553 / 560
閑話 ⑤
ああ……尊い……!!③ ◆セシリア
しおりを挟む妄想までしていたのに、結局お二人の露天風呂シーンを見ることは叶わなかった。
確かに何時でもいい…と伝えたのは私だけど、まさかの夜中に入浴されるなんて。
お二人が露天風呂に入ったら私にそれが伝わるように侍女の手配をしていたというのに、露天風呂近くに配置した侍女の交代の隙をつかれた上に、「入浴中」という伝言は、私が熟睡していたが故に伝えられなかった。
そうね。熟睡してる令嬢を起こしてまで伝えることではないものね。侍女たちは私の目的に気づいてないだろうし。
溜息を隠しながら、少し早めの朝食をとる。
移動中は乗馬が楽になる女性用のトラウザーズを着用する。
まだ少し寝ぼけているミナに行ってきますのキスをして、大きなトランク三つを運んでもらいながら、お二人の部屋を訪れた。
「はい」
返事とともに開けられるドア。
開けてくれたのはやはりザイル様。
私と、荷物を見て、貴族らしい笑みをみせてくれる。
「外套も羽織ってくださいね、セシリア様。では向かいましょう」
「はい」
そうして、オットー様も部屋から出てくる。
「荷物はこれで全てですか?」
「はい」
こんな大きなトランクは馬には乗せられない。
どうするのだろう…と思っていたら、ザイル様が腰からポーチを外して口を開けた。オットー様はトランクを一つ軽々と持ち上げて、角をポーチの口に触れさせた――――途端。
「え」
荷物が、消えた。
これには荷物運びをしてくれた侍従たちも唖然としてしまったけど、もうそれは仕方がないことね。私でさえ驚いたのだから。
でもすぐに、これがマジックバッグになってることに思い至り、こんな非常識なことをするのはアキラさんだけということにも気づいてつい笑ってしまった。
私の小さな手荷物も含めて、全てその小さなポーチの中に納まってしまい、またザイル様の腰に巻かれた。
「では行きましょう」
何事もなかったかのように、オットー様が促す。
侍従たちには下がってもらった。
「便利ですね」
「ええ。本当にそう思います。天幕も入ってますよ」
「まあ」
売ったら一生食べていけるだけの額にはなるはず。
きっとそんなことなにも考えずに、「いいよ」の一言で作ってしまうんだろうな…アキラさんは。
「予想外のことばかりなので」
「そうですね」
「……お戻りになったときも、魔物に襲われていて」
「魔物に…」
「酷いですよね。殿下もオットーも、私には一言も教えてくれないんですから。二人はお戻りになることを知っていたのに」
少し拗ねたような口調に、ちらりとオットー様がザイル様を見た。
その目はあれですね。「悪かった」みたいな。きっと、ザイル様に言えなかったしっかりとした理由があったとは思いますけど。でもそれも聞いた上での愚痴だと思っておきますね。
外に出るとお父様が待ち構えていた。
オットー様は軽く会釈だけして、すぐに厩舎に向かってしまう。
「ご挨拶もせず申し訳ありません。ご令嬢は必ずお守り致しますので、ご安心ください」
ザイル様はきっちりと貴族の礼をした。
お父様もすぐに礼を返して、私は少し安堵する。
「娘をよろしくお願い致します」
「はい」
今回は余計な波風を立てずにすみそうね。よかった。
私はザイル様の愛馬に乗せられた。
鞍の痛みは我慢するしかないと思っていたけれど、予想に反して私が座る位置には弾力のあるクッションが置かれていた。
ザイル様から、アキラさんが乗馬するときにも使っている物と聞かされて、とても納得してしまった。
私は横向きに、ザイル様の前に座る。申し訳ないと思いつつ、安定させるために体重をザイル様にほとんど預ける形になる上に、腕にしがみつくという姿勢になってしまう。
これは仕方ないと思うの。
いくらオットー様が短く舌打ちしたとしても、落馬しては元も子もないのだから。
この世界、女性が乗馬することはほとんどない。
女性騎士は本当に僅かしかいない。
だから、いつもと違う景色を楽しみにしていたのに、そんな期待は早々に打ち砕かれた。
多分、これは、乗馬じゃない。少なくても、私が想像していたような乗馬じゃない。
もうこれは、ジェットコースターだわ。メリーゴーランドの馬に乗って、上下に揺らされながらジェットコースターのコースをめぐる感じ。
当然、景色を見ている余裕はなく。
耳が痛い。
風が冷たい。
息が苦しい。
うわぁ、まじか、死ぬ、これは死ぬ…!!
って心の中で叫んでいたら、頭からマントをかけられて、裂けるような風の音と耳鳴りが止んで、呼吸も楽になった。
「すみません」
一言だけ断って、ザイル様の腕が私の肩を抱く。
それに促されて私も背中にしがみついた。
……なんて優しいんだろう。走り方は全然優しくないけれど。
死にそうになっていたのに、あっさりと復活した。そこら辺の令嬢なら即オチした気がする。
けど、びしばしと視線を感じるのよ。とてもとても、刺すような視線をね……!!こんな殺されるような視線を受けながら恋に落ちるような気分にはなれないわ。
*****
すみません、あと一話…≻≺
84
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる