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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
87 婚姻式⑨ ◆*****
しおりを挟む礼拝堂に入ったとき、前回の王太子殿下の婚姻式とは様相が全く異なり戸惑った。むしろ、どの婚姻式でも見たことがない。
祭壇に続く通路を挟むように設置された、何列もの長椅子。神官に促されるままに後方の椅子に腰掛けた。
ざっと周囲を見渡すと、貴族の中でも比較的穏やかな顔ぶれだ。……いや、違うな。私が記憶している限り、今ここにいる貴族たちは、異国からいらしたらしいご婚約者殿に対して悪評を広めなかった者たちばかりだ。
盗み聞きをしているわけではないが、耳に入ってくる会話の中には、以前聞いた誹謗中傷は全く含まれず、むしろ好意的な内容ばかり。
王太子殿下の婚姻式の日に、ご婚約者殿を嘲笑っていた者たちの姿は一切見ない。社交の場としての側面を持ちながら年若い者たちは呼ばれていない。どの家も当主と、その伴侶が同席しているかどうかくらい。
……徹底していることに感嘆すると同時に、第二王子殿下はいくつの耳を持っているのか驚愕を覚える。
王太子殿下の婚姻式でのあの一時で、全ての情報を拾い上げたというのか。
もしそうだとするなら、それは酷く恐ろしいことだ。彼は一体どれだけの力を有しているというのか。彼の実力は王太子殿下をも上回るのではないか――――そんな思考が浮かんできたが、すぐにかき消した。
彼が王太子殿下に忠誠を誓っていることは事実であり、そして彼が国の剣として脅威を排除しているのも事実だ。だから彼が王位を望むことがないことは明らかなのだから。
一人、そんな思考に耽っていたが、陛下と王太子殿下方が礼拝堂に入ってきたときに意識はそちらに向いた。
何よりも視線を集めたのは、王太子殿下に手を取られ、ゆったりと歩く王太子妃フロレンティーナ様。その傍らに、貴族のご令嬢と思わしき少女が一人。その腕の中に白い物。
ああ…ぬいぐるみか…と思ったが、尻尾が揺れていて唖然とする。
何故婚姻式に動物が?
何故王族と共に令嬢が?
どの貴族も令息令嬢は連れていない。その許可がなかったから。
そんな中で現れた令嬢。
一体どこの…と考えていたが、「エーデル領の――――」との声が聞こえてきた。
あの領は保養地として貴族の間ではそれなりに知名度がある。エーデル伯爵にそこまでの手腕があったのかと感心してしまう。
確か彼には娘がいたはずだから、彼女がそのご令嬢ということだろうか。それにしては父親である伯爵らしき人物は姿が見えないが…。
何故だ。
王太子殿下の婚姻式のときよりも考えることが多すぎる。
気分が悪くなるような話が聞こえてこないのが救いだろうか。
鐘の音と共に始まった婚姻式。
最初から第二王子殿下の溺愛ぶりが発揮されていた。王族の婚姻式としてはかなり型破りで自由すぎるが、二人の様子を見ていると些細なことだと感じる。
突然行われた神官でもある殿下の高位神官への昇格式。僅かな人数しかいない高位神官の一人になるという驚きと、普段目にしない神殿の儀式への興味から、食い入るように見てしまった。
そしてまた、私達は奇跡の光景を目の当たりにする。
『お前たちに女神の祝福を』
少年神官がそう言葉を発したとき、その手からこぼれ落ちた光の粒が集まり、鳥の形を取り始めた。
光でできたその鳥は、礼拝堂の中を飛び回り、やがて第二王子殿下方の頭上を旋回し始めた。
前代未聞の出来事。
貴族たちからも驚きのざわめきが上がる。もちろん、私も例に漏れずに。
光の鳥が落とす光の粒に触れると、体の内側から暖かなものがこみ上げてくる。温かく優しい光。
それは第二王子殿下方だけを祝福するものではなく、私達をも祝福しているようだった。
驚きのあとには涙する者や、一心不乱に祈りを捧げている者もいる。
『心からの祝福を』
にこりと微笑んだ少年神官が最後の言葉を口にしたとき、光の鳥はその姿を消した。
神殿長から式の終わりを告げられ、ご婚約者殿を当然のように抱き上げた殿下が、ひどく嬉しそうな笑みを隠しもせずに、長椅子の間をゆったりと歩いていく。
改めてご婚約者殿のお顔を見る結果となったが、うっすら染まった目元が艶めかしく、黒い瞳は扇情的に濡れていた。
その瞳は常に殿下をむき、殿下もまた慈しみを込めた瞳でご婚約者殿――――今はもう伴侶殿だな――――を、見つめ返している。
甘やかな雰囲気。
互いに思い合っている様子がよくわかる。
誰からともなく拍手が巻き起こる。
礼拝堂を去る殿下方を、私達の拍手で送り出す。静かに見守るのが当然の婚姻式で、誰も疑問に持たずに鳴らされる拍手。
それは殿下方の姿が扉の向こうに消えるまで続いた。
私達も礼拝堂を出なければならないというのに、誰もがぐったりと椅子に体を預けている。……いや、余韻に浸っているのか。
気づいたら王族の方々は退室していた。
徐々に貴族たちも腰を上げ始める。
素晴らしい式だった。
出席できた貴族たちは、それを他者に自慢することもないだろう。とてもよい式だったと家族には語るだろうが、この素晴らしさを表現しきれるとは思えない。
この場にいた者たちだけが共有しうる喜び。
あまりにも神々しく、奇跡に溢れた婚姻式。
胸の内に燻り続ける優しい光を自覚しながら礼拝堂を出て神殿から出た私達には、何度目かわからない驚きが待っていた。
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