あの日、クリスに助けられたことは、必然だった、って……!」
「女神様が」
「俺、クリスと出会うことが必然だったって聞いて、嬉しかった。今、クリスからも必然って言ってもらえて、もっと嬉しかった…!」
「アキ」
「大好き、クリス」
もう一度、ちゅ…ちゅ…って音を立てながら、キスをする。
瞬きをしたら睫毛が触れ合いそうな距離で、二人して笑った。
「クリスが泣くから俺も釣られた」
「……婚姻式を前に感傷的になってたんだな。……気づかなかったよ」
「クリスが……」
きっかけは俺の発言かもしれないけど。
クリスも感傷的になること、あるんだ。
……やっぱり、可愛い。
「クリス」
ぐい…っとクリスを引っ張った。抵抗することなく、クリスは俺の腕の中に横向きに収まった。丁度、俺の胸元あたりにクリスの頭があって、抱きしめるのに丁度いい。
「アキ」
「苦しい?」
「いや……なんか落ち着くな」
「うん」
いつもと逆。
体格的に、この位置でクリスが俺の体に腕を回すと、とても微妙な位置になるけど、それはあえて考えない。
「……心音が早い」
「仕方ないでしょ…っ」
「心地良い。アキの匂いだ」
くすりと笑ったクリスが目を閉じた。
「明日、楽しみだね」
「そうだな」
「今夜はこのまま寝よ?」
「ああ」
「おやすみ、クリス」
「おやすみ、アキ」
少し、くすぐったいと思いながら。
クリスの頭を抱きしめたまま、俺も、目を閉じた。
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