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 それから数か月が経った。
 喋れるはずの桜井さんとも、竜崎さんとも話ができずに数か月経った。

「あっ、来た」

 俺は手紙を書いて、竜崎さんに体育館裏に来てもらうようにお願いした。
 そして、かつて竜崎さんが座っていたので立ち上がり、彼女が出迎えてくれたように俺も彼女を出迎えた。

「えーっと・・・・・・」

『手話を学びました』

 俺はゆっくりと、間違えないように手話では話した。

『僕は、竜崎さんのことが、好きです』

 そう話すと、竜崎さんがびっくりした顔で、口を両手で抑えた。そして、気持ちの整理をした竜崎さんは今度は手を胸に当てて、瞼を閉じて息を吐き、ゆっくりと目を開けて、真っすぐした瞳で俺を見て、

「わたし・・・・・・も、タツヤ・・・・・・くん・・・・・・の・・・・・・ことが・・・・・・すき・・・・・・です」

 と言ってくれた。
 綺麗な顔に似合わないかすれた変な声でびっくりしたけれど、その言葉はとっても嬉しかった。
 だから、思わず俺は竜崎さんを抱きしめていた。

「あっ、ごめん」

 びっくりした竜崎さんはどうやら覚えた言葉はそれだけだったらしく、やめてと言えなかった様子だった。俺も気の利いた言葉を手話で用意していなかったから困ってしまったけれど、お互いの困った顔を見て、お互いで笑い合った。

 竜崎さんの声を変だと思ってしまったけれど、きっと俺の手話も変だったに違いない。でも、その溝は練習すれば上手くいくはずだし、俺たちはいいカップルになれると思っていた。
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