魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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マシロが養女(仮)になりました

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「あーね、まーろね、みーがね、ばーで、きゃあになった」
「あら?」
「んもね、こって、してるの、んーまいの」
「あらあら」

 メリダさんの膝の上で片手に葡萄を握りしめて、顔を赤くしながら身振り手振りで話すマシロ。多分あれは魚のことかな。

「……ゼバルト伯爵領に出向いたときに、漁師たちから魚料理を振る舞われたんだ。マシロはそれが気に入っていた。……あと、海でアキと遊んでいたときに波にさらわれそうになってから、以前より水が怖くなったらしい」

 と、いつもどおり俺を膝の上に座らせてるクリスが、マシロの通訳をしていた。

「あらあら。それで前より水を怖がってるのね。でも、アキラさんも坊っちゃんもいたんですから、助けてくれたでしょう?」
「う!あーきね、まーろね、っこした!」
「それはよかったわね。でも、まずはその手の中の果物を食べちゃいましょうね?」
「ぁい」

 こくこく頷いて、握りつぶしそうになってた葡萄を口の中に入れ始めたマシロ。
 俺は俺で、クリスが口元にスプーンやフォークを運んでくれるから、口を開けたり閉じたり。
 そんな俺とマシロを見比べて、クリスが笑いを堪えていること、俺わかってるんだからね!




 朝食を終えて、メリダさんが淹れてくれた紅茶をまったりと飲んでいた。
 今までかまってくれていたメリダさんが仕事でいなくなってから、マシロは俺の足の上に座って、頬をなでたりペタペタ触ったりしてくる。

「あーき」
「ん?」
「んふ」

 ピタリと抱きついて、ご機嫌に尻尾が揺れる。
 俺の膝の上ということは、必然的にクリスの膝の上でもあるんだけど、溜息を付きながらもマシロを除けようとしないあたり、許したのか諦めたのか。

「あーき」
「マシロ、『アキ』だ」

 クリスが訂正すると、マシロは眉間にシワを寄せた変な顔をクリスに向ける。……写真撮りたい。可愛い……。

「あーき!」
「『アキ』」

 むむむ…と、マシロの口元が山型になってきた。

「ぁぃ」
「ア、キ」
「ぁ、き」
「アキ」
「あ、き……あき!」
「マシロ、よくできました!」
「きゃあ!」

 間延びした音からはっきりと「あき」って呼んでくれて、嬉しくて思わずぎゅっと抱きしめた。
 いい子だ。可愛い。賢い!

「まーろね」
「『マシロ』」
「うー……」

 すかさずクリスからの訂正が入る。

「マシロ、だ。アキが付けた名なんだから、勝手に変えるな。それとも、アキが付けた名が嫌なのか?」
「ううう!!」

 首が取れそうな勢いでマシロが首を横に振った。

「あき、しゅき」
「だろ?なら、貰った名は大事にしろ」
「ぁい!」
「じゃあ、ほら、『マシロ』だ」
「まー、ろ」
「変わってない。『マシロ』」
「ま、ぃろ」
「シ、だ。シ」
「ぃ、…すぃ、……し、し!」
「『マシロ』」
「まぁ、しろ、ま、しろ、ましろ、…ましろ!」
「そうだな」
「ましろね、あき、しゅき!」

 んふー!っと鼻息荒く更にぐりぐりとマシロが抱きついてきた。

「じゃあ、クリスのことも呼ぼう?」
「ぅ、りす」
「クリス、だよ。ク、リス」
「ぅーりす!」
「マシロ、クリスだよ。ク、リ、ス」
「ぅ、りーす!」
「クリス!」
「ぅぃす!」
「それじゃ変な挨拶になってるよ……」

 その後何度やってもクリスのことは『ぅーりす』のままだった。クリス自身は気にも留めてないようで、何もいってこない。

「ましろね、ぅーりす、ぃーらいの!」
「でも俺の大好きな人だから」
「あき、しゅき?」

 クリスのことを指さしながら。

「うん。だから、マシロにも好きになってほしいな、て」

 マシロの口元がまた不機嫌な山型になっていく。

「……あき、ましろ、ぃーらい?」
「なんで?マシロのことも大好きだよ」

 改めてぎゅっと抱きしめると、マシロはようやく安心したみたいで、ほぅ…ってため息がこぼれてた。

「クリスもマシロも大好き。俺が大好きな二人だから、マシロにもクリスのこと少しだけでも好きになってほしいなァ…?」
「うう……」

 マシロが俺の胸元から顔を上げてクリスを見上げた。口はさらにむむむと尖ってて、心底『嫌です』って顔で、

「……ぅ、りす、……しゅこし、しゅき」

 って言った。

「アキに似た顔でそんな嫌そうな顔をするな」

 苦笑したクリスが俺の頭とマシロの頭を同時に撫でた。
 クリスのことが嫌いと言ってるマシロだけど、頭を撫でられると嬉しそうに尻尾が揺れてるのを俺は知ってる。子猫姿でも、幼児姿でも、それは変わらない。
 ふふ…って笑ったら、額にキスを落とされた。

「アキ」

 顎を取られて上向かされて、微笑んだクリスの顔が近づいて、キスだ、嬉しい…って思いながら唇同士が触れ合う瞬間、小さな手が俺の頬を挟んで顔を動かされた。

「ま」
「あき、ちゅぅ!」

 小さな口がまたしても俺にくっついた。

「……いい加減にしろ」

 そんなマシロをクリスが片手で俺から引き離して。

「やぁーの!」

 じたばたするマシロを小脇に抱えたクリスが、改めて俺にキスをした。










*****
少しは歩み寄った……?
クリスが絆されつつあるのかな……。
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