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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
93 夜会④ ◆クリストフ
しおりを挟む一歩踏み出してから、アキの瞳は俺を捉えたままだ。足元を気にする様子もない。
動きに合わせてレースが揺れる。僅かに起きる風に靡く髪から、甘い匂いがただよう。
「アキ」
「ん」
「綺麗だよ」
「…ん」
アキに俺のことだけを思ってほしくて、頬に口付け、飾りをつけていない左耳を舐め、甘噛みした。
途端上がる甘やかな吐息。
ステップを踏んでいたアキの足が僅かにズレたとき、腰を抱く手に力を込めて、更に体を密着させる。
そうすれば、互いの昂りが触れ合う。
アキは顔を真っ赤にしながら、ゴクリと喉を鳴らした。
「くりす」
快感を拾っているであろうアキの声は甘く、辿々しい。
「終わろうか」
「っ、んっ」
欲情した声。
それは俺も同じ。……いや、アキ以上に。
欲しい。
今すぐに、抱きたい。
曲が終わる。
間際にもう一度耳を食む。
少し足元のふらつくアキの腰をしっかと支えながら、曲が終わるのと同時に僅かに体を離し、終わりの挨拶をした。
すぐに鳴らされる拍手の音。
アキが上気したままの顔をあげる直前、腕を引き、抱き上げた。
「くりす?」
退室の挨拶もせず広間をあとにした。
扉を守っていた兵士は驚いたように俺たちを見たが、何も言わず送り出してくれた。
部屋までが遠く感じる。
俺を呼ぼうとしたアキの口を塞ぐ。
閑散とした廊下。
所々に兵士は立っているが、気にはならない。
「ん……ん……っ」
鼻にかかる吐息。
舌を絡める湿った音。
少し冷たく感じる夜の空気。
耐えられない…と言うように、アキの腕も俺の首に回ってきた。
互いの中心は昂ぶったままだ。
「アキ……愛してる」
「ん……すき、好き……っ」
誰もいない自室の扉を開ける。
早足で寝室に向かい、ベッドの上に手荒にならないようにアキを降ろした。
「クリス……っ」
伸し掛かり、腰を押し付ける。
昂りが擦り合う度にアキの体は震え、俺の欲が高まる。
深い口付けでアキの吐息を奪う。
上顎を何度も舌で舐めれば、アキの体は俺の下で面白いくらいに跳ねた。
このまま貪りたい。
アキの喉が鳴る。溜まった唾液を飲み込んだのだろう。吐息の熱が増した。
まだ駄目だと思いながらも、アキの欲情を示す場所を撫でる。
「は……ぁ、っ」
撫でただけで体が震えた。
これだけでイってしまいそうだな。
「くりす……くりす」
アキが腰をすりつけてくる。
その仕草に理性が飛びそうになるのをなんとか堪え、軽い口付けを落とし頬をなでた。
情欲に濡れた瞳から視線を外し、一度息をついてからベッドを降りた。
ここでしてもいい。
けれどやはり、決めたとおりに…と、クローゼットの中から用意しておいた柔らかなマントを取り出し、不思議そうにベッドの上に座り込んだアキの頭から被せた。
「行こうか」
「へ?」
状況がわかっていないアキを抱き上げる。
部屋を出ても付き従う者はいない。
そのまま城を出れば、大人しく待っていたヴェルが頭を上げて俺たちを見た。
「どこ行くの?」
「二人きりになれる場所だ」
「……?」
熱に浮かされたままの表情で、アキは俺を見る。
ヴェルは慣れたもので、上体を低くする。
アキを抱いたままそのヴェルに乗り、横向きでアキの体を固定した。
「ゆっくりでいい」
ヴェルの首筋を撫でれば、わかったというように首を振った。
そして穏やかに早足程度で進み出すヴェル。
「寒くないか?」
「ん…大丈夫」
夜会服のまま出てきてしまったが、着替えくらい終わらせればよかっただろうか。
……いや、駄目だな。
着替えでアキの素肌を見てしまえば、もう止まることはできないだろうから。
明かりの用意はしなかったが、月明かりで移動には全く問題はなかった。
アキの様子もよくわかるくらいには明るい。
「月…綺麗」
「そうだな」
森が見えてからは、少し早くヴェルを走らせる。
アキは片手を俺の背に回し、時折辺りを見ていた。
王城から北側にある森。
一度大型魔物が現れ討伐を行ったが、周囲の塀に問題はなく、それ以来魔物出現の報告もない。
「……あ」
「どうした?」
何かに気づいたのか、アキは首を傾げる。
「ここ……、前に来たことある?」
「ああ」
昼間に見るのと夜に見るのとでは、印象はかなり変わる。それに、アキが通ったのは城への帰り道だから、すぐには気づかなくて当然だ。
あのときはかなり驚いたが…、それだけ俺のことを想っているのだとわかり嬉しくもあった。
「……なんで笑うの」
口元に笑みが浮かんでいたらしい。
アキは少し唇を尖らせ、不満な顔を見せた。
「いや。アキが可愛らしくて」
「……全然話が見えないんだけど」
「迎えに来てくれたたろ?」
「迎え?」
「そう。いきなり、転移で」
「……あ」
思い出したのか、辺りをまた見回し、納得した様に頷いた。
「そっか。だから見覚えがあったんだ…」
「夜だと雰囲気も変わるからな」
「うん」
木々に囲まれた、比較的広い道。
ここを抜ければ目的地だ。
誰にも邪魔されることのない、アキと二人で過ごす場所。
月明かりの中、木々が途切れ、屋敷の明かりが見えてきた。
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